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俺の彼女は猫系女子 《猫系女子シリーズ》  作者: 南条仁
第3シリーズ 『猫系女子のしつけ方』
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第10話:キスで揺れる想い

「優那ちゃん~。今日の放課後は私に付き合ってもらうからね?」


 放課後になると、彩華がにこやかな笑顔でそう言う。


「別にかまわないが今日はどこに行くつもりだ?」

「カラオケに行こうよ。今日は半額デーの日だもん」

「分かった。ここ最近は付き合いが悪かった。付き合うよ」


 優那の数少ない友人を大切にしなければいけない。

 こうして遊びに誘ってくれるのも面倒見のいい彩華だからだ。

 彼女とは中学時代からの付き合いがある。

 

「レッツゴー。今日は新曲で盛り上がろう」


 歌とダンスが好きな彩華の付き添いでカラオケにはよく行く方だ。

 優那も歌うのは嫌いではない。


「最近のアイドルの曲は歌詞が奥深いな」

「ゴーストライターさんが優秀なんだよ」

「……身も蓋もないことを。ただ、言葉の力って言うのは確かに感じる」


 想いを言葉にして歌にする。

 優那も歌を歌うことで力を感じることがある。


「歌ならば好きも簡単に言えるのに」


 想いを言葉にするのは容易くない。

 歌のようにはいかないのが現実なのだから。





 その後、カラオケで騒ぐだけ騒いで、優那達が店を出た時には6時過ぎだった。


「ふぅ、大満足。相変わらず、優那ちゃんの歌って上手だよね?」

「ただ昔、ピアノをしていたから音感が多少あるだけさ」

「いいじゃん。難しい曲でも音程を外さないって。たまにいるよね、音程のはずれた歌を歌う人って。ああいうのはちょっと……あれ?」

「どうした、彩華?」

「あれ、見て。あれ!」


 彼女が指をさすその先にいたのは――。


「先輩、今度はこっちのお店に行きましょうよ」

「そろそろ時間だぞ。帰らなくていいのかよ」

「いいんですっ。今は先輩との時間を楽しみたいのっ」


 千秋と亜沙美、恋人同士のふたりだった。

 デート中らしく、楽しそうに笑いあっている。


「恋人同士、か」


 優那はその姿を見ると何だか気持ちがざわめく気がした。


「ぐぬぬ。裏切り者の千秋君がいますよ?」

「別に彼は裏切ってなどいないさ。裏切ったと言うのなら、私の方が先だな」

「また自虐するし。千秋君もさぁ、もっと一途な所を見せてあげれば……」


 一度、千秋は優那に告白してくれた。

 勇気もいったはずだし、それ無下に断ったのは優那自身だ。


「彼が他の誰かを好きになるのも、誰かと付き合うのも、私がとやかく言うことではない。千秋に恋愛を勧めたのは私自身だからな」

「それもおかしい」

「おかしくないって。そろそろ、帰ろう。アイツもアイツで楽しんでるようだ」

「こんな中途半端なとこで帰っちゃうの?」

「人のデートを邪魔するほど私も無粋ではない。私は千秋が幸せそうにしているなら、それでいいと思う。私にはアイツの願望を叶えてやれないからな」


 千秋には幸せになってもらいたい。

 それが自分以外の相手だとしても――。

 だが、それに納得していないのが彩華であった。


「このふたり、面倒くさい」

「そうはっきりと言うなよ。傷つくぞ」

「優那ちゃんも千秋君のために身体のひとつやふたつ差し出せばいいじゃない」

「……彩華は時々、変な事を言うな」


 不満そうな彩華に肩をすくめて、


「なぜ、アイツに身体を差し出さねばならない。そんなのは他で解消してくれ」

「うぅ、優那ちゃんが冷たい」

「ああみえて千秋はエロい子だかな。性欲に関していえば野獣だ」

「それくらい彼女なら解消してあげなさい」

「彼女じゃないっての」


 何かと千秋と優那をくっつけようとする彩華だが、


「あらら。いつのまにかふたりがいない?」

「放っておけ。公園の方にでも入ったんじゃないのか」

「追いかけてみよう。ほら、優那ちゃんもついてくる」

「お、おい。下世話な真似はよせって」


 優那の手を取り、千秋のあとを彩華が追い始める。


「アイツのデートなど見たくもないんだけど」


 ストーキングをするのも恥ずかしい。

 公園まで追いかけていくと、案の定、千秋たちはベンチに座りながらいちゃついている光景を目にすることになる。


「ラブラブじゃないか」

「抱き付いてますよ。甘えまくりですよ。あー、腰になんて手をまわしちゃっていやらしい。千秋君ってえっちぃからなぁ」


 千秋が恋人と楽しそうに触れ合うのを見てると心が少し苦しい。

 そんな自分が一番嫌だった。


「……ごめん、彩華。もう限界だ、帰らせてくれ」

「私、意地悪かな」


 彼女はあえてこういう光景を優那に見せようとしている。

 それが彩華なりの考えであることも分かってる。


「優那ちゃんも乗り越えなくちゃいけないことがあるんだよ」

「それがこれだと?」

「……大事なモノを取られちゃった気がしない?」

「彩華は私に何を言わせたいんだ」

「後悔の気持ちがわいてこない? ホントの優那ちゃんはどう思ってるの?」


 胸の奥底で何かがざわめく感じはするけども。

 それが嫉妬だと言う事実を優那は未だにちゃんと認められない。


「何も感じない」

「ホント素直じゃないっ」

「彩華。だから、何を私から言わせたいんだよ」

「優那ちゃん自身が心の奥底に閉じ込めてる気持ち」

「気持ち?」


 こうやって千秋がいちゃつくシーンを見せられても、不愉快な気持ちにはなる。


――嫉妬。不安。不愉快。いろんな気持ちが混ざってる。


 ただ、それを表に出す気はない。

 それは優那には許されない。


「あっ」


 彩華が小さく声を出して口元を押さえた。

 ちらっと千秋に視線を向けると、千秋は亜沙美と唇を交し合う所だった。


――キス。


 千秋のそんな姿を見て、優那は思わず身体が震えた。


「――っ!」


 優那の目の前で亜沙美がゆっくりとねだるように目を閉じる。

 その先の行為を悟るが、優那はなぜか逸らす事もできずに幼馴染が他の女にキスをする姿を見つめていると激しく胸が痛んだ。


「あ、あらら。キスシーンは予想外。優那ちゃん、大丈夫?」

「べ、別に私はかまわないさ。千秋がどこで誰とキスしてようとも。あぁ、全然、私は気にしていない。キスひとつで動揺もしない、たかがキスで……」

「ゆ、優那ちゃん……? う、うわぁ。ちょっと、引っ張らないで~」


 彩華を連れて優那は逃げるようにその場を後にする。


――キスがどうした。キスくらい恋人なら普通にする。それが当たり前だ。


 なのに、どうして。

 こんなにも胸が痛む上に、心がざわつくのだろうか。


――だから嫌だったんだ。こんな気持ちになる自分が嫌だったから。


 見てしまった光景を忘れようと必死になりながら、

 

「もう帰る」

「こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ? 拗ねてますか」

「……別に私は拗ねてなどいない」

「その顔、鏡を見て言った方がいいと思うの」


――妬いてるというのか、この私が? 千秋相手に?


 そんなはずはない。

 優那と彼はただの幼馴染であり、恋愛関係は自由のはずだ。

 

――昔のように嫉妬などしない、してはいけない。


 なのに、脳裏によみがえるのは亜沙美のあの言葉。


『――先輩はずるい。あれだけ愛されてるのに』


 千秋の顔が脳裏にちらつき続けている。


――千秋……お前が今、一番好き相手って誰なんだ?


 自分が思い浮かんだことにハッとする。


「まったく、何をバカなことを……」


 それこそ、考えてはいけないこと。


「私は何を考えてるんだ。自分が傷つけた相手なんだぞ」


 彼の想いを知り、それを断り。

 他の相手とくっつけようとした本人が何をいまさら。

 自分の行動のまぬけさに優那は恥ずかしくなる。


「人を振り回して、翻弄して。どこまで自分勝手なんだよ」


 そう自嘲する優那に親友は真顔で言うのだ。


「優那ちゃん。自分の心に素直にならきゃダメだよ」


 自分の心に素直になる。

 今の優那に必要だけど、してはいけない行為。


「素直になれるはずがないじゃないか」

「決めつけないで。恋の悩みは苦しんで、乗り越えてこそ価値があるんだよ」


 彩華にとっても、優那の動揺は狙い通り。

 その恋を未練で終わらせてはいけない。

 キスに揺れ動く心。

 優那は自分の気持ちがよく分からなくなってしまっていたんだ。

 早足でその場を立ち去るしかできない優那であった。


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