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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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ギンイロオバケの怪 ④

「……おかき、どないや?」


「ダメですね、着信はありません」


 おかきは通話が途切れてから一日千秋の思いで小山内からの連絡を待っていたが、いくら待てども彼女から折り返しの電話が掛かることはない。

 おかきから掛け直そうかとも迷ったが、小山内の状況が分からぬまま着信を鳴らせば彼女の不利益になるかもしれないため、迷いながらも手をこまねいていた。


「どうする? ホテルに殴り込み仕掛けるならギリギリ脱法の薬物用意できるけど」


「一番戦力外なお嬢が一番血の気多いやん」


「ダメです、先生としてもSICKとしても許可しません。 小山内先生……このみが逃げろと言ったなら私たちはそれに従うべきだわ」


 甘音が荷物から取り出した謎の薬ビンたちを詰め戻した飯酒盃いさはいは、先走ろうとする生徒たちを視線で牽制する。

 小山内 好との通信が途絶したこの状況、もっとも焦りを覚えているのは交友関係の深い飯酒盃なのは間違いない。

 それでも彼女はSICKのエージェント。 命のかかる現場で私情を優先することはできなかった。


「好が装着していたGPSは間違いなく青凪ホテル内にあります、何らかのトラブルがホテル内で起きたことは間違いない」


「そこまでわかっているなら早く助けないと……」


「藍上さん、この状況で恐れるべきは全滅です。 私たちは好に何が起きたのかわからない、そんな状態でわざわざ敵地に踏み込む真似なんてできません」


「ですがそれは……見捨てるということですか?」


「…………」


 おかきとて飯酒盃が言いたいことは理解している、理性的に考えればどちらの言い分が正しいかも。

 飯酒盃に比べればおかきたちと小山内の付き合いは非常に浅い、学園でもたまに顔を見かけては挨拶するぐらいだ。

 それでも先ほどまで通話していた相手を見捨てられるほど、おかきはまだ非情になれない。


「……この場の判断はすべて私の責任です、局長たちにもそう伝えます。 だから藍上さんたちは気にしないで」


「待ってください……待ってください飯酒盃先生、まだ何か手があるはずです。 何か妙案が……」


「ふむ、であればここはバニ山さんの出番ではなかろうか? 猫も杓子も手を貸す時代だ、左手を差し出そう」


 バニ山は回収したロケットパンチをそのままおかきへ差し出す。

 SICKならばここは引くべきだ、しかしLABOならどうだろうか?

 目の前に謎の液体生物という知的好奇心をくすぐる存在があるというのに、ここで腰が引ける研究員はLABOにはいない。


「バニ山さん……まさか、ホテルに行くつもりですか?」


「潮音が攻撃された、その原因がホテルにあるならばメイドとて怒髪天を突く。 バニ山さんは行くぞ、止めても行くぞ」


「らしいで飯酒盃ちゃん」


「え……えぇ~? ちょっと待ってちょっと待って、もしホテルが黒幕ならここで刺激するのは悪手だと先生思っちゃうんだけどぉ」


「ここで手をこまねくほど、ロリコンのお客人は生存率が下がるとバニ山コンピューターがはじき出した。 彼女もいまだ当旅館のお客に違いない、メイドとしてお客人の安全を守る義務がある」


「ねえおかき、彼女1人で潜入ってできると思う?」


「どうでしょうね、私もバニ山さんの能力は詳しく知らないのでなんとも。 飯酒盃先生はどう思います?」


「はわ、はわわわわわ……」


 飯酒盃の顔面は蒼白だった。

 この中でバニ山のスペックに一番詳しいのは飯酒盃だ、つまりはそういうことである。


「あのあのあの、あのねバニ山さん? 昔から何度も言ってるけど私たちは秘密組織でね、あまり目立つと困っちゃうなーって……」


「大丈夫だ、このピカっとライトを借りる。 目撃者はメイドの土産にこれをピカっとしてやろう」


「簡易記憶処理装置ー!!?」


「ああ、さっきの騒ぎで私が落とした……」


「なに、大丈夫だ。 バニ山さんに今まで一度でも落ち度があったか?」


「いっぱいあるぅ……SICK時代の補填額だけで憶行くぅ……!」


「苦労してたのね」


「しかしそうなると必要じゃないですか? お目付け役」


 お客第一で始まったバニ山の暴走だが、しかしこの状況はおかきにとって好機だった。

 すかさず胃を痛める飯酒盃に取り入って行われる言いくるめと説得ロール、半分は詭弁だがそもそも当初の目的はバニ山の捕獲だ。 SICKとして手の届かないところにバニ山を放つわけにはいかない。

 物語の目的とプレイヤーの情に付け込む、それはボドゲ部仕込みの話術だった。


「…………わ、わかりました。 ここは責任をもって先生がバニ山さんに付き添って」


「いえいえ戦力バランスを考えましょう、潮音さんだっていつ目を覚ますかわかりません。 先生にはこの場に残りSICKへギンイロオバケの報告と、潮音さんのケアをお願いします」


「うぐ、うぐぐぅ……」


「SICKのエージェントが言いくるめられてるわよ」


「まあ、SICKへの報告なら飯酒盃ちゃんが繋ぐのが一番スムーズやな。 おかき、うちもついて行こか?」


「いえ、ウカさんもここに残ってください、甘音さんたちの護衛を頼みます。 追加のオバケが出ないとも限らないですし」


 畳に染み込んだ液体はもはやピクリとも動かないが、だからとこの液体生物が1匹だけとも限らない。

 もし2体、3体と現れれば飯酒盃だけで対処するのは厳しい、広範囲の放電や幻術を扱うウカがともに旅館の警護に当たれば安泰だ。


「バニ山さんの肌にギンイロオバケの攻撃が通じないのはこの目で確認済みです、信じてもいいですか?」


「任せるがいいお客人、バニ山さんはユニバースメイドランキング年間トップテンを逃したことが無い。 タイタニックに乗ったつもりで安心なされよ」


「沈むでそれ」


「では行こうお客人、青凪ホテル目指してヨーソロー!」


「えっ、ちょっと待ってください行くってどうやって」


 ロケットパンチをはめ込んだバニ山はおかきを抱きかかえると、部屋を飛び出して中庭へと躍り出る。

 見上げた空は満天の星空が瞬いており、こんな状況でなければおかきもため息を零して見とれていただろう。


 突然バニ山の背中に機械的なウイングが生え、燃料を吹かす断続的なエンジン音が聞こえるこの状況下でなければ。


「舌を噛むなよお客人、これより当機は発射体制に入る。 だがオゾンより下なので安心安全安息、事故が起きたというクレームは1件しかない」


「待ってください待ってください、シートベルトとかないんですか? そもそもこんな翼で安定して飛べ……」


「カウントダウン・スリーカウント! 3、ゴー!!」


「2と1も数えてええええええぇぇぇ……!!」


「おかき、バニ恵と関わるとそうなるんやで」


「おたっしゃでー……はぁ、SICKに戻ったら始末書かなぁ……」

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