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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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神交遊戯 ⑤

「あいよースタンプあるよー、押していきなー」


「ハァ……ハァ……やっとこれで一つ目……!!」


「頑張りましょう忍愛さん、あと15個あります」


「せめて9マスでいいでしょこういうのは!!」


「SICKの連中はいつもこんな馬鹿馬鹿しい仕事をしてるのか……?」


「いつもではないですよ、半々ぐらいです」


「割と高頻度ではないか!?」


 地獄のタコ焼きを完食し、やっとこさ1つ目のスタンプを回収したおかきたちだったが、すでに2名は疲労困憊の有様だった。

 ウカノミタマが仕掛けた火球を顔面で浴びること複数回、なぜか被害集中しているジェスターと忍愛の2人は足取りもおぼついていない。


「ご主人、本場のピエロというものはすごいものだな。 我はちゃんと火球を見極めているぞ」


「別に私も受け狙いで当たっているわけではない! どうしてもお前の指示を聞いてからでは避けきれないものがあるのだ!!」


「さ、さすがに限界……ボクちょっと休憩……」


「おーい聞いたか! 人間と神の勝負、ウカノミタマ様が今4個目の押印を獲得したってよ!」


「…………している暇はなさそうですよ」


「早くなぁい!?」


 スタートの躓きは手痛く、すでにウカノミタマとのスコアには無視できない差が生まれていた。

 そのうえ人数と機動力という有利も不可視の狐火に阻まれ、おかきたちの進捗はウカノミタマに比べれば遅々たるものだ。


「ええいこのままでは負ける! あの狐娘になにか弱点はないのか!?」


「大阪煽りするとバチギレする」


「実は猫舌らしいです」


「役立たずどもが!!」


「なんだとー!? そういうお前は相方みたいな特殊能力持ってないのかよ!」


「やめろ相方扱いするな! 私はもともと前線で暴れるような人材ではないんだ、無茶振りは止めろ!」


「お前の方が役立たずじゃんかバーカバーカ!」


「( ;ツ ゜゜)ツ」


「忍愛さん、落ち着いてください。 今喧嘩したところで状況が好転するわけじゃありません」


 クラップハンズとともに2人を引きはがし、おかきは深呼吸して周囲を見渡す。

 いくら目を凝らそうともおかきの目に狐火は見えない。 唯一視認できるのはタメイゴゥが尻尾を振り回し、火花のような光が散っては消える瞬間だけだ。


「……でも、このままじゃ勝てないのは事実ですね。タメイゴゥ頼りでは時間がかかりすぎる」


「むぅ、我にもっと力があれば……」


「まだタマゴだからしょうがないでしょ、というかこの狐火って妨害行為じゃないの?」


「勝負の内容は“先にスタンプを埋めた方が勝つ”というだけです、妨害行為は禁止()()()いませんよ」


「えー、なにそれズルじゃん……ってあれ? 新人ちゃん今なんて?」


「そんなことより妨害が有効なら攻撃されても文句は言えないだろ、いっそこちらから仕掛けるか?」


「(・ω・`三´・ω・)」


「クラップハンズさんの言う通りですね、“遊戯のルール”とこの“祭り会場のルール”は別です。 人間から神に攻撃すれば天罰を受けますよ」


「ハメ技じゃないか!?」


「そうですね、我々は一方的にウカさんからの妨害を受けますがこちらから攻撃することはできません。 圧倒的に不利な状況と思ってもらえればOKです」


「なんでちょっと嬉しそうなのさ新人ちゃん……もしかしてまたルールにあくどい罠とか仕込んでる?」


「人のことなんだと思っているんですか忍愛さん、そんな部長みたいな真似はしませんよ」


 かつてのボドゲ部なら、プレイヤーのスキルを少しだけ上回るスパルタな落とし穴がいくつも仕組まれていたかもしれない。

 だが今回おかきが敷いた条件は、シンプルにスタンプラリーを完成させるというただそれだけ。 なぜなら今回の相手はおかきをよく知るウカだからだ。


「下手な仕込みは相手に気づかれると悪用されます、公平性はヤタガラスさんたちに担保してもらって私たちはルールの中で戦いましょう」


「じゃあ気づかないような相手なら仕組んでたんだ」


「SICKで一番性格悪いのこの小娘なんじゃないか?」


「うるさいですね……そうこうしている間にまた差が広がってますよ」


 おかきが見上げた会場の空には、いつしか金魚たちが集まってドローンアートのように2つの点描を形成していた。

 四角で区切られた升目で表されているのはウカノミタマとおかき、両陣営のスタンプカード。 そしてたった今、ウカノミタマのカードに5つ目の丸印が付け加えられた。


「ウワーッ!? ヤバいよ新人ちゃん、パイセン本気じゃん!」


「そうですね、それじゃそろそろ追いつきましょうか。 タメイゴゥ」


「うむ、なにか策があるのだなご主人すずん? 任されよ」


「お、おい何をする気だ小娘? 危ないぞ」


 抱えたタメイゴゥをしっかりと両手で抱き直したおかきは、前を歩くジェスターの一歩前に出た。

 そして肉壁ジェスターもないまま、不可視の地雷が漂う参道をズカズカ闊歩するが、 おかきの身体に狐火が触れることはなかった。


「うわっ!? 新人ちゃん待った待った、いくらタメイゴゥいるからってそんな……そこのピエロ盾にしなって!」


「貴様ァ!!」


「大丈夫ですよ、配置はおおかたわかりました。 狐火は私たちに見えないだけでそこに実在します、逆に言えば神様には見えているということで……タメイゴゥ」


「うむ」


 足を止めて目の前の空間を指で示すおかきに応え、タメイゴゥが尻尾を振るう。

 忍愛たちには何も見えないその座標を尻尾が掠めた途端、火花のような光がバヂリと爆ぜて消えた。


「……他の神々から見て邪魔になる位置には狐火は置けない、もしくはすでに退かされています。 あとは神々の導線をなぞれば被弾は避けられるはずです」


「細かい部分は我が弾く、完璧な作戦だな」


「あーなるほどね大体わかった、つまりそういう事だよピエロくん」


「お前絶対理解してないだろ。 だが被弾を避けても肝心のスタンプが……」


「問題ありません、すぐに追いつきますよ――――ヒントはウカさん本人がバラまいてくれていますから」

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