お兄様は私を宝飾品店に連れて行って、私の物を色々買ってくれました
私はそのまま屋敷に帰ると思っていたのだ。
「もう、帰ってこられたのですか?」
「今日は視察か何かで?」
ダンジョンから出てくると、あまりの早さに騎士達は驚いて私達を見ていた。
まだ2時間くらいしか経っていない。まさか、最奥まで行ったとは誰も思っていなかった。
「ユリアーナ様。最奥の湖では六時間で昼夜が逆転するのです。夜の土蛍がとても幻想的だそうですよ」
騎士の一人が私に話しかけてきた。
「はい、本当に幻想的でした」
「えっ、あの光景を見られたですか?」
騎士は驚愕して私達を見た。
「お兄様に連れて行ってもらいました」
私は頷いたのだ。
「最奥のラスボスは倒してきた」
「えっ?」
「まさか?」
お兄様の言葉に騎士達には信じられないみたいだった。お兄様はしかし説明する気はないみたいだった。
「じゃあ、ユリア、行くぞ」
お兄様が私に声をかけてきた。
「はい。では皆さんお仕事頑張ってく……」
お兄様は私の言葉の途中で転移してくれたのだ。
私は転移したら屋敷に帰るものだと思っていた。
でも、転移した先は王都の繁華街のまっただ中だった。
それも石畳の貴族御用達の高級店が連なる一角だった。
私達の迷彩色の戦闘服はとても目立つんだけど……
それもお兄様は相変わらず私を抱き上げたままだし……
お兄様はお構いなしだった。
その中の超高級宝石店にお兄様は入っていったのだ。
確か『星の雫』とか言う名前で、貴族達に人気の店だった。
それも私を腕に抱き上げたままなんだけど……
「ちょ、ちょっとお兄様」
私は驚いた。こんな場違いの格好では無くて、せめて着替えてから来てほしかった。
「お客様。当店はご紹介状の無いお客様はご遠慮頂いておりまして」
若い男が慌てて私達に駆け寄ってきた。
こんな格好で来るからこうなるのよ!
でも、この男、貴族御用達の店にいるのに、お兄様の絵姿見ていないの?
いくら迷彩服着ていてもこの顔見たら判るでしょう! これでも一応公爵家の嫡男なんですけれど……
「責任者を出せ」
お兄様はむっとした顔をして男を睨み付けていた。
店員達が唖然としてお兄様を見ているんだけど……
「当店のオーナーは面会予約の無いお客様にはお会いになりません」
私が必死にお兄様の腕の中で合図しているのに……男は頑なに言い張った。
もうどうなっても知らないんだから。
私はお店とこの男のためにそう思った。私がいるからある程度は抑えるけれど、それでも限度がある。お兄様が怒ったら、こんな店一瞬で物理的に消え去るし、お兄様の不興を買ったら我が公爵家出入り禁止にしかねないんだけど……
そもそもお兄様も何でこんな店に来るんだろう?
ツェツィーリア様に宝石でも贈るの?
なら、本人とドレスアップしてくれば良いのに!
私は少し悲しくなった。
いくら妹だからって恋人に対しての宝石選びに付き合わせる?
それに私はその方のセンスはないんだけど……連れてくるならその方面に強いお姉様でしょ!
私が思っているときだ。
ダンッ
店の奥の扉が大きく開いて、女の人が慌てて飛んできた。
文字通り本当に飛んできたのだ。
それくらい慌てていた。
女の人はいきなり若い男の頭を叩いて、頭を下げさせたのだ。
「も、申し訳ありません。店員の教育がなっておりませんで」
女の人は青くなっていた。一緒に頭を下げる。
「し、しかしオーナー」
「お前は黙っていなさい。こちらはホフマン公爵家令息アルトマイアー様とユリアーナ様よ」
その声を聞いて若い男もぎょっとした。
「気付きませんで、申し訳ありませんでした」
若い男も顔面蒼白、平身低頭した。
「お兄様がこんな格好で来るからよ」
私が怒ってお兄様に言うと、
「仕方があるまい。屋敷に帰ってからもう一度出直すのは面倒だからな」
お兄様はそう言うけれど、誰が冒険者の格好で高級宝石店に来るのよ!
私は文句を言いたかった。普通貴族ならこういう所は着飾って来るものだ。
まあ、私も来たことはなかったけれど……普通私はこんなところには来ないのだ。
「まあ、ここでは何ですから、よろしければこちらへどうぞ!」
私はオーナーに丁重に奥の個室に案内されたのだ。
お兄様に抱き上げられたままの私はとても恥ずかしかったけれど……
さすがに個室に入ったらお兄様は私を下ろして席に座らせてくれた。
膝の上に座らせようとしたのはさすがに拒否した。
そこに茶菓子が出てくる。
そのお菓子は半透明でぷるぷる震えている。
ひょっとしてこれは寒天を使った和菓子では無いかと私はとても期待した。
「この度は店員が失礼な態度を取って申し訳ありませんでした」
オーナーが改まって頭を下げてくれた。
「いや、このような格好できた我々が悪いのだ」
お兄様が我々って言うけれど、私は付き合わされただけだ。
「そう言って流して頂けたら幸いです。ありがとうございます」
オーナーはほっとした様子だった。
でも、私はそれよりもこのぷるぷる震えるお菓子がとても気になった。
「どうぞ、お召し上がりください」
オーナーがそう言ってくれたので、私はスプーンですくってそれを口の中に入れたのだ。
「美味しい」
私は思わず口走っていた。
これは寒天を使った透明感あふれる夏のお菓子だ。
「お気に召して頂けて良かったです。近くの菓子店が売り出した夏羊羹というお菓子だそうで」
オーナーが説明してくれた。
私は店の名前を聞いて、絶対にまた買って帰ろうと思ったのだ。
「それでアルトマイアー様。本日の当店ご来店の御用向きは」
オーナーがお兄様に聞いていた。
私は関係無いとそのお菓子に舌鼓をうっていた。
「実はこの魔石をこのユリアーナのネックレスにして欲しいのだ」
お兄様は先程二人で水竜を退治して取り出した青い魔石をオーナーの前に置いてくれた。
でも、私はそれどころでは無かった。私の名前を聞いた瞬間、私は美味しそうに食べていた和菓子を吹き出しそうになって、咳き込んだのだ。
「ユリア! 大丈夫か? 菓子が喉に詰まったのか! 本当にそそっかしい奴だな」
お兄様が私の背中を叩いたり、オーナーも慌てるしで本当に大変だった。
違う! お兄様が私に宝飾品を作ると言ったら驚いたのだ!
私は涙目でお兄様を睨んだんだけど、お兄様はびくともしなかった。
「まあまあ、さようでございますか。お二人のお仲はお宜しいようで」
唖然としている私をほっておいて、お兄様とオーナーで細かいことを打ち合わせしているんだけど。
唖然としているうちに、私は係の女の人に首周りを図られたりした。
その間、お兄様とオーナーは大いに打ち解けて、私の指輪や髪飾りやら、どんどん増えていって、私は蒼白になったのだ。
私はそんなに要らないって言ったのに、
「ユリアーナ様もこれからは貴族のお付き合いもございますでしょう」
「そうだぞ、ユリアーナ。これから俺と出かけることもあるだろう。そんな時に着けるものがないとな」
お兄様はとても上機嫌で私の物を選んでいくんだけど、色も青とか金色が多いような気がする。ツィツェーリア様の分は選ばなくて良いの?
私にはよく判らなかった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
お兄様の色の物を一杯買われるユリアでした。








