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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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カチコミカチコミ申す ③

「あだだだだ!!! キューちゃん、ねえキューちゃん!? ボクなにか悪いことしたっけ!?」


「心当たりは色々あるけど別にはこれ懲罰じゃないさ、君のためだぜ山田っち」


「山田言うなぁ!!」


 おかきたちが放送局に突撃している一方そのころ、SICKでは忍愛が自身への扱いに対する抗議を叫んでいた。

 彼女の身体はベッドに縛り付けられ、両目も閉じないように金属製のフレームで固定。 眼球には乾燥防止の目薬が常に供給されている。


「君は今ミカミサマと呼ばれる怪異に魅入られている、厄介なことに目を閉じると症状が進行するらしい。 まばたきですら危ういからこの処置が必要ってわけだ」


「あーね、だからこうして目を……もっと他に優しいやり方なかった!?」


「ごめんねぇ、こっちも今あり合わせで用意したからさ。 なにせこうしてる間にも被害は拡大しているもんで人手が足りない」


「うぐぐぐぐ……早く戻ってきてよパイセェン……ってか新人ちゃんは大丈夫なの?」


「どうだろうね、一応あの場で最適のメンバーを選んだつもりだ。 それにたった今助っ人も送り付けたところだよ」


「助っ人ぉ?」


「ふふふ、いやあ研ぎが間に合ってよかったよ。 今回の事件なら間違いなく“彼”は天敵になりうるからね」


――――――――…………

――――……

――…


「たしかに危険な存在だというのは分かりますけどね! いきなりサブマシンガン担いで容疑者候補の居所にカチこみます!?」


「結果論になるが先行隊の危険度予測は正しかったな、問題は装備ごと人材をパクられてるってことだ」


「探偵さーん、結構ピンチだけどどうしましょう?」


 階段に身を隠したおかきたち目掛け、銃弾の雨が襲い掛かる。

 通路に面した壁はバチバチと音を立てて削られ、ときおりはじけた破片が隠れた3人を叩く。

 再開した武装エージェントたちは喜びの声を上げることもなく、その銃口をおかきたちへ向けてきたのだ。


「■■■■……■■■……■■……」


「うーん、イヤホンの性能は間違いないみたい。 何言ってるのかぜーんぜん聞こえない」


「聞かない方がいいですよアクタ、絶対にろくな事呟いていませんので」


「そうだな、絶え間なくミカミサマとやらへの賛辞と勧誘の言葉を述べている。 もうアレにSICKへの忠誠心は残ってないな」


「聞いちゃってるんですか!?」


「私には効かん、お前もSICKで見てただろ」


 ミカミサマの信徒と化したエージェントたちの呪詛を聞き流しながら、ハナコは目いっぱい吸い込んだタバコの煙を吐く。

 ハーブのような独特な臭いの煙は通路にまで伸び、まるで信徒たちの進行を食い止めるようにしぶとく漂っていた。


「……多少の足止めはできても効果が薄いな。 キンジロー」


『リーダー、喫煙の理由に魔除け使うのやめなよ。 あんたそもそも必要ないだろ』


「うるせえ、相手の急所を特定する。 並びはいつも通りだ、いくぞ」


 言うやいなや、ハナコは手持ちのハンドガンを最小限露出させ、やみくもに引き金を引く。

 狙いもなにもないでたらめな銃撃だが、遮蔽物のない通路に並んだエージェントたちにはそこそこの命中率を誇り、何度か苦痛に呻く声が聞こえてきた。


「ちょっ……!?」


「殺すな、なんて甘ったれたこと抜かすなよ。 アレはもうダメだ、こっちも殺す気で反撃しないと死ぬだけだよ」


「そこに関しては私も同意見よ探偵さん、ちなみに6発中2・3・5発目が命中したわ」


『助かります。 えーとパッチテストは……銀弾は効果薄いな、塩弾が評価高い。 ファ〇リーズ弾は全然ダメ』


「ファブ〇ーズ!?」


 ハナコが乱射したのはただの弾丸ではない。 それぞれ洗礼を受けた銀や塩、芳香剤(ファブリ〇ズ)などを固形化した除霊用の特殊なものだ。

 当然殺傷能力は数段落ちるが、目的は目標への反応を確認することにある。

 国や宗派によって異なる除霊効果の差から目標の特性を特定する作業、ハナコたちはこれを通称“パッチテスト”と名付けていた。


「キリスト圏じゃないな、除霊ミームも効かないなら近代でもない……少なくとも国内だな」


『了解、その線で探ってみる。 リーダーたちもそれ以上は危険だ、一度退いて装備を整えて』


「いいや、このまま押し通る」


『はぁ?』


「私も同意します、ここまで激しい抵抗はこの先に隠したいものがあると言っているようなものです。 時間をかければ逃してしまうかもしれない」


 通路は今もなお激しい銃撃に包まれている。

 自分たちへの流れ弾も気にせず、左右からおかきたちが隠れる階段に向けて絶え間ない射撃。 そこには一歩でもこの先には進ませないという圧がある。


「少なくともミカミサマとやらは神の類ではない、神ならばここまでの敵意や悪意を人間には向けませんから」


『な、なんかまるで見てきたようなセリフだ……』


「つい最近見てきました。 それはそれとしてアクタ、打開策はありますか?」


「どこまで壊していい?」


「建物としての原形はとどめてください」


「了解、任せて探偵さん」


 おかきに投げキッスを残し、アクタは銃弾が飛び交う通路へ身体を投げ出す。

 飛び出した彼女のシルエットに、信徒と化したエージェントたちの銃口が一斉に向けられる。

 だが彼らが引き金を引くよりも、先手を打ったのはアクタが天井へ向けて放った一発の銃弾だった。


 ――――ジリリリリリリリ!!!!!!


 けたたましいベルの音を鳴らしながら降り注ぐのは、天井に設置されたスプリンクラーの雨。

 細かい雨の幕は一瞬でアクタの姿を隠し、エージェントたちの照準をほんの数秒惑わせた。


「■■■■……ッ!!」


「ふふ、塩は効くのよね?」


 その隙に彼女が散布したのは、おかきが持っていた清めの塩。

 スプリンクラーと混ざって拡散した塩は瞬く間にエージェントたちの足元まで伸び、彼らを苦しませている。 それは奇しくもおかきが青凪ホテルで水銀生物たちに仕掛けた罠と似ていた。


「あいつ、いつの間に私の銃を……」


「待ってくださいハナコさん、今は抑えて! アクタの協力が必要なんです!」


「うふふ、そうね探偵さん。 だけど私だけじゃちょっと大変だから……もう一人助っ人を呼んじゃおうかしら」


 エージェントたちが怯んでいる隙に向かいの扉に張り付いたアクタは、そのドアノブを捻る。

 そして扉を開いた瞬間、飛び込んできたのは……現代日本には似つかわしくない、抜き身の刀だった。


『くっ――――殺せ!! 誰か某を……殺してみせよッ!!!』

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>ファ〇リーズ弾は全然ダメ ギャルとか現代日本人由来の、塩や十字架、銀の特攻を知らない系悪霊ならファブで多少浄化できるケースがあるのだろうか……
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