不敬罪 ③
「……間違いない、このペンダントの中に機器が埋め込まれてるね。 この性能ならSICKにいる限り電波も届かないけど」
「そういうのって相手もハイパーすごすごテクノロジーで貫通してくるんじゃないの?」
「過去改編の限界やろな、あり得んような設定は挿入できないっちゅうところか」
「まあこれもかなり高スペックな発信機なんだけどね、このサイズでスマホのGPSよりずっと精度が高いぜぃ?」
宿舎に王子を寝かし直した後、キューさんたちはその首から外したペンダントを囲んで眺めていた。
専門的なことは分からないが、キューさんが手に持っている機械で測定した結果、予想通り王子のペンダントから発信機の反応を感知したらしい。
「キューさん、その発信機は取り出せそうですか?」
「んー……いますぐ無傷で取り出すのは難しいかな、壊していいなら簡単だけども」
「出来れば穏便にお願いします……」
「わかってる、発信機ごと形見の品を破壊するような真似はしないさ。 とりあえず電波を遮断する収容箱にしまっておこう」
キューさんの返答に私はほっと息を吐く、懸念していた事態は懸念で済んだようだ。
王子に残された数少ない母親とのつながり、それが無粋な発信機のせいで壊されてしまうのは忍びない。
蒼い琥珀のような透き通ったペンダント、その中に埋められたゴマ粒ほどの小さな機械がなんとも憎々しい。
「……キューさん、明日イオルドは空港に姿を現すはずです。 必ずそこでやつを捕まえましょう」
「おうとも、おかきちゃんが燃えてらぁ」
「おかきだけとちゃうで、うちもだいぶムカっ腹や。 どんな大義名分か知らんけど子ども狙うような奴に慈悲はいらん」
「神サマに見捨てられちゃおしまいだね、じゃあ明日はどうやってあのヒゲおっさんをボッコボコにする?」
「おっと、ちょっと一旦ストップ」
加熱しそうな議論を止め、キューさんは職員お方が持ってきた黒い箱に王子のペンダントを収納する。
念には念を、位置送信だけではなく盗聴の可能性も踏まえての措置だ。
「……うん、これで万が一にでも会話が盗み聞かれる可能性はない。 いくらでも報復作戦を話し合ってくれて構わないぜ、ただし殺しはなしだ」
「ヤクザとちゃうねんぞ」
「そうだよいくらパイセンが根っからのヤンキータイプだからってア゛ァ゛ー!!! 僕の可愛いお手手が可愛くない方向に!!!」
「まず前提として敵の過去改変が厄介だよねー、効果範囲も予備動作もわからないから行動も読みにくい」
見事な肘固めが決められる横で、眉一つ動かさず話を進めるキューさん。
ペンダントの異変に気付く前の話し合いでは、大まかに「改変能力を使う間もなく畳みかける」という方針は決まっていた。
だが具体的な詳細についてはまだ詰められておらず、相手の手札次第ではイオルドを逃がしてしまう恐れもある。
「狙撃や知覚外からの奇襲は向こうも警戒しているでしょうね、なにより人質がある限りは下手に手出しができない」
「ちゅうか王様はヴァルソニアの宮殿に捕らえられとるんやろ、SICKで救助できひん?」
「無理だね、ヴァルソニアは実在しない。 情報として存在するとされる座標に行ったところでそこにあるのは海原ばかりだ、君たちにも最初に映像は見せただろう?」
「たしかにそうなりますか……」
「実在はしないしおいらたちから手を出せないが、人質が殺されると大変困る。 なんとも理不尽な話だよまったくまったく」
軽い態度だが実際問題大変厄介だ。
もしイオルドを無力化する際に少しでも手間取れば、この世のどこにも存在しない王様が殺される。
そうなればヴァルソニア王国を含む歴史の大幅修正が発生し、現在の歴史にどんな影響があるかは未知数。 私たちは無血でこのクーデターを収めなけれならない。
「仕掛けるタイミングが重要だな……イオルドが外部へ連絡を飛ばす隙、あるいはクーデターの失敗を悟らせる隙を与えちゃいけない。 一瞬で100%相手を降伏させる必要がある」
「無理難題を言うてくれるやんけ」
「おいらもそう思うけど方法はあるはずだぜ、こっちだって向こうが持っていない手札はいっぱいあるんだ」
「……1つ、案があります」
おずおずと手を上げた私に2人(と倒れ伏す忍愛さん1人)の視線が集まる。
上手く行く保証もないが、このとんちのような難題を解くための手段を1つ思いついてしまった。
――――――――…………
――――……
――…
「んぅん……母上ぇ……」
「おはようございます、お目覚めですね王子」
「デスッ!? ……あ、おかきさんデスか……」
寝ぼけ眼をこすった王子が跳び起きる。
枕もとに立って待っていたのは心臓に悪かったか、少々悪いことをしてしまった。
けど時間に余裕がない今、あまり悠長な真似をしてはいられない。
「王子、寝起きで悪いのですが今の状況は覚えていますか?」
「えっと、僕は……そうだ、父上は!?」
「まだ指定された時刻は過ぎていません、存命のはずです。 まずは深呼吸して落ち着いてください」
「そ、そうデスか……よかった……」
大きく息を吸って吐き、取り乱した心を落ち着かせる王子。
こうしてじっくり観察するとやはりまだまだ幼い子どもだ。
だからこそ心苦しい、これから私はこの子に辛いことを頼まなければならないのだから。
「落ち着きましたね、お水をどうぞ」
「あ、ありがとうデス……」
「ところで王子、1つお願いがあるのですがよろしいでしょうか」
「はい? なんデスか?」
「脱いでください」
「ブフゥー!!?」
寝起きで乾いたはずの喉を潤すはずだった水が王子の口から噴出される。
あれ……なにか間違ったかな?




