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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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金の生る木 ①

「へーなるほど、そんなことがあったんだ。 それでそのウマ幽霊は?」


「丁重に弔っといたわ、畑荒らしは許してへんけど悪霊になっても困るからな」


「おかげで桜も消えちゃいましたけどね、甘音さんがサンプル採取できなかったと嘆いてました」


「花見もできなかったよー! 僕のただ飯計画が!」


 SICKの食堂に忍愛のむせび泣く声が響く。

 ウマ幽霊と万年桜の依頼を解決した翌日、ウカたちは念のために報告するため、SICKへ足を運んでいた。


「そんでこれが問題の遺骨、全部回収して火葬して壺に収め直したわ。 このまま埋葬してええか?」


「ん、念のためこっちでも一通り調べよう。 埋葬もSICKが管理してる動物墓地で弔うよ」


「大丈夫? 変なことしたらパイセンみたいに恨まれない?」


「ワハハ死人の恨みなら文字通り死ぬほど買ってるぜ、ウマ1頭分誤差だよ誤差」


「あんま調子に乗らん方がええで、また前みたいなモン相手にするのは勘弁や」


「何があったんですか一体」


「そのうちおかきちゃんにも話すよ。 それで万年桜だっけ、そっちの依頼は片付いたのかい?」


「ええ、残念ながら見つからなかったという話で言いくるめに成功しました。 少し気の毒でしたけどね」


 万年桜=白馬の幽霊と判明した以上、一般人にその正体を明かすわけにはいかない。

 そのためおかきは懇切丁寧に捜索範囲とその成果を説明したが、失恋直後で藁にもすがりたい青少年には受け入れがたく、納得するまで多大な労力と時間を要した。


「噂が広まり始める前に収拾をつけられたのは幸いでしたね、これならSICKが介入するまでもなく万年桜の噂もおさまるでしょう」


「ありがてぇ……本当にありがてぇ……そういえば万年桜に願い事はしたのかい? 願えば叶うという噂もあったそうだけど」


「えっ、何それボク知らない」


「うちもウマの相手で手一杯やったさかい、何か願う余裕あったのはおかきくらいとちゃうか?」


「……まあ実はちょっとだけ」


 依頼人から万年桜に願えば願い事が叶うという話を聞き、おかきも欲がよぎらなかったわけではない。

 ウマに誘拐されて桜の根元で眠りこける寸前、その話を思い出したおかきの脳裏にはある願いが過った。


「なになに恋バナ? 好きな子いるの新人ちゃん?」


「違いますよ、ただタメィゴゥと一緒に眠ってしまったときに父の夢を見たんです」


 桜に願ったのはおかきがSICKに所属する理由、ただ純粋に「父親に会いたい」という願い。

 家族がみんな平穏に笑って暮らす夢、あり得ない現実とはいえ再び父と再会できたのはおかきにとって嬉しいサプライズだった。


「あー……パイセン、弄りにくいやつだったからパス」


「急にノンデリのキラーパス投げるやん、当たり所悪かったら死ぬで」


「まあきっとその願いもいつか叶うさ。 なんたってここはSICK、不可思議事件の情報ならどこよりも集まる場所だ」


「そうですね……すみません、ちょっと飲み物買ってきますね」


 自分のせいで盛り下がった場の空気をリセットするため、おかきは適当な理由をつけて席を立つ。

 無料のドリンクサーバーはおかきが座った席の背後に設置されているが、それを指摘する者は誰も居なかった。


「……キューちゃん、実際どう思う? 願いが叶うって噂」


「それが事実ならおいらも残業失くしてくれって泣いて願い倒すぜ。 まあ経験上あり得ないと断言できないけど可能性は低いかな」


「ほな夢も偶然……いや、あのウマが気ぃ利かせてくれたかもしれへんな」


「自分を弔ってくれたお礼ってところかな、馬が干渉できる範囲じゃ夢を見せるのが限界だったということで()()()()()()


「と、いうと?」


「夢という形でしか叶えられなかった、というパターンが最悪だ。 もう当人がこの世にいないってことだからね」


「……おかきはその可能性に気づいとると思うか?」


「おいらもすぐに察しがついたんだ、彼女ならとっくの昔に理解してるはずだよ」


――――――――…………

――――……

――…


「ふぅー……ちょっと口が滑りましたかね」


 ウカたちの席から離れた自販機の前でおかきはため息を零す。

 1列がエナジードリンクで埋め尽くされた異様なラインナップの中、選んだのはコーヒー牛乳。

 秘密組織がどこから仕入れているのかは不明だが、それはおかきの父が愛飲していたコーヒーブランドだった。


「……父さん」


 早乙女 雄太として思い出す父の姿は、ほとんどが後ろ姿ばかりだ。

 苦労人という言葉が彼ほど似合う存在を雄太は他に知らない。

 婚約後に本性を現し、横暴な母から子どもたちを守るために日々仕事と子育てに挟まれ、くたびれたスーツの背中ばかりを見送る毎日だった。


 今でもあの失踪は事故だったのか事件だったのか、おかきにはわからない。

 手掛かりは一向に増えず、今あるピースで推測しようにも頭にもやがかかって先に進めない日々。

 それはまるで本能が「父親は死んでいる」という真相から目を背けたがっているように。


「ごめん、ちょっと避けてもらえる? 飲み物を買いたい」


「あっ、ごめんなさ……え゛っ」


「や、また会ったね。 この前はお疲れ様」


「お疲れさまって……何をやってるんですか、またキューさんに怒られますよ()()

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