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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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爆笑 ⑤

「う、ぐぅぅ……爆発オチなんて最低じゃんかぁ……!」


 おかきと麻里元が合流したころ、フロアホールはひどいありさまだった。

 発表会を祝う花輪や調度品はすべて爆風でなぎ倒され、床には絨毯の代わりにひき潰されたひよこたちによる赤いカーペットが敷かれている。

 嵐が過ぎ去ったようなフロアに無事な者はいない、ただ一人を除いては。


「HAーHAHAHAHAHA!! 大・爆・笑ってなぁ、最高だろぉ!?」


「笑えないんだよ、なにもかもぉ……!」


 もうもうと沸き立つ煙の中から、シルクハットについた土ぼこりを払いながらクラウンが現れる。

 彼の髪の毛はボリューミーなアフロヘアとなり、顔には煤汚れも付着しているがそれ以上の負傷はない。


「笑えよ、人生ってもんにはいつだって笑いが必要だ。 泣いて苦しんでばっかりじゃすぐに死んじまう!」


 誰かだった肉片をグシャグシャと踏みつぶしながら、独りピエロがへたくそなダンスを踊る。

  至近距離で爆発に巻き込まれた忍愛は、床を舐めて這いずることしかできない。

 瞬時に床のタイルを脚力で踏み抜き、めくり上げた石の壁でわが身を守ったが、それでも爆破の衝撃は殺しきれなかった。


「見ろよ、こいつら自分が何で死んだかもわからずくたばっちまったんだぜ? とんだ喜劇じゃねえか、笑っちまう!」


 クラウンは腹を抱えてゲラゲラと笑う、その声に合わせて周囲から複数人の笑い声が被せられた。

 まるでバラエティ番組のゲラのように、凄惨な光景の中で木霊する無数の笑い声はとても笑えるものではない。


「ありがとよ、俺を笑わせてくれてありがとう! あんたらの命は無駄にしねえ、尊かった! お前たちの分まで俺がみんなを笑わせるからな!」


「……黙れよ、笑えないって言ってんだよ。 こっちなんて3人だけでも手いっぱいなんだぞ」


「そりゃ滑稽だな、笑えるぜ!」


 忍愛の背後には、気絶した民間人が折り重なって守られている。

 3人。爆発の瞬間、彼女が手を伸ばしたとっさにかばう事ができた限界の人数だ。

 避難が完了していない民間人はまだ数多く残されていた、その中のたった3人。


「HAHAHAHAHA!! なんだよあんた、良い笑いのセンスだぜ! たった3人!? 参ったぜ俺の負けだ、あんたの方がおもしれえや!!」


 クラウンに重なり、何人もの声が忍愛をあざ笑う。

 それはバラエティやコントを見てこぼす笑い声ではなく、他人を侮辱する嘲りだ。

 わずかな時間で懸命に届く範囲の命を守った、山田 忍愛を嗤っている。


「HAHAHAHAHA!! おもしれえ、気に入ったぜあんた! 俺とコンビ組もうぜ、あんたなら最高のピエロになれる!」


「……へぇ、なんやうち抜きで面白い話しとるなぁ?」


「―――――あぁん?」


 氷点下の温度が籠ったその声に、虚空から響くゲラが鳴り止んだ。

 同時に、怒りと痛みで歯を食いしばっていた忍愛の顔が瞬く間に青ざめる。


「オーウ、なんだあんた? ちょっと見ない間に髪切った?」


 爆発の余韻が去り、土煙の中からウカの姿があらわになる。

 彼女の背丈は普段の姿から伸び、顔立ちや体つきもやや大人びた雰囲気へと変わっていた。

 なにより忍愛が恐怖したのは、ウカの背後に見える尻尾の本数だ。


「……よ、よよよ……()()だ……」


「うふふ。 やーまーだぁ、ちょっと待っとってな」


「ヒッ」


「おいおいおい、俺のことは無視? 連れないねぇ、ピエロは無視されると死んじまうんだぞ!?」


 自分の存在が見えないように振舞うウカがピエロとしてのプライドに障ったのか、クラウンの顔が温度計のように下から上へと赤く染まる。

 次に彼が自らの背広を広げると、その下から夥しい数のミサイルが顔を覗かせた。

 カートゥーン調の表情がペイントされたミサイルは、あきらかに背広で隠せるような量ではない。


「お、おいおいおいおいやめなよやめときなよぉ。 死にたくなかったら今すぐ逃げろ、その方がお互い被害が少なくて済むからさぁ!!」


「冗談はよし子ちゃんだぜ相棒、ここで逃げたらピエロが廃らぁ!!」


「誰が相棒だボクを巻き込むな!!! 死ぬなら一人で死ね!!!」


「なんや、面白い玩具やねぇ……けど金臭かなくさいのは嫌いやさかい」


 大量の火器を突き付けられているというのに、ウカは涼やかにほほ笑む。

 そして防御でも回避するでもなく、彼女は片手の人差し指と中指で刀印を結び、ただ一言だけをつぶやいた。


「―――――おん


「……へぁ?」


 ゴトリと重い音を立て、無数のミサイルがすべてクラウンの背広から剥がれ落ちる。

 カートゥーン調のフェイスペイントは跡形もなく消え去り、錆びついた表面から徐々に風化して崩れていく。

 ミサイルだけではなく、クラウンが身に着けている時計やネックレスなどと共に。


「ああ、ええなぁ。 これでちっとはええ男になったんとちゃう?」


「…………あー、やべえなこれ。 神格モンか? どうなってんだ相棒」


「二度とその愛称でボクを呼ぶな。 そして命が惜しいなら見逃してやるから逃げろ、四尾のセンパイはボクらでもどうなるかわからないんだぞ!」

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