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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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くだらないばか話 ②

「なんや、もう終わりなん? しゃあないなぁ……」


 おかきが原稿を引き裂いた途端、糸が切れたかのようにウカの身体が崩れ落ちた。

 そして身長はたちまち萎んでいき、四本の尾は一本に統合され、おかきたちも知る元のウカらしい姿へと戻る。

 すぐさま麻理元が駆け寄って脈を確認、特に異常もなく忍愛に向けて親指を立ててみせた。


「お、終わったぁー! よかった、これ以上はボクもキツかった!!」


「間一髪間に合ったようだな、おかきはよくやってくれたよ」


「そうだ、新人ちゃんは?」


 ウカの暴走が泊まったということは、原因となった画竜点睛が解決したということだ。

 だが忍愛が振り返ると、ちょうどおかきが護衛対象であるはずの命杖に頭突きをブチかましているところだった。


「新人ちゃーん!?」


「止めないでください忍愛さん、このメリバ狂信者には鉄拳制裁が必要です!!」


「おふううぅぅおぅおぅ……こ、これが神話生物をクリティカルで吹き飛ばしたおかきちゃんの頭突き……」


「なにそれその話も気になる! けど今は駄目、落ち着きなって新人ちゃん何があったのさ!?」


「この人が犯人です、いつかはやる人だと思ってました!」


「ひどい」


「おかき、原稿は破壊できたんだな? なら時間はまだあるから落ち着いて聞き出せ、そこの道化も捕縛しなければならんからな」


「チッ、バレていたか……」


 麻里元は冷静におかきを命杖から引きはがし、地を這うジェスターの外套を踏みつけて逃亡を阻止する。

 物語が役割を終えたことで吹き抜けた天井から見える空模様も元通りだ、部屋中に繁茂した植物もみるみるうちに萎れていく。

 部屋の異常空間ももうじき消える、外部空間との接続が戻ればSICKは速やかに撤収しなければならない。 つまりおかきが犯人と対話できる時間はそれほど残されてはいないのだ。


「……ああ、本当に“あの”おかきちゃんなのね。 小さいのに美人すぎると思ったのだけど、中身は早乙女君で合ってる?」 


「ええ、何の因果か今は“藍上おかき”ですけどね。 先輩はこういうの知っているんじゃないですか?」


「まさか、私が知ってるのはこの不思議なペンだけ。 早乙女君とこんなところで再会するなんて思わなかったなあ」


「……先輩はどうしてこんなことを?」


「んー……最初はね、“神さま”と接触するのは私のつもりだった」


 命杖は切り裂かれたドレスの上におかきから渡された上着を羽織り、腹部に取り残された原稿の残骸を掻きだす。

 原稿用紙としての形状を汚損した時点で画竜点睛の効果は消失した、もはやこの残骸たちに意味はない。


「ネタバレになるけど、女の子は“神さま”に接触して願い事を叶えてもらう予定だったの。 だけどあなたたちが来たことで配役が狂っちゃった」


「……そうか、私が少女の役を乗っ取った」


「ええ、だから私の願いは叶わなくなっちゃった」


 命杖は画竜点睛を悪用し、自らに役柄を配ることで異常な存在に接触しようとした。

 だけどそこに現れたイレギュラーがおかきたちだ、 物語はより配役に適した存在を選び、その結果がこの巨大な植物園と化した部屋だ。


「おばあちゃんからもらった万年筆の力に気づいたのはずっと前。 このペンで日記を書くといろんなことが起きたの、だから今回はものすごく頑張って下準備をしたんだけどね」


「……先輩は、“神さま”に出会って何がしたかったんですか? まさか世界を無茶苦茶にしたかったとか」


「また卓が囲みたかったの」


「はっ?」


「仕事の片手間にね、いろんなシナリオが頭の中に沸いてくるの。 だけど時間もなければスケジュールなんて合うわけがない」


「……だから、わざわざこんな面倒なことまでして?」


「うん、大人になるほどあの学生時代が輝いて見えた。 毎日みんなでいろんなシナリオで遊んで、ダイスに一喜一憂して、本当に楽しかったぎゃふんっ!」


 昔を懐かしむフェイズに入った命杖の頭に、再びおかきの頭突きが叩き込まれる。


「そんっっっっな事のために、何しでかしたか分かっているんですかー!! いい話みたいに取り繕ってますけどどれだけ被害が出たのか分かっているんですか先輩!?」


「だ、だってこんな大事になるとは思ってなくてぇ……!」


「むしろこの程度で済んだことを喜んでください、仕事で鬱憤が溜まっているのは分かりますけどやらかすスケールが馬鹿げているんですよ! 先輩のシナリオそんなのばっかりですよねぇ!?」


「でも大きな力を持ったラスボスの動機が小さくてくだらないってのはみんな大好きじゃない!?」


「しーりーまーせーんーよーそーんーなーこーとー!! 局長、判決を!!」


「まあSICKとして聞き捨てならない動機ではあるが、被害の大半はサーカス団が原因だ。 無知は罪とも言い切れない」


「だけど故意に画竜点睛の特性を使用したことは事実です」


「そうだな、ひとまず彼女の身柄はSICKで預かって精査が必要だ。 問題の万年筆も回収したい」


「あっ、それならここに……」


 麻里元に促された命杖は、原稿と同じくコルセットに隠していた万年筆を取り出す。

 祖母の形見である遺品だが、画竜点睛の発生源となる以上はSICKで回収しなければならない代物だ。

 事前に配布された資料と特徴が一致すること個を確認し、おかきが受け取ろうと手を伸ば――――


「――――WHO(フー)! 素敵なペンだなマドモアゼル、俺のマッキーと交換しねえか?」


「…………え?」

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