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パパは子育て担当?

「……? なんだ? どうかしたか?」


 わたしに呼び止められた殿下が尋ねてきた。

 あのまま帰る事もできたけど……

 放っておけないよ。


「……うん。あの……なんて言うか……辛いんでしょう?」


「……え?」


「いや……上手く言えないんだけど……殿下は……自分らしくできないっていうか……産まれる前から期待されて……名前さえ呼ばれなくて……たぶんだけど……周りの子が遊んでいる間も勉強して……そのうえ国を守らないといけないとか……」


 ダメだ。

 何を話そうか決めないで話し始めたから言葉に詰まっちゃったよ。


「……カサブランカ」


「だから……その……そうだ! 息抜きをして欲しいよ」


「息抜き?」


「うん。あのね? わたしのママも仕事中は偉そうな奴らと渡り合ってすごくかっこいいの。でも仕事が終わるといつも言っているの。『使者どもめ……これ以上好き勝手するなら弱味を握ってギャフンと言わせてやる。クソヤローめ』って。それでその後にわたしを吸うの」


「……え? クソ……ギャフ……? 吸う?」


「汚い言葉らしいんだけどわたしにはよく分からないの」


「……ママとは母親なのだろう? ずいぶん勇ましいのだな」


「あはは! うん! すごく強くてすごく優しくてすごく大好きなの!」


「……そうか」


「ママはすごく偉いんだよ? 冥……あ……国を守っているから……」


「国を守っている? では母親は女王なのか」


「パパが王様だけど……」


「母親がそれほど苦労しているのなら、王はもっと大変なのだろうな」


「え? パパ? うーん……」


「どうかしたのか?」


「え? あぁ……パパは王様としての仕事はしていないかな」


「……は?」


「いや、だからパパは……うーん……」


 ベリアルはパパの事を『自宅待機の暗殺者』って言っていたよね。

 でも、さすがにそんな事は言えないか。


「王は体調でも悪いのか? それで王妃が王の役割を?」


「え? 元気だよ? パパは……うーん……子育て担当……かな?」


 考えてみたら赤ちゃんの時、お風呂も離乳食も寝かしつけもパパがしていたよね。

 うさちゃんの記憶が戻ったから、卵にいた時パパが温めてくれていた事も思い出したし……

 

「王なのに子育て担当? 乳母はいないのか?」


「うば?」


「母親の代わりに乳をくれたり世話をする人だ」


「……? わたしはママのお乳で育ったけど?」


「王族なのに?」


「え? ダメなの?」

 

「ダメでは……ないが……」


「うーん……国によってやり方の違いがあるのかな? でも、それでいいんじゃない?」


「それでいい?」


「うん。パパはね、国を素敵に変えたの」


「国を……素敵に変えた?」


「うん。かなり前の事だけど……寒くて酷い場所だった国を、暖かくて穏やかにしたの。かなり苦労したはずだよ? 何もしないくせにケチばかりつけてくる偉そうな奴らが大勢いた時の事だから……」


 それでもパパとケルベロスは頑張ったんだ。

 冥界が住みやすくなるように……

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