表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

513/581

とおりゃんせ ③

「あれ? お帰りー、ずいぶん早かったけど忘れ物でも……」


「キューさん! データベースへのアクセス許可をください、それと日本中の参拝施設の位置情報を今すぐに!」


「へっ? うわわわわ待った待った落ち着いてくれよどうしたどうした!?」


 想定よりも早く戻ってきたおかきに肩を掴まれた宮古野は、手にしたマグカップごと大きく体を揺すられる。

 周りで作業をしていた職員が慌てて2人を引きはがすが、おかきの様子は尋常ではなかった。


「どうしたおかきちゃん、落ち着いて話はできるかな? 場合によっては精神系の異常性に晒されたと仮定して対処する必要がある」


「違います、私は冷静で……とにかくお願いします、早く!」


 おかきの様子は尋常ではなかった。顔色は悪くないが、瞳の奥はどこか焦点が合わず、けれども強く何かを捉えている。

 本人の主張とは異なり、目に見えて冷静ではない。 普段の落ち着いた雰囲気が影もないおかきに、さすがの宮古野も当惑するばかりだ。


「安心してよキューちゃん、新人ちゃんは変なもの喰らったわけじゃないよ」


「おお、山田っち。 じゃあ何が……なんでウカっち背負われてんだい?」


「話が長くなるから1個ずつ説明させてや……おかきも落ち着き」


「ですが……!」


「このままやと建設的な話も出来ひん、このまま一人で突っ走るとキューちゃんに簀巻きにされるで?」


「うーん、たしかにおかきちゃんの暴走次第じゃそれも十分あり得るかな」


「……わかり、ました……すみません……」


「うむ、ご主人の気持ちもわかるがまずは深呼吸だ。 ではお祭りで何が起きたのか、順を追って説明しよう」


「いやタメイゴゥ(おどれ)が〆るんかい」


――――――――…………

――――……

――…


「……にゃるほどねぇ。 ワンタメイト興行の介入は想定外だ、余計な苦労かけてごめんね」


 適当な会議室に場所を移し、天戸祭でのあらましを一通り聞いた宮古野は、テーブル越しに頭を下げた。

 

「頭を上げてくださいキューさん、私たちもこうして無事ですから」


「そうそう、ボクらもとくに危害は……あったね、そもそもの原因あいつらじゃん」


「今度会ったらあの赤っ鼻引き千切ったる……」


「逃がしたことは気にしなくていいよ、本来アレの対応には局長かガチガチの専門チームが必要だ。 五体満足で帰って来ただけで十分だぜぃ」


「うむ、問題も無事に解決した。 ご主人すずんたちは悪くない」


「そうだね、パイセンも無事に……ってそういえば新人ちゃん、今回のゲームってどこまで考えてたの?」


「そこまで明確な勝ち筋は考えてませんでした、ただ最後はタメイゴゥ頼りになるとは思ってましたけど」


 暴走したウカとの遊戯において、おかきが“わざと”妨害行為の有無を確認しなかったのは、ウカノミタマから「自分も妨害される」という意識を持たせないためだった。

 神VS人間、会場に漂う金魚は自分の味方。 圧倒的な優位な状況をあらためて説明されれば、抜け道はないかと案じてしまう。

 だからこそおかきはルールをあえて曖昧なままにし、タメイゴゥという切り札を隠したのだ。


「ということは今回のMVPはタメイゴゥかな、あとでおいらの財布から好きなの奢ってやるぜ。 何がいい?」


「揚げ出汁豆腐の柚子餡かけ」


「ほんまに鳥類か?」


「よし、腕のいいうちの調理スタッフに頼んでおこう。 それと、おかきちゃんの話だけど……」


「……はい」


 宮古野の声色が労いを含む緩んだ雰囲気から変わる。

 椅子にもたれかかって麦茶を啜っていた忍愛も、これには思わず居住まいを正した。


「まず確認だ、天戸祭に現れる過去の記憶はすべて黒くのっぺりとした影という話だったね。 そのうえで君のお父さんと確信できたのかい?」


「背恰好と目測の年齢、そして声からほぼ間違いないかと思います」


「そっか、声はそのままなのか。 その影はいつ頃の記憶なのか判別できる?」


「わかりません、ただ父は人混みが苦手なので一人で祭りに出かけたとは考えにくいです。 結婚した後ならなおさら家族に内緒で出かけるなんて……」


「ということは独身時代のきまぐれか、もしくは――――()()()()()か」


 おかきの心臓が跳ねる。

 父親が失踪してから数年、手掛かりりらしい手掛かりは全く見つからなかった。

 だがここに来て初めて、父が生きている足跡が見えたかもしれない。


「おかきちゃん、念のために忠告するけど今回はあくまで可能性の話だ。 さっき言った通り君が生まれる前の記憶かもしれない」


「いいえ、その可能性は低いと思います」


「と、いうと?」


 おかきは浴衣とともに支給されていたSDカードをテーブルに置く。

 それは天戸祭について記録するため、SICKが用意した小型カメラに内臓されていたものだ。


「ノイズが掛かっていますが内部の出来事は常に記録できています、これを見ていただければ理由は分かるかと」


「ほほう、それなら拝見しようじゃないか」


 手持ちのタブレットにSDカードを挿入し、宮古野は映像を再生する。

 問題のシーンは終盤、シークバーを動かして映像を進める宮古野の指がピタリと止まった。


「これは……君のお父さんと、()()()()()()()?」


「ボクにも見せて見せてー! ……ほんとだ、見た感じ同僚って感じじゃなさそうだけど」


「かなり若いな、着とるのは……学生服か?」


「ええ、黒い影なので断定はできませんが心当たりは着いています。 これは雄太わたしが通っていた学校のものです」


「待った、おかきちゃん。 それってもしかして……」


「はい、私は声も聞いたので。 おそらくこの人物は――――ボドゲ部部長、九頭 歩です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ