イカれた連中 ②
「まずクーデターの理由だけどな、ざっと説明するとこの惑星は1人の王様が治めてんだ。 だけどそこの宰相がコスいやつで裏切りやがってな」
「1惑星1国家ですか」
「夢がデカいうえにディズ〇ーみたいなヴィランね」
「そのヴィランの手で王は謀殺、姫は今までの話どおり俺らが保護してるってわけだ。 母星じゃ妾の子だとか王の血を引いてないとか根も葉もない噂を流され国民全員から敵扱いだ」
「噂ちゃうやろクロやろこんなん、タコの星の女王がイカやで?」
「本人はクロどころか真っ白だけどね」
「やかましいわ」
「ところでそのお姫様は今どちらに居るんですか?」
「魔女集会で保護してたが攫われた、この不良どもの手によってな」
「俺たちもタコに頼まれたんだ、まだ引き渡す寸前だったんだから許せ」
玉座に座す病人と腹に穴を開けた怪我人がにらみ合う。
互いに敵対する組織のトップ、一触即発にも見えるこの状況だが満身創痍の2人が殴り合いに発展することはない。
「この箱庭は姫様が乗り捨てたいわば亡命船だ、それを俺たちが不良の隠れ家として利用していたが……追いかけてきたタコ星人どもに見つかった」
「よくその時に殺されなかったですね」
「あいつらは人間に興味がない、利用価値があるなら不必要に殺さないさ。 俺たちはあいつらに地球の資源を提供することで生きながらえてきた」
「それがオークションの実体ってわけね、でもタコも空気清浄機とかゲーム機ほしいものなの?」
「船の修復と資源調達が目的らしい、母星に帰るまで燃料や機材が足りないらしくてな。 さて……」
キングが扉へ視線を向けた途端、重い衝撃が部屋全体を揺らす。
特大の重量物が扉にぶつかるような音、それは1度だけで終わらず、2度3度と繰り返され、そのたびに扉を軋ませた。
「とうとう嗅ぎ付けられたか、表の連中は全滅だな。 特別頑丈な扉だがこのままじゃ5分と持たねえ」
「キング、俺たちも最後まで戦いますぜ!!」
「やめとけ。 俺たちの武装は全部タコどものお古だ、どう考えたって分が悪い」
「退路はないんですか? 悪花さんたちはどこから侵入したんです?」
「俺の能力で座標特定してあとは転移能力者に運んでもらったんだよ。 帰還のアテはねえ、全員ぶちのめして徒歩の予定だった」
「強気ね」
「ということは帰路は確保していないわけですか、この部屋に他の逃げ道は?」
「ない、この部屋が最終防衛ラインでありコックピットだ。 ここが奴らに制圧されると姫様とやらは二度と母星に帰れなくなるな」
「そうだ、忘れるところでしたがその姫様はいまどちらに?」
「そこの壁にデカい箱が置いてあるだろ? あの中でコールドスリープ中だ、タコどもは生かしたまま姫を連れ帰ってから処刑するつもりだ」
「冷凍しとかんとアニサキス怖いからな」
「パイセン、一回イカから離れようか」
そうこうしている間にも部屋を揺らす衝撃はどんどん激しくなり、今にも扉は突き破られようとしている。
生き残りの不良たちが一丸となってバリケードを抑え込んでいるが、もはやいつ破られてもおかしくない。
「キング! ダメです、俺たちじゃ抑えきれねえ!!」
「ボスー! なんとかしてー!!」
「なんだなんだだらしない連中め、どいてろボクがなんとかするからさ!」
必死にバリケードを押さえる面々を割り、衝撃の間隙を突いて忍愛が扉を開ける。
武装は脅威だが本体の戦闘力は大したものではないと高を括った忍愛を待ち受けていたのは……天井に頭をこするほどの体躯を誇るマッチョのタコだった。
「KILL YOU...」
「オジャマシマシタ…」
「何閉めとんねん」
「ダメだよパイセン出て行ったら殺されるよアレ。 一体だけすげえ流暢に喋ってるもん、英語ペラペラだもん」
「山田テメェが邪魔したせいでバリケードの寿命一気に縮んたぞ!」
「ごめんってば悪化様ァ! でも無理だってムキムキマッチョメンの変態だよ!?」
「いいから責任取って突っ込んで死んで来い、骨は拾ってやっからよォ!」
「なんか割と絶体絶命みたいね……ところでおかきは何やってるのよ」
「いえ、先ほどの話によるとここって宇宙船のコックピットなんですよね?」
後ろでわちゃくちゃで揉めているカフカたちを一瞥もせず、おかきはキングが座る玉座付近の装置を調べていた。
レバーやボタンに計測器などが並ぶさまは飛行機の操縦席にも似ているが、当然おかきは操縦技術も知識もない。
それでも装置の位置やメーターからどれを動かせばどうなるかというのはなんとなく推測できた。
「キング、この宇宙船はまだ動かせますか?」
「いや……ところどころガタが来ている、動かせはするが宇宙までは無理だ」
「なら多少は飛べるという事ですね、十分です」
「おかき、何する気や? とんだところで同じ船に乗っとるタコからは逃げられへんで」
「無茶苦茶に揺すって脅かしてやろうと思いまし……てっと」
おかきが挿しっぱなしのイグニッションキーを回し、操縦桿らしきレバーに体重をかけて目いっぱい後ろへ倒す。
とたんに部屋が大きく傾き、戸惑う無数の声と共に扉を襲う断続的な衝撃も一時的に止まった。
「この船も地球由来の部品で修理していたんでしょうね、ところどころ見覚えがある装置で助かります」
「助かりますってアンタ……運転できるの? 免許は?」
「昔ボドゲ部でレースゲームなら何度か」
「ちなみに順位はどのくらいや?」
「常にビリでした、コウラとカミナリの扱いには自信があります」
さらに床の傾斜がきつくなり、タコたちの攻撃とは異なる不可解な振動が部屋全体を揺する。
なぜか自慢げなおかきの表情とは裏腹に、その場にいた全員の顔色からさっと血の気が引いた。
「ウカ、山田、誰でもいいから操縦桿を奪えェー!!」
「酔い止めあるけど飲む?」
「間に合うかな……」
ウカたちは忘れていた、普段は常識人ぶっているがおかきもまた変人側であることを。
そして敵味方関係なく、全員を巻き込んだ恐怖のジェットコースターが始まった。




