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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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レッドリスト ②

 妖怪、と聞いて思い浮かべるものは何か。

 一反木綿、ぬりかべ、一つ目小僧、小豆洗い……人によって答えは様々だが、その中でも「河童」は知名度の高いものの1つだろう。


『どうした、トラブルかい? 何が起きたか説明できる?』


「説明……説明ですか、そうですね……」


「河童やな、河童がうちらの車に張り付いとる」


『なんて?』


「カパ……カッパー!!」


「あっ、逃げたわ」


 お互い視線を交わして硬直すること数秒、一瞬早く我に返った河童は一目散に逃走。

 まっすぐ川へと飛び込み、そのまま水しぶきをあげながらあっという間に下流の方へ消えて行った。


「速ぇな、ジェットボード並だ。 山田でもなきゃ追いつけねえぞ」


「あれが河童なのね、初めて見たわー……体液のサンプルが欲しかったのに」


「お嬢の殺気感じて逃げたんとちゃうか?」


 いつの間にか取り出していた注射器をしまい、口惜しそうに逃げた河童の跡を目で追いかける甘音。

 そんな適応の早い彼女とは異なり、比較的常識人よりの2人は揃って渋い顔をしながら首をかしげていた。


「いやあ……本当にいるんですね、河童って」


「存在は知ってたが俺もこの目で見るのは初めてだなァ」


『へー、珍しいな。 アレって水が綺麗なところにしか生息しない絶滅危惧種みたいなものだからさ、できればうちで保護したいところだけど』


「追跡は無理だぞ、地の利は向こうにある。 それにおかきの溺死を消化しねえかぎり水辺に近づくのは危険だ」


『わかってるさ、それに本題を疎かにしてはいけない。 優先すべきは“かわばた様”だ、まずはキャンピングカーの中に入ろう』


「そうね、山田が戻ってきたら調査を……」


「ヤッホー、カワイイ忍愛ちゃんのお帰りだよー! みんな拍手拍手」


「言うてる間にうるさいのが帰ってきたで」


「なんだよボク珍しく仕事してきたんだぞ!」


「ワーキャー騒ぐんじゃねえよ、成果があるなら聞かせろ。 車ン中でなァ」


――――――――…………

――――……

――…


「ウッヒョー! 中広ーい! ベッドフカフカー! ボク上の段使うからパイセン下ね下!」


「なんでもええから大人しくせぇや、ホコリ立つねん」


「けどホント広いわね、これもSICKの技術ってやつ?」


 おかきたちが乗りこんだ車内は二段ベッド、キッチン、トイレ、風呂場、上下階に分かれた居住スペースまで確保された一軒家に匹敵する居住性を有していた。

 そのうえ窓はすべて防弾仕様、運転手さえいれば戦地のど真ん中も駆け抜けられる宮古野製の特殊車両である。


『軽い空間拡張を施してあるぜ、内部空間は外見よりおよそ1.5倍ほど広い。 食料や着替えも用意してあるし電源も確保できる、夏休みいっぱい過ごしてもお釣りがくるとも』


「ボクここに住む!」


「飽きたら帰って来ぃな」


「山田、ふざけてねえで報告を寄越せ。 お前のことだから手ぶらってわけじゃねえだろ」


「さっすが悪花様、わかってるじゃん。 それじゃぱぱっと話しちゃうね」


 毛布の上で跳ねてはしゃいでいた山田がベッドから飛び降り、10点満点の着地で悪花の目の前に着地する。

 ふざけているが忍愛の本職は忍者、彼女の諜報については悪花も信頼しているのだ。


「まずあのデモ隊だけどお察しの通りこの近辺にある限界集落の住民だよ、函船はこぶね村ってところ。 全体で50人いるかいないかって感じのコミュニティかな」


「このまま自然消滅も時間の問題って感じなのね、ダム開発に選ばれたのもそのせい?」


「そうそう、ここってちょうどいい山間地で都合がいいらしいんだよね。 建設してるのは黒岩エコロジーグループって企業」


「なんや胡散臭そうな名前やな」


『えーと黒岩エコロジー……あった、それちょっときな臭い企業だよ。 ヤクザの隠れ蓑に使われてる可能性が高い』


 通信機越しに高速でキーボードを叩く音が聞こえたかと思えば、おかきたちの端末に黒岩エコロジーグループの公式サイトに繋がるURLが転送される。

 リンクを開けば画面にデカデカと表示されるのは金歯を植えた社長の胡散臭い笑顔、その横には社名の通り掲げた「環境第一」の言葉を力説した独自ポエムが長々と添えられていた。


「ヤクザがダムなんて建てて何の用があるってんだ、死体でも沈めるつもりか?」


「もしかして“かわばた様”と関係があるんでしょうか?」


「さすがに理由まではまだわかんないや、けどかなり強引に立ち退きと工事を進めてるみたいだよ」


「キューちゃん、まさか魔化狼組の連中とちゃうか?」


 ウカが懸念したのは以前に超能力者の兄弟を人質にとり、高速道路爆走事件を起こした暴力団員と同じような連中が、またしても問題を起こしたのではないかということ。

 魔女集会も因縁がある事件に悪花の目も鋭さを増すが、2人の不安に対して宮古野みやこのはすぐに首を横に振った。


『いや、関わっているとしても暴対法で締め上げられる程度の木っ端だ。 “裏”の深いところまで知る連中じゃない』


「でも何か企んでそうよね、わざわざ住民の反対押し切ってダム建てるんだから」


「まあ俺たちにゃ関係ない……とは言い切れねえんだよな?」


『そうだね、現状維持を望むSICKにとっては避けたい状況だ』


 “かわばた様”は現状、出現方法も判明しているうえ手を出さなければ危険性は低いとみなされている。

 しかしダムが建設され、函舟村とともに“かわばた様”が出現する付近が水底に沈んだ場合、どのような変化が起きるか未知数だ。


「山田、潜入させて全員ボコってぃ」


「パイセンってボクのこと万能暴力装置か何かと思ってる?」


「相手の目論見が読めないし暴力は最終手段よ、それにいくら山田とはいえ暴力団がいるかもしれないところに一人で突っ込ませるのも不安だわ」


「えっ、ガハラ様が優しい……さては偽物か?」


「優しくしても雑に扱っても面倒くせえなお前」


『しかし本題の“かわばた様”にダム建設、それに謎の河童か……うーん、最初の想定より問題が増えちゃったぞ?』


「おかきの予知問題もあるで」


「おなかいたい……」


『現実から逃げるなおかきちゃん、ただこうもタスクが増えると手分けしたほうが効率的だな』


「それはちょっと危険じゃない? ただでさえおかきは爆弾抱えてるのに」


『だからこそさっさと起爆させてしまいたい、予知の危機さえ越えれば安心なんだ。 それに何も一人で行動させるわけじゃない、というわけでおかきちゃん』


「はい……なんとなく何を頼まれるかわかりましたよ」


『察しが良くて何よりだぜぃ。 というわけで君には頼むのは河童の調査だ、なるべく溺死しない程度に溺れることを願っているよ!』


「ここだけ切り取るとブラックな職場よね」


「切り取らなくてもドブラックやで、この業種」

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