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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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藍上おかきの茶会 ④

 ――――オリジンを探せ


「…………」


 いつかカガチに言われた言葉が蘇る。

 オリジン、起源や根源を意味する言葉。 もしカフ子とカガチが示すものが同じなら、それはつまり……


『この地球に飛来した我々《カフカ》の中、最も早く地上へ根付いた個体のことです』


「……病で亡くなったという、カフカ症例第1号さんですか?」


『いいえ、それよりもずっと前からオリジンはいます。 あなたたちの呼称を借りるなら第0号と呼ぶべきでしょうか』


「0号……」


 考えたことはあった、あくまで現在のカフカ症例はSICKが発見した順番に番号が振られているだけだ。

 だからこそ発症順が前後してる個体、ならびに未確認のまま人間社会に溶け込んでいるカフカがいるのではないかと。


「それで、裏切り者と言うのは?」


『思想の違いです。 先に話した通り我々は宿主と一蓮托生、そのため人類の脆弱な肉体性能を改竄して生存率を上げるなど工夫を凝らしています』


「ありがた迷惑ですけどね」


『まあまあクレームは一度置いておき、いわば寄生というより共生関係です。 持ちつ持たれつ、宿主並びに人類が絶滅するようなことは我々にとっても大きな不利益になる』


 宿主はともかく人類絶滅はなんとも杞憂が過ぎる話……なんて、SICKで働いている今じゃ笑えない。

 人類がいなくなれば当然情報社会も崩壊する、カフ子たちにとっては大飢饉も同然だ。 必死にもなろう。


「その思想に対する裏切り者……ということは」


『――――オリジンは人類が絶滅しかねないシナリオを描いています』


 カフ子が卓上に浮かんでいる地球儀を突っつく。

 すると指が触れた箇所から地表がみるみる干上がり、蒼く美しい惑星はあっという間に茶色のミイラへ変貌してしまった。


「……なぜ? あなたたちにとって人間は有用な餌場なのでは?」


『例えばここにとても栄養価が高くて1粒食べれば3日は食事の必要がない豆があるとします。 しかしこの豆は1年に1粒しか取れない、そんなときに人類はどうします?』


「えっと、栽培して増やすか……品種改良?」


『それと同じですよ。 我々にとって人類と地球はとても居心地がいい、だが同時に脆すぎる』


「だから……()()()()()()()()()()()()?」


 カフ子は言葉ではなく、無言で首を縦に振って肯定する。

 馬鹿馬鹿しいと言いたいがあり得ない話ではない、カフカの性質を考えれば可能だ。

 私を「藍上 おかき」にしたように、全人類をあらゆる分野のスーパーマンに改造できれば……


「ですがそんなの乱暴すぎませんか?」


『同意見です、オリジンの計画は人類に大きな混乱を招く。 結果、各地でカフカと化した人間同士の抗争が予測されます』


「ぞっとしない話ですね……」


 自分を含めて10人を超えるカフカ症例を見てきたが、誰も彼もクセが強いキャラクターばかりだった。

 全人類があらゆる創作物のキャラクターになった場合、地球が持つかもわからない。


「どうしてオリジンとやらはそこまで無謀な計画を?」


『私が思うに、やつは人類のファンなんですよ』


「はい?」


『我々にとってこの星はあまりに魅力的でした。 個体それぞれが複雑な情報を持ち、時に間違い、時に不合理な選択を取り、時に予想だにしない道を歩む』


「それって褒めてます?」


『ええ、そのような遠い回り道の末にたどり着く果てとその過程で感じ取れる情報……あなたたちの“感情”が私たちは何より好きでした』


「……あなたもずいぶん感情豊かに見えますが」


『あなたたちに感化されたからですよ、人の身を得て知ったものです。 無味無常なあの外宇宙に比べ、この小さな星は美しい』


 カフ子が再び浮かぶ地球儀の表面を突く。

 すると枯れてた地表にはたちまち瑞々しい青で満たされ、その上からは色とりどりの花が咲き乱れた。


『体の中を荒れ狂い、思考をかき乱すこの情動が心地いい。 情報生命体わたしたちにないものを持っている人類あなたたちを、心の底から敬っている』


「……だからオリジンも人間を保護しようと無茶な計画を?」


『やつ曰く、人類が持つことごとくに期待しているそうです。 我々にとって無茶だと思えるようなことでも、人類なら乗り越えられると』


「はた迷惑な期待ですね……無理なものは無理と断りたい、そのオリジンは今どこに?」


『残念ながら私をこの星に呼び込んだところで消息不明になりました、なので計画の詳細は知りません』


「なるほど、そのオリジンのせいで私はこの姿になってしまったと」


『運命的な出会いですよ、仲よくしましょう私の隣人。 ……と、そろそろ時間ですね』


 カフ子がどこからか取り出した懐中時計に目を落とすと、その背後に見える花畑からゆっくりと日が昇っていく。

 それにどこからかうっすらと目覚まし時計のアラーム音が聞こえてきた、のんきにお茶介している間に朝が来てしまったらしい。


「残念ですが今日はこのあたりでお開きですか、ちなみに他の情報生命体たちの意思は?」


『現在SICKに所属するカフカ症例たちは全員味方と思って構いませんよ、他陣営は分かりませんがオリジンに迎合する個体は稀かと』


「それは良い知らせですね、この話はSICKと共有しても?」


『構いませんが……他の情報生命体とコンタクトをとるのはまだ難しいとだけ言い添えてください、他の仲間はまだ私ほど個を獲得していないので』


「それはいいですけど……逆になぜあなただけそこまで自我を持ってるんですか」


『幸か不幸か隣人に恵まれたからでしょうか。 おかき、あなたはもっと自分を肯定したほうがいい』


「急に何の話……」


『そんなだから私みたいなやつが育ってしまうんですよ――――では、また次回』

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― 新着の感想 ―
部長がここで言う0号かと思っていたんだけど違うんか……
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