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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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オーシャン・ミステリー ④

「完璧よ……もはや教えることは何もないわ」


「なんですかこれー!!?」


「着てから文句言うても遅いでおかき」


 海の家に併設されたレンタルショップで水着を吟味すること小一時間。

 試着室のカーテンをまくったおかきの赤面を確認し、甘音と店員は渾身の出来栄えに無言のハイタッチを交わす。


 水着の色調は本人なけなしの希望を尊重し、黒を基調とした大人びた色合い。

しかしハイウエストの切り替えが逆にウエストの細さを際立たせ、未成熟なラインをむしろ強調。

 肩を包むシアー素材のフリルスリーブは露出を抑えるためのチョイスだったが、風に揺れるたびにまるで人形のようなあどけなさを纏わせる。

胸元のクロスデザインも大人っぽいはずだが、そこに宿る影はまだ何かを真似ようとする子供の必死さを隠せない。 極めつけは背中にあしらわれた大きな赤いリボンだろう。

本人の目に入らない位置にあるそれが、見る者にだけ伝える“背伸びの証明”――――大人に移り変わろうとする少女、その絶妙なバランスを全体で表現していた。


「店員さん、例のものは揃ってる?」


「はい! 小物としてラフィア素材のつば広帽子、クリアサンダル、パール調のネックレスを取り揃えました!」


「完璧よ……レンタルなんてもったいないわ、全部買わせてちょうだい」


「海の家でブラックカード取り出すやつ初めて見たで」


「待ってください甘音さん待ってください、せめてお金は私に払わせてください!」


 大盤振る舞いな甘音の支払いに慌てて割り込み、おかきは有無も言わさず電子決済で会計を完了させる。

 間一髪で友達間の金銭貸し借りを生まずに済んだが、結果としておかきは自らの手で自分に引導を渡してしまった。


「毎度ありがとうございまーす!」


「か……買ってしまった……数か月分の食費に値する水着……指折り数えるほどしか着ないであろう水着……っ!」


「もー、だから奢るって言ったのに」


「お嬢と友達続けたいから金の貸し借りは作りたかないんやろ、おかきも金ならあるんやからそこまで気にせんでもええやん」


「金銭感覚はそう簡単に豊かにはならないんですよ……はぁ、買ったものは仕方ないですね」


 一度着たものを返品する気にもなれず、買ったばかりの帽子を目深にかぶったおかきは店を出る。

 雲一つない青空も穏やかな波を立てる海も何も変わっていない。 変わったのはただ1つ、おかきの恰好だけだ。

 それでも帽子の影から見上げる景色も、肌に触れる風もなにもかも違うように思えた。


「……なんだか視線を感じます」


「そりゃそうよ、美少女が3人もいるんだもの。 山田がいれば4人だったわね」


「お嬢とおかきに並んだらうちが霞むわ、それにあそこに5人目おるで」


「あぁ~焼きそばと一緒に呑む生ビールの美味しいこと~~~!!! ……あっ、3人ともおかえりなさぁい。 藍上さんも綺麗になったわねぇ」


「ウカ、あれは残念美人の部類よ」


 併設された海の家のテラス席には、焼きそばを片手に上機嫌の飯酒盃いさはいが空のビールグラスを積み上げていた。

 白にタンキニに花柄のパレオを合わせたコーデはおかきとは逆にどこか幼さを感じさせる。 そんな女性がどんどんビールを空ける姿は嫌でも人目を引くものだ。

 現に余りの飲みっぷりに誘われてしまったのか、飯酒盃と同じ卓には飲みかけのグラスを握ったままのナンパ男がテーブルに突っ伏していた。


「飯酒盃先生? そちらの人は……?」


「えぇ~? 飲み比べしようって誘われたからおごりでいっぱい飲んじゃった」


「正体を知らないとはいえ命知らずもいいところね……」


「急性アル中になる前に潰れたのはせめてもの幸いやな」


「それはそれとして先生もいい水着持ってるじゃない、お酒以外興味ないと思って似合う水着考えてたのに」


「えへへ、これは昔買った奴でぇ……お腹周り誤魔化せるから……」


「お酒減らして食生活見直しなさい」


「ひえぇ……そ、そんなことより先生は皆さんがいない間に情報集めてたんですよ! 聞きたくなぁい?」


 露骨に話題を逸らした飯酒盃はテーブルに突っ伏したナンパ男の頭を叩いて起こす。

 飯酒盃もおかきたちが着替えている間にただ吞んでいたわけではなく、声を掛けてきた男たちから青凪ホテルと潮音旅館に関する噂を聞き出していた。


「う、うぅぅ……なんでしょうか姐さん……」


「見てみて、この子たち私の教え子。 さっきの話をもう一度聞かせて」


「わあ、全員美人……だけど一人児ポ……」


「なんですかこの野郎」


「どう? 私の自慢の児ポ友よ」


「2人とも話進まないからちょっと黙っててな? ほんでさっきの話ってなんなん」


「えーっと……なんだったかな……ああそうだそうだ」


 ウカから渡された酔い覚ましの水を飲み干すと、ナンパ男はとつとつと語り始める。

 酒によって酩酊しているが辛うじて理性は保っており、その口から語られる内容も信憑性があるものだった。


「俺、大学のサークル仲間と一緒に来たんすよ……そんで昨日の夜に見ちゃったんだよね、オバケってやつ?」


「幽霊を見た? もしかして潮音旅館に泊まっているんですか?」


「へっ? いやいやあんなボロ旅館泊まらねえって、ってか君ちっこいけどマジ可愛いじゃん? ねえよかったらこの後俺と……あっごめんなさい嘘ですほんとすみません」


「次身長のことほざいたらサメの餌になると思ってくださいね」


「ハイ!! えっと俺が幽霊を見たのはっすね、旅館じゃなくてこの先の岬っす!!」


「岬……? そこに幽霊が出るんですか?」


「そうっす! 最近あの辺りはホットな心霊スポットなんすよ、なんでも――――()()()()()()()が出るとか」

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児ポ友とか言うワードいいな、日常生活で使っていきたい
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