お兄様視点 ユリアと婚約するために必死に頑張ることにしました
俺の妹のユリアはとても可愛かった。
「お兄様!」
と言って良く俺の膝によじ登って来た。
女だてらに訓練をさせるのはどうかと父や執事は文句を言ってくれたけれど、
「あと少しだ。頑張れ」
俺がそう言うと、
「頑張るわ」
と言って、疲れていても必死に付いてこようとするのだ。
こんな妹は初めてだった。
そう言って感激しているとエックは生暖かい視線で俺を見てくるし、
「こんな妹は初めてってそもそも兄上の訓練に付いてこれる女なんてユリア以外にいる訳ないよ。そもそも男でも大半はついて行けないのに!」
フランツは減らず口を叩いてくれた。
「フランツ、お前も少しはユリアを見習え!」
俺が発破をかけると
「ユリアになんか合わせていたら死にますよ」
と平然と転けたまま叫んでくれたので、
「根性が足りん!」
とメニューを倍にしてやった。
リーゼが張った罠でマイヤーの礼儀作法の授業を受けさせられて、とても苦しんでいたけれど、ユリアも今後公爵家の令嬢として振る舞うなら必要だろう。
俺はそう思うことにした。
それにその授業の後、俺に更にくっつくようになったのだ。こんなに可愛い妹はいなかった。
妹は授業の後は俺に抱きつくか、ピー助に抱きついて、「癒やされる」とか言って幸せそうにしているかどちらかだ。
時にそのペットのピー助と俺がユリアを取り合って喧嘩する時もあるが、それ以外は概ね平和だった。
俺が10歳の時に、王妃様のお茶会にクラウスの婚約者と側近を決めるために呼ばれた。
まあ、俺としてはいずれ、父の後を継いで近衞騎士団長を継ぐのは決まっているから、そのようなところに行っても仕方があるまい。
それにそういう所では女どもにつきまとわれて鬱陶しい。
まあ、俺が将来は公爵家を継ぐのは確実だし、俺と親しくなってあわよくば公爵夫人になれるからかもしれないが、俺としては面倒なところに行きたくはなかった。
女はユリアだけいれば十分だ。それとたまにはリーゼも…………
その2人がいればもう十分だ。
それよりは父のいる近衞の訓練場で騎士達相手に訓練をしたかった。
近衞は顔だけ良い騎士が王妃の好みで配属される事もあるみたいだが、大半の騎士達は父に訓練されていて公爵家の騎士達と練度は変わらなかった。
それに副騎士団長のハーロルトは俺と強さが同じくらいなのだ。良い練習相手だし、是非とも手合わせしたかった。
リーゼ以外の全員で王妃のお茶会をサボって訓練場に行こうとしたのだが、ユリアはリーゼのデザートに釣られてお茶会に一緒に行くことになったが、まあ、リーゼ一人だけ行かすよりはユリアもいた方が良いかもしれない。
俺はユリアがお茶会に行くのを仕方なしに認めたのだ。
でも、それが間違いだった。
ユリアは王妃の顔だけ騎士を弾き飛ばして、果然皆の注目を浴びてしまった。
それでなくてもユリアは可愛いのに、そんな目立つことをすれば注目されるではないか!
案の定、お茶会の後に山のような釣書がユリア当てに届くようになったのだ。
「父上、どういう事ですか?」
俺が父のところに怒鳴り込みに行くと
「それは俺が言いたいわ。本来、貴様がお茶会に出て、適当な相手を探させようと思っていたのに、いない貴様が悪い」
父の機嫌もとても悪かった。
「俺は今はまだ相手は要らないです。もっと強くなりたいですし」
俺が断ると
「しかし、貴様も公爵家の嫡男でそろそろ婚約者を決めた方が……」
「学園で帝国からの留学生だった母上を捕まえられた父上がそれを言うのですか?」
俺が執事達から聞いた父と母の馴れ初めに言及すると、
「いや、まあ、それはそうだが」
「俺は自分にあった相手以外は要らないですから」
キャーキャー煩いだけの女は不要だ。
「お前はどんな女性が好みなのだ?」
父が聞いてきたが、
「母上みたいに優しくて、まあ、出来たらそこそこ強くて一緒にダンジョン潜れたら最高ですね」
「お前、貴族の令嬢でダンジョン潜れる人間なんてユリアくらいしかいないだろうが!」
父が言う通りだった。
まあ、ユリアとは血がおそらく繋がっていないし、可愛いし、一緒にダンジョンにも潜れるし、パートナーとしては最高だった。
そう言えば古い物語に、小さい女の子を自分好みに育てるとか言う物語を昔読んだことがあって、なんて変態趣味なんだと嫌悪したけれど、俺は知らないうちにそうしているのかもしれない。
いやいや、ユリアはまだ6歳だ。こういうことを考えて良い年齢ではない。
「まだ早すぎるでしょう」
俺は父に言い含めて悉く断りの手紙を送らせたのだ。
俺は13歳になってから王立学園に通い出した。
王立学園で学ぶ内容についてはほとんど家庭教師について習っていた。
将来公爵家を継ぐに当たっていろんな生徒らと顔を繋ぐ事がとても大切だからと父からは言い含められたけれど、学園では既に剣術で俺に敵う奴はいなくてとてもつまらなかった。
それに俺に群がり来る女達が本当に鬱陶しかった。
父としては俺に新たな出会いを期待していたようだが、俺の眼鏡に適うものは出なかった。
「お兄様頑張ってね」
と毎朝ユリアが見送ってくれなかったら、絶対にサボっていたと思う。
そして、帰ってきて俺を出迎えてくれたユリアをそのまま抱き上げて、その日何があったか、お互いに報告する時間が至福の時間だった。
でも、二年生になって生徒会の仕事をさせられるようになると、帰る時間が少し遅くなってユリアとの一緒の時間が中々取れなくなった。
俺はとても不機嫌になったのだ。
悩ましいことにユリアはますますきれいになってきた。
そして、ユリアに届く釣書も全然減らないのだ。
更にはリーゼの婚約者であるクラウスが時たま我が家に来ているようなのだが、ユリアを見る視線が何かとても怪しかった。
そういう時はクラウスに剣を取らせて完膚なきままに叩き潰しておいたのだが、クラウスはそれくらいでは心折れないみたいだった。
俺は危機感を覚えた。このままでは俺がいない間にどこからかユリアの好きな王子様が現れて、ユリアをかっ攫って行きそうだった。
俺は思い余って父にユリアと将来結婚したい旨を打ち明けたのだ。
「なんだと、可愛いユリアを貴様にやれる訳はなかろう!」
父は最初は相手にしてくれなかった。
何を言っても聞いてもらえなかったので、俺は何回も剣で父に勝負を挑んだのだ。
俺は父にボコボコにされても何度も何度も挑戦した。
「ちょっともう、お兄様止めてよ」
涙ながらにユリアが頼んできた時もあった。
「ちょっとお父様、酷すぎるわ。最低!」
ユリアの怒りは父に向いたのだ。
「えっ?」
父にとってユリアの一言は青天の霹靂だったみたいだ。
「いや、ユリア、これは訓練であってだな」
「お兄様をそこまでボコボコにするなんて酷いわ。最低!」
更に父に止めを刺していた。
「次は私がやるわ」
その上、剣を握ってユリアが乱入してきた。
でもユリアではまだ、父に勝てる訳はなかった。
しかし、父としては愛しい娘のユリアと剣なんか交えたくなかったと思う。
だが、ユリアは中途半端な剣では父といえども対処出来ないのだ。
父としてもとてもやりづらそうだった。
最後は父が強く剣を振ってユリアを地面に叩きつけていた。
「判った、アルト。貴様がどうしてもと言うのならば考えないでもない」
思いあまった父がその夜俺を呼んで条件を出してきたのだ。
条件は3っつ。
一つ目は生徒会の仕事を卒業まできちんとやること。
これは嫌だったが、条件と言われれば仕方がなかった。
二つ目は俺が卒業の時に主席であること。
「えっ、主席を取るのですか?」
俺は唖然とした。ある程度の成績は取れたし、剣術は他を圧倒していたが、俺は古語である帝国公用語が苦手だった。これが足を引っ張っていたのだ。
「ユリアーナは楽々とやっているぞ。それを娶ろうと思うならば当然の事だよな」
そう父に言われたら返す言葉がなかった。
それに今年は俺の1つ下のエックが主席で入ってきたのだ。下手したら主席で入れなかったのは俺だけと言うことになりかねない。何しろ俺の下は皆優秀なのだ。
「卒業くらいは一位でいないと兄貴としての威厳がなくなるぞ」
とまで父に言われたらやるしかなかった。実際にユリアまでやらなくていいのに、主席入学してくれた。
そして、3つめこれが最難関だったが、卒業までに父に一回でも勝てることだった。
俺はそれから死にもの狂いで勉強と剣術に取り組んだのだった。
ユリアを絶対に自分のものにするために、俺は死にもの狂いで頑張ったのだった。








