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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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仏さま ②

「やあやあみんなお疲れさん、おいらが手を離せない間大変だったみたいだね」


「ああ……キューさん……お疲れ様です……」


「いや本当大変だったみたいだね?」


 旧校舎の部室にて目の下にクマを作ったおかきが宮古野を迎え入れたのは、下着泥棒事件から3日後のことだった。

 幽霊であるユーコでさえも疲労困憊という中、ただ一人元気を余したアリスだけが皆に慰労のお茶を淹れていた。


「…………おちゃ、どーぞ」


「やあありがとう、君はアリスちゃんだったかな? どういう状況なんだいこれ」


「事後処理がね……大変だったんだよボクら……」


「犯人は捕まったけど動機やらなんやら誤魔化さんといかん、ほんで本も秘密裏に処理しないとあかん、ついでにカタブツの風紀委員相手に言い訳もしないとあかん……特に風紀委員相手が一番しんどかったわ」


「あとアリスさんの暴行に正当性があったかどうか、厳正に取り調べられたので必死に弁護しましたよ……ええ、私探偵ですのに……」


『結果おとがめなしだったっすけど大変だったすね、みんなお疲れ様っす~……』


「その話を聞く限りだとユーコっちは何も関わってないようだけどなんで疲れてるんだい?」


『自分はこの本の管理任されて気が気じゃなかったんすよぉ! まだ若干神秘の温もり残ってるし!』


「すみません、安全に隠せるのがこの秘密基地ぐらいしか思いつかなくて」


「いやおかきちゃんの判断は間違いじゃないさ。 それで、問題の本はどこかな?」


 宮古野が用件を告げると、疲労困憊のユーコがフラフラと黒板裏に隠していた本を取り出す。

 仕事を止めてまで宮古野が赤室学園に足を運んだ理由がこの本だ。 おかきたちは知らず間一髪のところで阻止したが、危うく世界を崩壊させかねない爆弾でもある。


「うへぇ、神書だ……みんな、あとでボーナス出すから欲しいもの言ってね」


「そんなに危険なものだったんですか?」


「うん、たぶん儀式が成功していたら神的存在が顕現していたね。 被害規模はそれこそ神のみぞ知る領域だけど赤室全域に神の存在が暴露されるところだった」


「神秘の曝露か……なんやどっかのエセ教祖がチラつくのはうちだけか?」


「私もですよ、入手経路については犯人が回復してから聞き出す必要がありますね」


「そこまで手ひどくやったのかい君?」


「クタにょん」


 簡潔な回答とともにバールのようなものを振り回すジェスチャーを見せるアリス。

 あまりにも情報が少なすぎるが、当時の惨状を想起したおかきたちの表情を確認した宮古野は、大まかに何が起きたのか察する。

 そしてクタにょんに関してアリスを怒らせてはいけない、というのが全員共通の認識となった。


「ふむ、この刀傷は……陀断丸のものか、すでに内部に宿った神は死んでいるとみていいだろう」


『そっすね、まだ残ってたらどこかに跳んでるか自分が消し炭になってるかっすよ』


「自立移動するするんですか、その本?」


「ああ、儀式を実行してくれる人間を探して空間移動を繰り返すんだ。 なので基本こうやって偶発的に遭遇して捕獲するしかないんだ」


「偶発的……ですか」


「その通り、この本も偶然()()()この学園に転移してきたんだろうね」


 運が悪く、それは天敵である陀断丸の元へ飛び込んだ本人にとって間違いない評価だ。

 SICKにとっても寝耳に水の遭遇となった今回の件は運が悪いともいえる、準備が整っていなければ間違いないこの地に神が顕現していた。

 だが本当に“偶然”赤室学園に神書が現れ、“偶然”それが学生に拾われ、“偶然”儀式が実行されたのか? おかきの答えは「否」だ。


「……キューさん、この件で得をした人はいると思います?」


「神一柱の犠牲で自分の天敵がいることを確認したエセ教祖なら1人心当たりがあるぜぃ」


「これも“運がいい”っちゅうことか、ケッタクソ悪いなほんま……」


 “子子子子子子子に陀断丸の存在が知覚された”、この情報損はかなり重い。

 もしこの先の任務で名もなき神の教団と出くわした際、陀断丸の存在が露見していなければ初見殺しで子子子を無力化できたかもしれない。

 しかし「SICKに神殺しを果たせる存在がいる」と知られた今、子子子もその情報を前提とした安全策で行動することになる。


「見てくれ、革表紙の裏に髪の毛が挟まっていた。 おそらく負傷を肩代わる類の術だろう、いっそ陀断丸の特性ごと向こうに届いていたらいいんだけどね」


「こっちの神が死んでるならその線は期待薄やな、ダメージだけ引き受けて何かあった時の目印にしとったんやろ」


「えぇ、そのために自分の身体使うの……?」


「子子子子 子子子ならやるだろうね、お気に入りの神様ならとくに」


「ともかくこれで陀断丸さんの存在が向こうにバレたわけですね……キューさん、これからの行動は?」


「特に変わらないよ、君たちはこのまま学園生活を続けてくれ」


「ええんか? だいぶヤバそうな情報握られとるけど」


「お互い様だ、こちらもこうして子子子子子子子と思われる頭髪と神の遺体を一柱回収できた。 それにやつは慎重で狡賢いからね、陀断丸がいるとわかれば学園祭の時みたいに大胆な真似はしてこない」


『そりゃありがたいっすね、あんな神っぽいオーラ纏った人がポンポンやってきたら生きた心地がしねえっすよ』


「死んではるわ」


「それとおかきちゃん、お疲れのところ悪いけどこのあとちょっと時間あるかい?」


「むっ? 別に時間はありますが何でしょうか?」


「なに、グラーキ事件のインタビューが進んでね――――()()()()()()()()()()()()()()()()

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