馬鹿囃子 ②
「どいてなー、そこ通るでー」
「お狐様が通るでー」
「油揚げくれたってかまわへんよー」
「ピエロは殺すでー」
「……パイセンってばいつの間にマスコット路線に路線変更を」
「おい小娘! あの小さな生き物どもは何だ!?」
「私もわからないですが……どう見てもウカさんの仕業ですよね」
参道のど真ん中を堂々と大量のウカたちが闊歩する。
背丈は膝ほどしかなく、どこかデフォルメされたような愛嬌のある姿。 だが問題は十や二十ではきかないその数。
小さなやぐらを担ぎ、太鼓や笛を鳴らしながら進む姿はさながら祭りの目玉となる行進のようだ。
「なるほど、祭りごとの一部として溶け込むことで参道を占有する不敬が見逃されているわけですね……」
「感心してる場合じゃないよ新人ちゃん、あれ見てあれ!」
忍愛が気付いたのは祭囃子ややぐらといった小物の中に紛れて小さなウカたちが担いでいる、身の丈を超えるサイズの朱肉が一体化した土台。
これまでいくつものスタンプを回収したおかきたちは、その正体を知っていた。
「まさかあれはスタンプ台か!? あの謎生物ども、土台ごと回収して回ってるぞ!!」
「そんなんアリ!?」
「ルールでは禁止されてませんね……さすがウカさん」
「感心しとる場合か、力づくにでも止めないとこちらが負けるぞ!」
ジェスターが浴衣の袖から投げナイフを取り出すと、その殺気に気づいた金魚たちがたちまち集まって来る。
そして目前に漂う金魚の身体が一瞬で発火し、飛び散った火の粉がジェスターの仮面へと引火した。
「あぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃァー!!?」
「Σ(・□・;)」
「ダメだ新人ちゃん、あのちっちゃいパイセンも神様判定っぽい」
「そのようですね、こちらから妨害することはほぼ不可能と」
「私の犠牲を無視して冷静に分析するな貴様らァー!!」
「失礼、おかげで余計な被害が出ずに済みました」
地面を転がって火を消すジェスターを一瞥もせず、おかきは行進するミニウカたちの対処を考える。
幸いにもミニウカたちの歩みは遅い、今すぐに勝負が決まるということはないはずだ。
空に浮かぶスコアはほぼ同点、ここからおかきたちが先にスタンプを集めるには……
「……タメイゴゥ、あなたはあのミニウカさんたちを追いかけてください。 攻撃の意思がなければ被害はないはずです」
「むぅ、しかしそうなるとご主人が危ないぞ」
「問題ありません、こちらはこちらでなんとかします。 頼りにしていますよ」
「うむ、そう言われては仕方ない。 達者でなご主人」
主から頼られたタメイゴゥはピコピコ尻尾を振り、ミニウカたちのパレードへと紛れ込む。
背丈がほぼ同じせいか不思議と違和感はなく、遠目で見ればタメイゴゥを見失ってしまいそうなほど馴染みがいい。
ミニウカたちからも排斥されるようなことはなく、むしろおかきには祭りの仲間として受け入れられているようにさえ見えた。
「よし、タメイゴゥのほうは大丈夫ですね」
「こっちは大丈夫じゃないが? どうするんだ小娘、あれは我々が唯一使える“目”だろう!」
「あっ、そうだった! これじゃボクたちまた顔面黒焦げの危機だよ!?」
「その点については代案があります。 クラップハンズさん、あなたの能力で壁を作ることはできますか?」
「(・ω・)b」
おかきに頼まれたクラップハンズは親指を立て、そのまま白手袋をはめた手で目の前に壁があるようなパントマイムを始める。
先天性の病から生じた彼女の能力は、自分のパントマイムから想像される物体や現象を作り出せるというもの。
実際におかきたちの目には見えないが、彼女の目の前には強固な壁が生み出された。
「ではそれをそのままこう……押して動かすことは可能ですか?」
「(`・ω・´)」
おかきの意図を察したクラップハンズは自ら作った壁に手を当て、台車を押すようにゆっくりと歩きだす。
するとクラップハンズに触れるはずの狐火は壁に衝突し、小さな火花だけを残して次々と爆ぜて行った。
「壁の耐久は……問題なしか、クラップハンズさんは大丈夫ですか?」
「(*´ω`*)=3」
「平気へっちゃらと、これで進路上の安全は確保できましたね」
「おぉー……いいじゃんすごいじゃん便利じゃん! なんでもっと早くやらなかったのこれ?」
「できれば敵に借りを作りたくなかったんですよ、ほら」
「ハーッハッハッハ! どうだうちのクラップハンズは、神の業火をものともしないこの防御力! 素晴らしかろう!?」
「なるほどこれはムカつく、ちょっと炙っとくか」
「おい何をする貴様ちょっとやめろおい壁の外に追い出すなあっぢゃああああああああああああああああ!!!?」
「クラップハンズさん、私はあなたの能力について詳しくはありません。 もし何か不調があればすぐに教えてください」
「(*'-')ゞ」
「よし、では我々の目標は速やかにスタンプを1つでも確保することです。 先にこちらが押さえてしまえばウカさんのコンプリートが不可能ですから」
「目には目をってやつだね、よっしゃそうと決まればゴーゴー!」
「おい待て……貴様らぁ……私を置いて行くなァ……!!」
クラップハンズの盾に隠れて(ジェスターを見捨てて)進みつつ、おかきはこの先の展開を見据えていた。
先手を取られた今、最善はまだウカが押していないスタンプを1つでも確保すること。
しかし数的不利を被っている中では、それすらもかなわないかもしれない。
(二の矢三の矢は用意している……タメイゴゥ、そしてあの金魚たち……私の予想があっているなら、最後の展開は――――)
もはやこの遊戯に途中経過はさほど意味はない。
だからおかきが重要視しているのは勝負の最終局面……決着の付け方だけだった。




