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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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藍上おかきの供述 ②

「ちなみに逃走の選択は?」


「確証はないですがこの空間はループしている可能性があります、逃げ場はないです」


 アクタが監視カメラを叩き切っている最中に準備を整える。

 あの機械の目も怪物の視界同様、呪いを送り込む仕組みなのだろう。 

 狭い部屋に逃げ込んだ際も、あの目に監視されていたせいでこの身体に呪いが蓄積した。 壊せるうちに壊しておくのが吉だ。


「おまけにこの空間は部屋の配置がデタラメです、地の利は相手にあると考えていい。 後手後手で逃げ回っていてはいつか必ず捕まります」


「なら待ち構えられる今がチャンスってことか……仕方ねえ、腹括るか」


 咥えたタバコを嚙み締めたハナコが深いため息を吐く。

 切っ先からもうもうと沸き立つ煙はたちまちに通路を埋め尽くし、曲がり角の視界を完全に遮った。

 タバコ1本でこれほどの煙、健康面が気になるが非常に便利だ。 私も申請したら1ダースぐらいもらえないかな。


「探偵さん、とりあえず見える範囲のカメラは壊したわ」


「ありがとうございます、アクタ。 悪いですけどこのまま怪物退治は任せますね」


「…………」


「……アクタ? どうかしました?」


「ううん、なんでもない。 探偵さん()探偵さんなのね」


 抜き身の陀断丸を振り回しながら、アクタは何やら一人で納得した様子。

 はて、おかしな話だ。 私も“私”であるはずなのだが。


「キンジロー、敵の反応は分かるか?」


『問題なし、運がいいね。 追ってきてるのはナユタ隊長の目玉入り個体だ、接敵まで残り5秒!』


「あらためて言われるとなんか嫌ですね、目玉入り個体」


「言ってる場合か、戦えねえなら下がってろ!」


 ハナコの言葉に甘えて一歩引いた位置から戦況を傍観させてもらおう。

 彼女の言う通り、この身体にバケモノと戦えるようなスペックはない。 足手まといが前に出て呪われるよりも後ろで座するのが利口だ。


「陀断丸さん、アクタのことを頼みますね」


『任されよ、化生ならば某の得意とするところ!』


「それじゃ行ってきまーす」


 まるでコンビニにでも出かけるような気軽さでアクタは走り出す。

 陀断丸を握っていることで身体能力が向上しているため、私の目では残像を追うのがやっとだ。

 そして煙の中へ飛び込んだ瞬間、水面に岩を放り込んだような音を立てて汚い水しぶきが散る。 突っ込んできた敵に対する真正面からの陀断丸カウンター、霊由来の存在ならばひとたまりもあるまい。


「やった……」


「ハナコさん、余計なフラグは立てないでください。 まだ終わりじゃないですよ」


 もしこれがただの幽体ならば文字通り一撃必殺だっただろう、だが今回はまだ油断できない。

 なぜなら相手の身体は液状、そのうえイヤな“前例”がある。

 案の定、水しぶきは飛び散った眼球を核として一塊となり、手足となる部分を伸ばして再生しようとしていた。


「まあ2体に分裂できるならより細かい分割も可能ですよね」


「ああ……ここまでは想定通りだな」


 悠長にもハナコはタバコの穂先に火を点け、肺で味わうようにゆっくりとニコチンを堪能している。

 その間にも怪物の再生は進んでいる。 1体1体のサイズは小さいが、散らばったすべてが再生すれば30以上の目玉が一斉に襲い掛かって来るのだろう。


「さて、お前らの構成要素は主に水分だ。 零感の私でも干渉できる点からして、振る舞いは常識的な液体と変わらないだろう」


 ハナコの語り口はまるで新人に対する座学のようだ、いや実際に私たちへ向けた講義なのかもしれない。

 まあ作戦内容を提案したのは彼女だ、ここは見せ場を譲ろう。


「液体ってのは面倒だ、こっちの攻撃が効かねえからな。 だが……なんでも混ざっちまうってのは弱点だよな?」


 ハナコさんは()()()()()ジッポライターを手持ち無沙汰に弄りながら笑う。

 そう、出会い頭の攻撃はただの布石。 本当の目的はアクタによって怪物の身体に“火種”を混ぜることだった。


「リーダーさーん、そろそろいいかしら?」


「ああ、テメェのせいで任務終わるまで禁煙確定だよ。 詫びとして派手に散りやがれ!」


 バヂン、と火花が散る。

 煙の中から戻ってきたアクタが握っているのは、私が常備している護身用のスタンガン。

 放電しているその先端を飛び散った怪物の一滴に押し当てた瞬間、小さな火花は大きな火炎へと姿を変えた。


 雫から雫へ、まるで初めから設計されていたように私たちを避け、導火線がごとく怪物たちの身体に火が燃え移る。

 ライターオイルが染み込んだ怪物たちの身体は瞬く間に火達磨となり、のたうちまわる暇もなくことごとくが蒸発、あるいは燃え尽きていった。


「……うーん、いまいちね! やっぱりライター1個分の燃料じゃそんなに燃えないわー」


「むしろあれっきりのオイルだけでよくやったなオイ……これが爆弾魔の能力ってわけか」


「視覚的に分かりにくいですが、やはり恐ろしいですね……」


 攻撃に扮して火種となるライターオイルを浴びせ、怪物の身体に混ぜるように四散させる。

 その後、各個体に含まれた燃料の割合や飛び散った位置などからタイミングを見計らい、ある程度個体が集まったところで一網打尽に着火。

 卓越した技術なんて言葉で説明できるものではない、爆破や火の扱いに対する異常な実行能力。 これこそアクタに備わった異能、その一端の力か。


「生き残りは……いねえな、本当に全滅させたのか?」


「まあまだ最初に分裂した個体がいるはずですけどね、目の前の脅威は排斥できたはずです」


「つまり一段落ってことね! ねえねえ探偵さん、それなら1ついいかしら?」


「はいはいなんでしょうか、悪いですけど今は先を急ぎたいので……」


「―――― ()()()()?」

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― 新着の感想 ―
探偵さんも探偵さんから貴方誰ってことは何か明確な差異があったのかなアクタ的には
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