金の生る木 ⑤
「おーいみんなー! 予定通り捕まえたよ褒めて褒めて!」
「でかしたわ山田、先生の言う通りうまく引っかかってくれたわね」
「何か有力な手掛かりを得た振りをして派手に動き出せば監視役も黙っていられない、さすが飯酒盃先生ですね」
「飯酒盃先生って何者なんですの!?」
「まあまあその話は追々ね、というわけでさっさと知ってること吐くんだよオラァ」
「ぐへっ! ひ、ひぃいいぃいぃぃ!!」
忍愛によって簀巻きにされた少年が旧校舎の床に投げ出される。
その顔は恐怖に歪み、戦意など欠片もない。 暴力を用いずとも忍愛が軽く脅せばキリキリ情報を吐き出してくれるだろう……知っていればの話だが。
「新人ちゃん、何から聞く?」
「まずは所属する組織の構成人数を教えてください、あなた一人で私たちを監視していたわけではないでしょう?」
「し、ししし知らない! 知らないよぉ!!」
「多分中等部の子ね、顔は割れたからあとはいくらでも特定できるわよ。 あんたも女の子ストーキングしてましたなんて噂流されたくないでしょ?」
「本当に知らない! 俺はただバイトで雇われただけなんだって!!」
「……バイトですか」
「そういえば新人ちゃん、こいつこんなの持ってたよ」
忍愛は少年から押収したスマホをおかきに放り投げる。
とくにパスワードも必要なく、起動すると最低限のアプリと連絡先しか登録されていない。
通話履歴もたった1度、数分前におかきたちの行動を確認した時のものが最初で最後だ。
「どう見ても私用の携帯ではないですね、これは?」
「ば、バイトを受けた時に渡されて……」
「なら捨て端末ね、この番号から犯人を辿るのはおそらく無理よ」
「バイトを受けた、といいましたね。 それはどこで?」
「えっと、ネットの求人アプリで……」
「そのアプリを教えてください、それとあなたの名前と学年も。 また何かあればあなたから聞くこともあるかもしれないので」
「ひ、ひいぃぃぃ……年下なのに一番容赦ない……!」
「高等部です」
――――――――…………
――――……
――…
「うーん、作戦はうまく嵌ったけど成果はゼロね。 本当に何にも知らない下っ端よあれ」
「抜け目ないね、しっぽ切り要員まで使うなんて相当入念だよ」
「つまりそれだけ組織化しているということです、こうなるとオークションの信憑性も上がってきますね」
「おかきさ~~~ん、そろそろ入室してもよろしくて~~~?」
「っと、もう入っても大丈夫ですよよもぎさん」
少々過激なインタビュー現場を見せないために遠ざけていたよもぎを部屋に招き入れ、おかきたちは再び旧校舎の教室に集合する。
ただ集まり直したからと言って有意義な会議が始まるわけでもなく、むしろ時間をかけた割に状況は好転していないため、沈黙は重苦しくなる一方だ。
「どうしましょう……このままではおかきさん含め女子たちの下着が見知らぬ殿方の手に!!」
「改めて言葉にされると精神的にキッツいわね……あまり気に揉まない方がいいわよ、おかき」
「別に下着の1枚なくなるぐらいは大した問題はないのですが、そこのところ少し気になっているんですよね」
「ん、なにが?」
「いつ下着が盗まれたか、ですよ。 あの下着ドロ事件で私たちの部屋は被害に遭っていないはずです」
「あっ、そういえばたしかに」
「部屋にタメィ……セキュリティも固いのでそう簡単に盗める環境ではないんですよね」
物理的な存在にはタメイゴゥ、霊的存在には陀断丸という二重のセキュリティがおかきたちの寮部屋には常在している。
並大抵の変態では下着を収納している棚に触れることすらできない、そうでなくとも何か異変があればタメイゴゥか陀断丸が気付く。
「洗濯の隙狙われたんじゃない? 新人ちゃんも共用のランドリー使ってるんでしょ」
「女子の結託は固いわよ、おかきが不用心でもノコノコ男子に盗ませるほど節穴じゃないわ」
「じゃあ女子が犯人なんじゃないの?」
「甘いわね、女子ならガードの薄い本体を直に狙うわ」
「なるほど」
「なるほどじゃないんですよ」
「むむむ……さっぱりわかりませんわ! おかきさんの下着もお店の商品もどうやって盗まれましたの!?」
「そういえば店の商品って言うけどどんなものが盗まれてるのよ」
「それなら調べてきましたの、こちらですわ!」
自信ありげによもぎが卓上に広げたのはこの赤室学園を正確に模した地図。
そしてその上から整ったペン字と付箋で装飾されているのは、盗難被害を訴えた店舗とその被害リストだ。
「うへぇ、よく調べたねこれ……見ただけでうんざりしてきた」
「友達への聞き込みと後は足で稼ぎましたわ、探偵の基本でしてよ!」
「さすが第二探偵部の部長さんね。 それでおかき、これ見て何かわかる?」
「……被害店舗に規則性はなさそうですね、ただ盗まれたものはさすがに高級品ばかりですか」
ゲーム機、家電製品、ハイエンドPC、医療器具、実験備品、はては美術品や貴重なコレクションに至るまで、盗まれたものは多種多様だがどれも高級品ばかり。
逆に言えば法則性はそれしかなく、あとは店舗も個人も関係なく手当たり次第に被害を被っている。
「売れば総額いくらになるんですかねこれ……なんだかめまいがしてきました」
「あとにしなさい」
「それにしたってこれじゃ先回りも出来そうにないね、手あたり次第目についた高い物かっぱらってる勢いじゃん」
「…………1つだけ方法なら思いつきましたが」
「それにしてはなんだか歯切れが悪いわね、もしかしてSICK関係?」
「ええ。 レポートでは大抵役に立たない、だけどたまに役に立つアレをお借りしようかと」




