イカれた連中 ①
「オッラァ!! 往生せえや!!!」
「降伏は無駄だ、暴力させろ!!」
「蛮族の集まり?」
炎上する城の最奥、硬く閉ざされた分厚い鉄扉をウカと忍愛の2人が蹴り破る。
ドミノのように倒れた扉に押しつぶされたバリケードの向こう、そこには闖入者に対して一斉に銃口を向ける不良たちが待ち構えていた。
「し、死ねええええええええ!!!!」
「ほいほい、みんな伏せてやー」
「むぎゅっ」
堰を切って溢れる銃声を前にウカは一切焦ることなく、おかきたちの頭を押さえてその場に伏せる。
雑でいい加減な回避行動だが、ウカの幻術に騙された無数の銃弾はすべておかきたちのはるか頭上を飛び越えて行った。
「ひ、ひぃ!? ひと、人撃っちまった!?」
「お、おおお俺そんなつもりじゃ……!!」
「もー、トラウマになったらどうすんのさパイセン。 全員寝てな」
リロード、弾切れ、恐慌、後悔、網膜に焼き付いた幻術に各々の射撃が止まる合間を忍愛が駆け抜け、全員のアゴに的確な一撃を加えて意識を刈り取る。
扉を蹴破ってからおかきが伏せるまでの数秒間、たったそれだけで部屋にいた不良たちは1人も残らず無力化されたのだった。
「ふぃー、やるじゃない山田。 やるときゃやる忍者ね」
「いえーい、もっと褒めて褒めて。 忍愛ちゃん可愛いっていって」
「お嬢、あんま調子乗せんといてな。 ほんでチビっ子、こいつらのボスってどいつや?」
「違う、こいつらじゃないよ! キングはもっとこう……」
「――――人のアジトでずいぶん暴れてくれてるな」
銃声が鳴りやんだ部屋に床を叩く硬い音が響く。
倒れた不良たちのさらにその奥、陰の中からゆっくりとした足取りで現れたのは杖を突いた小柄な少年だった。
「ぐっ……き、キング……すんません……!」
「喋んな、手加減されたとはいえ脳が揺らされたんだ。 俺たちの負けだよ」
「あれが……新人ちゃんが追いかけてたオークションの親玉? うっそぉ……」
それは不良たちの元締め、というにはあまりにもイメージからかけ離れていた。
はだけた病院服の胸元から浮き出たあばら骨が覗き、肌は不健康なまでに白い。
触れれば折れてしまいそうなほどか弱く病的な子どもだ。
「その反応はもっともだが認識に間違いはない、こいつらにキングと呼ばれている者が俺だ。 悪いが今は立て込んでるのでお引き取り願いたい」
「ゲホッ……そういうわけにもいかねえんだよ、こっちだって……」
「あっ、悪花様が起きた!」
「こっち怪我人であっち病人ってどうなっとんねんこの両トップ」
「無茶しちゃダメだよボス!」
「うっせ、いいから降ろせ……おいキング、こっちの用件は分かってんだろ」
「ああ、こっちの負けだ。 あいつは隠し部屋にいる、ついてこい」
「悪花さん、私たちまだ話が見えないのですが……」
「悪いが後だ、そこの脳筋2人が扉蹴破ったせいでいつタコどもが突入してくるかわからねえ。 ウカと山田のアホは責任もってバリケード組み直せ」
「テメェらも動ける奴は気失ってる奴に肩貸して奥の部屋に押し込め、探偵部の連中もついてこい。 聞きたいことがあるんだろ?」
――――――――…………
――――……
――…
「悪いな、こんな格好で。 見ての通り病人なので許してくれ」
「いえ、それは構いませんが……どういう部屋なんですか、ここ?」
キングによって案内された奥の隠し部屋、そこはこれまでの中世式の古びたデザインとはかけ離れた近未来的な様相を呈していた。
壁の一面には城内の各地点を映す夥しい数のモニターが張り付き、不良たちにキングと呼ばれた少年はその前に置かれた玉座に座りながら腕に点滴を刺している。
「まずこの部屋を見て驚いただろう? 端的に言えばこの部屋は操縦席、そしてこの箱庭はあのタコたちが乗っていた宇宙船だ」
「宇宙船……ちゅうことはあのタコども地球を侵略してきた宇宙人ってことか!?」
「違うな、アレから見れば地球を狙うメリットが無い。 目的は他にある」
「クーデターだよ、あのタコどもの星で王政が崩れイデデデ!? おい縛りすぎだガハラァ!」
「あんたどうせ安静にしないんだからこれぐらいキツく締めとかなきゃ止血にならないでしょ、いいから怪我人は大人しくしてなさい」
「タコにも王様っているんだ」
「タコに似ているだけで別種の生き物と見たほうがいいですよ。 しかしクーデターとは……理由は分かりましたが何故そこに両者の介入が?」
「キングは悪くねえんだ! ただ俺たちが……」
「止せテメェら。 俺とタコのかかわりは簡単だ、相互取引相手だよ」
先走る不良の言葉を遮り、キングは語り始める。
顔色も悪く吹けば飛んでしまいそうなほど脆弱な少年だが、そこには上に立つものとしてのケジメと矜持があった。
「見ての通り身体が弱くてね、医者には成人まで生きるのは現代医学では無理だと言われた」
「だから宇宙人の技術に頼って生き延びようってことね、でこの部屋に医療機器充実してるわけだわ。 代わりに金目の物を盗んで提供してたってところかしら」
「そういうこった、察しがいいなパラソル製薬の御令嬢。 俺たちがこの赤室で“箱庭”を見つけたのは偶然だが……端的に言えばこのブリキ缶はタコたちが乗ってきた宇宙船だ」
「どういうことやねん」
「言葉通りだよ、地球の常識じゃブリキ缶にしか見えねえがタコにはこの形が理にかなってるんだろ。 金の生る木もあいつらから提供されたもんだ」
「ちょっと待ってください、あの宇宙人の星はクーデターが起きたといいましたよね? そしてこの宇宙船に乗って地球にやってきた……それは誰ですか?」
「いい勘してるぜおかき、そこから先は魔女集会の話になる。 タコ惑星で王政が崩れたって言ったろ? そこの姫様を俺たちで匿ってんだ」
「どういうことやねん」
「流れでそうなったんだから仕方ねえだろ。 ガハラ、俺の上着に写真入ってるだろ」
「これね、写真って言っても全員タコで見分けつかないけど……」
甘音が血の染みが滲んだ上着から写真を引っ張り出すと、姫のご尊顔を拝もうとSICK一同がその後ろからのぞき込む。
甘音の言う通り顔の判別がつく自信はなく、全員が興味本位の面白半分。 それでもその顔を見たウカは思わず目を見開き、声を荒げずにはいられなかった。
「…………イカやないかーい!!!」
雪のように白い肌に、槍のように尖った頭部。
写真に写っていた姫様は地球の感覚で例えるなら……間違いなく「イカ」だった。




