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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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藍上おかきの茶会 ②

『……たしか、夢遊症でしたか。 夢の中で現実と同じように行動できる病』


「ええ、龍宮先輩に頼んで症状に巻き込んでもらいました。 ここでなら対話もできるかと思いまして」


『――――いつから気づいていた?』


「今回のループでようやく。 まず考えたのは私がミカミサマ事件で意識を失った後の行動でした」


 花畑の真っただ中に置かれた茶会の席に着き、私は目の前に置かれた紅茶に口をつける。

 夢の中だというのに不思議と風味が感じられるが、今は味わう気は一切しない。

 なぜなら対面には、自分と同じ顔をした少女が鎮座しているのだから。


「思い返してみれば意識がない間も薄っすら記憶があるんです、ただそのぼんやりとした内容が()()()()()()()()()()()()()


『ほう』


「はじめは部長たちが私の記憶に細工を仕掛けたのかと思いましたが、あの神社までの道のりが暴かれないように。 しかしそれなら1回目も2回目も同じ記憶を埋め込まれるものかと」


『なるほど、たしかに九頭 歩にループの記憶はない。 偽の記憶を埋め込むなら同じ流れになるはずだ、と』


「ループの強制力によって、ですね。 なので別の理由が考えられました」


 自分と同じ顔が喋っているというのに、不思議と動揺や緊張というものを感じていなかった。

 こんな突拍子のない仮説を思い付いたのは昨日今日のこと、それでもまるで元から知っていたかのように違和感がない。

 まるで目の前にいる存在が無二の親友であるかのようだ。


「ミカミサマ事件の最中、私は呪いの負荷で気絶しました。 そこまでは正しい、そして――――何者かが私の身体を動かしてくれていた」


『……なるほど、ミカミサマ事件の行動は初回の内容と大きく異なっていた。 当然私が辻褄を合わせようとしても、記憶の中身が別ものになってしまう』


「その言い方だと正解と思っていいんでしょうかね」


『ええ、見事ですよ“私”。 お察しの通り、私は“私”の中にいるカフカです』


「……あの、ややこしいので呼び方を分けませんか?」


『では私のことは“カフ子”とでも呼んでください、あなたの方を“おかき”と呼びます』


「カフ子……まあ分かりました、それにしても落ち着いていますね」


『ここまで暴かれたら隠す意味もないので、今までずっと私はあなたと共にいましたよ』


 目の前のおかき……もとい、カフ子は私と同じ所作で紅茶に口をつける。

 一挙手一投足、1ミリのずれもない。 他人から見ればそれはまるで鏡かビデオカメラのように見えるだろう。

 私から見てもまったく同じ感想だ、間違いなく私とカフ子は同じ存在だと断言できる。


『しかしできるだけ私の存在に感づかれないようにしていたのですが、詰めが甘かったですかね』


「きっかけはウカさんですよ。 神と人、まったく同じ性格が同じ体に同居している……私たちと同じとは思いませんか?」


『なるほど、常にヒントは近くにあったわけですか。 気づかれるのは時間の問題でしたね』


「ええ、そもそも……まったく同じ思考をしているなら、あなたが隠したいと思うことは私も思いつきますよ」


『ふふ、それはそうですね。 失敬』


 ……わたしも常日頃あんなふうに笑っているのだろうか?

 何となく自分の立ち振る舞いを見せつけられているようでムズかゆさがこみあげてきた、あまり直視するのは危険かもしれない。


「オホンッ! ……それで、あなたはいったい何なんですか?」


『さすがにそこまでは理解できていませんか。 まず前提として、私たちはあなたがカフカと呼称する存在です』


「私()()、ということは」


『稲倉 ウカ、山田 忍愛、宮古野 究、そのほかのカフカ症例たちにも私と同じ存在が同居していますよ。 ここまではっきりと知覚したのはあなたが初めてですが』


「私たちはカフカ症候群を病と仮定しましたが、どうも様子が違いそうですね」


『ええ、見ての通り私たちはウイルスや細菌の類ではありません。 脳や内臓疾患による幻覚でもない、れっきとした生物と考えてもらっていい』


 カフ子が指を鳴らすと、殻になった彼女のカップに新しい紅茶が満たされる。

 いつの間にか服装も私と同じ寝間着から制服へと変わり、互いの見分けがつきやすいようになっていた。

 一応私の夢の中だというのに好き勝手やってくれる……いや、私の夢なら彼女の夢でもあるのだろうか。


『ご心配なく、この程度であなたの精神に影響は出ませんよ。 情報の扱いに関しては人類より私たちの方が得手なので、少々手が出てしまいました』


「あなたたちは何者なんですか? 病ではないというなら……寄生虫?」


『さすがにそれはやめていただきたい』


「ごめんなさい」


 2杯目の紅茶に口をつけるカフ子の眉がギュっと詰まる。

 正体は分からないけど彼女たちの価値感覚は人間と似ているのかもしれない、悪いことをした。


『まあ虫扱いされるのはごめん被りますからね、“この身体のお礼”にお話ししましょう。 紅茶のおかわりは?』


「いただきます」


 カフ子が指を鳴らすと私のカップにも透き通った紅に満たされる。

 おまけに隣には焼き菓子を盛り合わせた皿と角砂糖が1つ、至れり尽くせりの気配りだ。


『さて、何から話したものですかね……私たちは情報生命体、この三次元上に存在を持たない生き物です』

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