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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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呪い呪われ追い追われ ④

「うっ……ぐ……っ」


 眼球を貫かれるような苦痛におかきは苦悶の声を漏らす。

 怪物たちはおかきを挟む形で道を遮り、それ以上は何もしていない。

 ただ怪物どもの目玉に見つめられているだけで、おかきの身体は目に見えない異常に蝕まれていた。


(まずい……逃げ場、どこか……っ!)


 瞬きすら許されない緊張の中、おかきは必死に脳を回転させる。

 不定形の巨体に遮られ通路は完全にふさがれており、先ほどのように脇をすり抜けるほどの隙間はない。

 手持ちの武器は小口径の拳銃とスタンガン、それと……


「……塩!」


 ポケットに残っていた一握分の塩をこれ幸いと投げつける。

 ハナコから渡されたものをもしものために小分けして服のあちこちに詰め込んでいたことが功を奏した、大量の目玉に塩を浴びた怪物は悶絶して後退する。

 だが、前門の虎が下がれば後門の狼がその分距離を詰めるばかりだ。 あくまで怪物はおかきを視界内から外さない。


「こいつらの目的は、あくまで信徒を増やすこと……武装している2人より私を狙うのは合理的……ですね」


 背中に冷や汗が伝う、もはやいつ自分が自分で無くなるかわからない。

 いっそ敵の手に落ちる前に自害しようかとおかきが考え始めたその時、懐に入れていた携帯が再び震えた。


「……? 部長……」


『あーあー、これは録音メッセージだ。 返信も心配も不要、それよりダクトを探せ』


「だ、ダクトォ……!?」


 応答する必要もなく勝手に再生されたその音声は至極簡潔に打開策を伝える。

 いつの間にこんな仕掛けを作ったのか、気になるが問いただす時間はない。

 すぐにおかきが霞む視界で床付近を探せば、いかにも通気口らしく肉の壁が四角く盛り上がっている箇所があった。


『PS:今のお前のSIZなら余裕で通れるだろ、アッハッハッハ!』


「あのクソ部長絶対ぶん殴るッ!!!」


 諦めかけていた胸に希望という名の怒りを灯し、おかきは壁に取りつく。

 壁を覆う肉は塩まみれの手で触れればボロボロ崩れ、通風孔が露わになる。

 どこに繋がっているかは分からないが、少なくともこの暗闇の先は現状よりはマシなはずだ。


「っ……あたま、が……っ!」


 刺し貫くような痛みがおかきの後頭部を襲い、思考の端にミカミサマを称える言葉がちらつく。

 銃弾で通風孔のねじ止めを破壊したおかきはフタを蹴り飛ばし、迷うことなくその中へ身体を押し込んだ。


 フタが転がる金属音を聞きながら、おかきは狭い空間を転げ落ちる。

 背後で怪物たちが水音を立てて迫る気配があったが、狭いダクトの中まで追ってくることはなかった。


『さて、お前ならそろそろ逃げ切れたことだろう。 少し落とされるが死にはしないから耐えろ、必要経費だ』


「好き勝手言ってくれるなぁ……!」


 まるで自分のことを監視しているような録音に文句を唱えながら、おかきはどこか心地よい浮遊感に身を任せる。

 視線を切ったおかげで眼球の奥から脳まで貫くような痛みは引いたが、意識は朦朧としていた。 

 いまだおかきの身体の中ではミカミサマの呪詛に対し、神々の加護が抗体のように戦っているのだ。


「ハナコさんと、アクタは……無事……」


 思考が遠のく。 瞼が閉じるたびに視界の端に見知らぬ女性の姿がちらつく。

 見続けるのはまずいのか、と思いながらもおかきの摩耗した気力は耐えきれず、ふっと意識を失ってしまった。



「……さすがに限界ですか。 ()()()()()()()()() ()()


「…………?」


 自分の口から意図せぬ言葉が漏れ出た気がしたが、薄らいだ意識ではどうせ覚えていられない。

 命が危ういこの窮地、しばらくはこちらが引き継ごう。


――――――――…………

――――……

――…


「おい待て落ち着け、そんなことをやってる場合じゃないだろ。 刀を下ろせ」


「あら~? 探偵さんがいない私は狂犬だって教わらなかったかしら?」


『ええい、よくも姫を手に掛けてくれたな!』


 おかきが必死に怪物を振り切った一方、ハナコは味方から刀を突きつけられていた。

 アクタにとってこの任務は「おかきと一緒にいられるから」という理由だけで同行したに過ぎず、陀断丸も以前から命じられているのはあくまでおかきの護衛だ。

 両者の目的からして、おかきを蔑ろにされればこの結末はある種必然だっただろう。


「死んでねえ死んでねえ、だよなキンジロー?」


『うん、こちらでも生存は確認できている。 今は目玉オバケどもからも逃げ切ったみたい』


「だ、そうだ」


「それは許す理由になるのかしら?」


「悪かったよ、あの場じゃあれが最善だった。 生きて帰ったら副長に報告でも何でもしろ、罰は受ける」


 ハナコは突きつけられた陀断丸の刃を素手で掴む。

 あくまで即席チームのリーダーとして全滅を避け、少しでも生存率の高い作戦を選んだだけだと。 その眼には責任と覚悟が宿っていた。


「私はSICKとして最期は地獄に落ちるつもりだよ、殺るなら殺れ。 だがそうすればSICKはお前をただじゃ置かないし、あのチビにも二度と会えないだろうな」


「……私、あなたのこと嫌いだわ」


「そうかい、気が合うな。 今度酒でも飲みに行くか?」


『ちょっとリーダー、好感度下げるのもそこまでにしてよ! 藍上さんから通信があった、繋ぐ?』


「呪詛に汚染されている可能性は?」


『フィルター通して確認済み』


「わかった、念のため私だけにチャンネルを繋げ……おいガキ、無事か?」


『――――ああよかった、お互い無事で何よりです。 実はちょっとこちらで発見がありまして……』

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アクタは勘で私の探偵さんじゃないわとか言いそう
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