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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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過去よりの亡霊 ①

「ひーん、パイセンってば本気で殴ったぁ! 父さんにも割と殴られたことあるのに!」


「いつまで泣いとんねん、まだまだ本気ちゃうわ」


「ひーん、やっぱボクより断然ゴリラだよこの人! ゴリラキツネ!」


「ホンマに本気でシバいたろか」


「君たちぃ、これ以上おいらの胃をいじめる前に仕事してくれ仕事を」


 おかきが無事に甘音と合流したそのころ、胃薬を飲み干した宮古野はおかきたちとは逆方向に車を走らせていた。

 なにもおかきたちの位置を見失っているわけではない、宮古野たちの目的は“陽動”だ、 


「ところで山田っち、追手の気配は?」


「山田言うな、今のところボクのセンサーにピンとくるものはないね。 誰もおってこないかよほどの手練れだよ」


「お嬢のエントリーは想定外なはずや、まずこっちの策がばれたってことはないと思うんやけど」


「そうだねぇ、大事な大事なスポンサー様の御令嬢だ。 まさかドンパチやってる渦中に放り込んで一番危険なところへパシらせてるなんて思いつかないし思いつけないぜアッハッハ!」


「やっぱキューちゃん怒ってない?」


「そら怒るやろ、ホンマ無著な作戦考えたもんやな」


「まあ上手く行っている以上怒れないが……もし彼女の身に何かあったら君の首が物理的に飛ぶ覚悟をしておけよ」


「パイセンにやれって言われました」


「しばくぞ」


「さて……冗談はさておきだ、どう思う?」


 曖昧な言葉だが、宮古野の示したい言葉は2人にはおのずと理解できた。

 3人の役割は如何にも自分たちが「王子を見つけた」と言わんばかりに市中を走り回り、襲撃を仕掛けた人員を引っ掻き回すこと。

 だというのに自分たちを追いかける気配は感知できず、せっかくの陽動は全く手ごたえがない。


「繰り返しになるけどガハラ様の顔がばれてるってことはないと思う、もしバレてたらすでに動きがあるはずだよ」


「そうだね、念のため位置情報と緊急信号を発信するアプリを持たせてある。 テロリストと遭遇したならおいらのスマホに通知が届くはずだ」


「案外スマホ触る暇もなく即死してるんとちゃうか?」


「それはない……と考えたい、相手としても王子と接触するまでは泳がせるはずだし……うーん」


「新人ちゃんがスマホ落としてるのが痛いよね、お互い連絡取り合えれば楽だったんだけどさ」


「それもこれもあの花火が悪いわな。 なあキューちゃん、おかきが言うてたことってホンマか?」


「車を狙うあの狙撃花火が過去改変によって設置されてた、って話だね。 すでに人員を派遣して予想発射地点の精査を頼んである」


 宮古野がウカたちへ見えるように、手元のタブレットをひっくり返す。

 カメラに向けてピースするエージェントの背後には、地面に埋め込まれた砲門のようなものが映っていた。


「いや砲門そっちメインに写さんかい! なにノリノリでピース決めとんねん!」


「エージェント・小杉は去年のSICK写真コンテストで準優勝を果たした猛者なんだぞ」


「だからなんやねん!」


「だいぶ年季入ってる砲筒だねー、いつから設置されてたの?」


「色々調べたところ、5年前にすでに準備されていたと思われる。 祖国ならともかく王子が来るかもわからないこの日本に、5年も前からだ」


「……そんなん無理やないか?」


 写真からわかる限りでも砲門の口径は小さくない、大玉の花火を打ち上げられるだけのサイズは有している。

 そんなものが地中に埋められていたとはいえ、誰にも気づかれることなく5年。 それも急な王子の来日に合わせ、メンテナンスもなく万全に動かせるなど考えにくい。


「そうだね、本当に5年前から用意されていたならその通りだ……けど、5年前の事実が改変されていたとしたら?」


「過去改変か、厄介やな……」


「これがそこら中に設置されて全部正確に走行中の車体を狙ってたわけ? そんなん無理じゃーん!」


「無理でも何でもどうにかするのがおいらたちの仕事だ、それに本来なら過去改変の特性も万能じゃないはずなんだけどな」


「と、言うと?」


「おいらが知る限り、ヴァルソニア王国の改変は自国の発展に費やされるものだ。 どこそこの国と貿易が成功しましたとか、犯罪者の存在をそもそも生まれてこなかったことにするとか」


「クーデターが成功して発展するとは思えんなぁ」


「それも王子を殺すためにここまでピンポイントな改変は考えにくい、だとすればあり得るのは……」


「テロリストの誰かが過去改変の特性を知って王子様殺しに利用しちゃってるとか?」


「はははまさかそんな……ははは……はは……?」


 忍愛の推測を冗談として笑い飛ばしたい宮古野だが、その顔がどんどん引き攣って青ざめていく。


「……まさかとは思いたいけど、そう願えば願うほど現実になるのがこの仕事なんだよね」


「難儀やな」


「うーんそうなると対策を練らないと……と、そんなこと言ってたらお嬢様から連絡だぜぃ、もしもーし?」


『あっ、キューさん。 こちら藍上です』


 宮古野がタブレットへの着信を受け取ると、画面いっぱいにおかきと甘音の顔が映る。

 その後ろには申し訳程度に隙間からのぞき込む王子の顔も確認できた。


「おー! 3人とも無事に合流できたか、よかったよかった! 嬉しいところ悪いけどちょっと話が……」


『王子に対するピンポイントな過去改変についてですか? それならこちらからも提案が1つ』


「……さすがおかきちゃん、話が早いね。 聞こうじゃないか」


『カフ子……いえ、私なら改変の痕跡を見分けられます。 なのでキューさん、私を囮に犯人を捜してください』

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