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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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正しき値札 ⑤

「――――探偵さんに何かあったのね? 私も同行するわ」


「まだうちら何も言うてへんけどな」


「愛って怖いねパイセン」


 SICKのさらに地下深く、知生体を収容するための階層。

 その中でもとりわけ危険性の高い生物を収める区画の一室で、アクタは優雅にコーヒーを嗜んでいた。

 独房のように特殊合金製の檻で区切られているが、清潔な白で統一された室内は意外にも家具や寝具が充実している。


「どうしよう、海外の刑務所みたいでなんかちょっとムカついてきたよボク」


「あれは再犯率低下に繋がっとるらしいから無駄に住みやすくしとるわけとちゃうで」


「そうそう、不便な部屋ならみんな脱獄しちゃうもの。 それに小物以外は床に固定されてるし、こっちとしては四六時中監視されて落ち着かないわ」


「へーそうなんだ……って違う違う、話がずれた!」


「そうね、探偵さんについて聞きたいのでしょう?」


 飲みかけのコーヒーをテーブルに置いたアクタは椅子に腰かけたまま、足を組み直してウカと忍愛に向き合う。


「おかしいなぁ……うちらもおかきのことに気づいたのはついさっきなんやけど」


「何の用事もなく私に会いに来たわけじゃないでしょう? なら用件は1つ、探偵さんがおかしいのは私も気づいてたから」


「なら単刀直入に聞いたる、おかきが居なくなったんやけど何か知ってはるか?」


「うふふ、もちろん――――ぜーんぜんわっかんない!」


「パイセン! 落ち着いてパイセン、一応SICK(うち)で保護してる対象だから電撃はまずいって!」


「三味線弾いてんとちゃうぞクソアマァ……! なんか知っとる話しぶりやろがい!!」


「私が知ってるのは探偵さんの様子が途中から変だったってことぐらいよ? さすがにこの牢屋に戻された後のことまでは分からないわ」


「その途中からおかしかったってどういうこと? 一緒にいたあのデカい女性職員やオペレーター君は気づかなかったらしいけど」


「ふふ……愛の差ね」


「じゃかましいわ」


「私が感じたのは探偵さんが探偵さんだけど探偵さんじゃないって雰囲気、本当にそれだけよ。 上手く言葉にできないわ」


「「はぁ……?」」


 ウカと忍愛が揃って首をかしげるが、むしろアクタはその様子を見てむしろ誇らしげだ。

 

「ふふん、私が一番探偵さんのことを理解しているってことでいい?」


「パイセン、新人ちゃん失踪前に会ったんでしょ。 なんか気づかなかったの?」


「ムカっ腹立つけどなーんも気づかんかったわ、具体的にはどこがおかしかったんや?」


「わかんない」


「やっぱ腹立つなこいつ」


「落ち着いてパイセン、貴重な情報源だよ」


 平行線を突っ走る会話にウカは眉間を抑える。

 アクタは何らかの確信を持っているが、それは言語化もできない不確かな勘だ。 ウカたちが求める手掛かりにはなりえない。


「それで探偵さんを探すのよね、そろそろ檻を開けてくれる?」


「開けるわけないやろ、うちらにそんな権限ないわ」


「話聞きに来ただけだもんね、バイバーイ」


「えー、なによそれー! 私とは遊びだったの!?」


「人聞きの悪いこと言うな! 一生そこで寝とけ!」


「ねー、爆弾女が言ってたこと気にした方がいいのかな? 新人ちゃんから新人ちゃんじゃないって話」


「気になるっちゃ気になるけどひとまず無視でええやろ、よう分からん話や」


「うーん……けどそうなると本当どこに行っちゃったんだろね、新人ちゃ――――」


 ――――2人の頭上から突然、けたたましい警報が鳴り響く。

 SICK内で鳴り響く警報音にはいくつか種類があるが、これは収容状態にある異常存在になんらかのトラブルが起きた際に使われるものだ。


「なんや!? またお前の仕業かアクタァ!」


「冤罪ね、見ての通りまだ何もしてないけど?」


「まだって言ってるじゃん! じゃあこれってなに……」


『緊急警報! 緊急警報! 収容下にある“栄螺螺旋の旧校舎”にて未確認の人型存在が出現! 対応可能なエージェントは速やかに対処応援求む!』


「ね、別件でしょ? 冤罪だわ心外だわ慰謝料だわ」


「日頃の行いやろ。 それにしても栄螺螺旋の旧校舎ってたしか……」


「パイセン、なんか知ってるの?」


「いや、うちも前にちらっと聞いたくらいなんやけど。 なんか薄っすら記憶に残ってんねんな」


 ウカが埃を被った記憶を掘り出している間にも、天井のスピーカーからは警報が鳴り続けている。

 しかし突然スピーカーが止まったかと思えば、今度は聞き覚えのある声によるアナウンスが始まった。


『あーあー、こちら宮古野、こちら宮古野。 稲倉 ウカと山田 忍愛の2名は至急第3フロアメインオペレーター室までくるように』


「あれ、この声キューちゃんだ。 パイセン何かやらかしたの?」


「なにかやらかすとしたらお前の方やろ、けどホンマ急にどないしたんやろ」


『繰り返ーす! 稲倉 ウカと山田 忍愛の2名は至急第3フロアメインオペレーター室までくるように、“栄螺螺旋の旧校舎”にておかきちゃんの姿が確認された! すぐに来ーい!!』


「「…………はぁ!?」」

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