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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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妖刀喚起 ④

「なんだよ、キューから聞いてなかったのか? 今日から俺の同室らしいぜこいつ」


「悪花さん……犯罪ですよ」


「引っ叩くぞオメー」


 アリスに抱き着かれたまま引きはがすこともできず悪戦苦闘すること数十分。

 ロビーで呆然と立ち尽くすおかきに助け舟を出したのは、着替えを詰め込んだバッグを抱えた悪花だった。


「そういえば部室の掃除しながらキューちゃんがそんなこと言ってた気がする」


「うちらも呪物の処理に手いっぱいで聞き流しとったなぁ」


「いや、アリスさんが保護されたことは知ってましたけど……早すぎません?」


 アリスの両親はどちらも哲学的ゾンビということもあり、現在はSICKの管理下に置かれている。

 そしてグラーキ事件の重要参考人として保護された彼女はSICKの存在を知ってしまった存在だ、そのまま社会復帰に送り出すことはできず、こうして訳あり学生として赤室学園に入学することはおかきも知っていた。

 だが手続きには手間と時間がかかるというもの、時期から見て新入生の中に混ざって春頃に訪れるものだとおかきは思い込んでいた。


「本人の希望だから仕方ねえだろ。 本当ならお前と同室が良かったらしいけどガハラを追い出すわけにもいかねえからな、メーワクなことに隣の俺んところへ転がり込んできたわけだ」


「そんな無茶苦茶な……」


「ハーッハッハッハ! 事情はよく分からないが無事に再会できたようだね、それでは無粋者はこれで去ることとしよう!」


「あっ、ロスコさんもありがとうございました! このお礼はいずれ」


「なに、お姫様を笑顔にするのが演劇部われわれの仕事さ! ハッハッハッハ次回公演もよろしくね!!」


「きっちり宣伝も忘れないわね」


「色々あって疲れたな……もう夕飯は食堂で何か作って済まそか?」


「えー、ボクパイセンの金で焼肉食べたい」


「ひき肉にしたろか」


「というか悪花はSICKにその子押し付けられてるけどそれでいいの?」


「だってガキに罪はねえだろ……」


「そういうところやぞ」


――――――――…………

――――……

――…


「ぷはー食べた食べた、やっぱパイセンの和食は格別だね」


「こいつただ飯のクセに一番食いやがったぞ」


「これで太りもしないんだからムカつくわね、一服盛っても効かないし」


「おっとボクの知らぬところで何か盛られてたぞ?」


「悪花さん、この辺の書類脇に退けますね。 荷物はこの辺に置いておきますから」


「だからなんで俺の部屋に集まるんだよテメェらはよォ!」

 

 おかきたちは食堂で夕飯を済ませると、その足で自室に直帰……することもなく、ぞろぞろと悪花の部屋へ集まり始めた。

 アリスが入居するからか、いつもなら足の踏み場もないほど散らかっている床は比較的清掃され、ろくに家具も置いていないおかげで大人数がたむろできるスペースも確保されている。 まさしく絶好の二次会スポットだ。

 ちゃっかり忍愛の手にはチー鱈やジュースが詰まったレジ袋がぶら下げられている、悪花の意思など関係なく居座る気満々だった。


「おっほー、広い広い。 新人ちゃんの推理通り片付けられてるじゃーん!」


「おいコラおかきテメェ!」


「違うんですよ悪花さん、私は推測を述べただけで実行犯は忍愛さん1人です」


「殺してやるぞ山田……」


「ボクに向ける殺意だけガチじゃない?」


「ええから後ろつまってんねん、さっさと中入り」


「廊下には野次馬も多いのよ、おかきとアリスが並ぶと劇薬ね」


 入り口を封鎖する山田の尻を小突くウカが部屋に入り、続けて可愛い新入生に群がる野次馬を千切った甘音が後ろ手で扉を閉める。

 そしてすかさずおかきが扉に盗聴防止用のジャミング機器を取り付けると、地べたに座る皆の中央に陀断丸を置いた。


「……これが例の新入りってか? まーたずいぶんヘンテコなのが入ったな」


「陀断丸さん、もう喋っても大丈夫ですよ。 この部屋には関係者しかいません」


『やあやあ我こそは陀断丸! ここが某の死に場所か!?』


「違います」


「希死念慮極まりねえな」


「…………」


 喋る刀剣ストラップが珍しいのか、おかきから抱き着いて離れなかったアリスが腰に回していた手を剥がし、陀断丸の鞘を指先で突っつく。

 物静かな彼女だが、キラキラと輝く瞳は何よりも雄弁に陀断丸への興味を語っていた。


「ねえウカ、今更だけどこの子も巻き込んでよかったのかしら?」


「しゃあないやろ、悪花と同室なら避けられん。 それにこの子もすでにSICK案件に巻き込まれ身、いわば身内同然や」


「俺はお前らの身内になったつもりはねえけどなァ」


「アハハ悪花様ってツンデレー」


「お前この部屋で1文字喋るごとに罰金5万APな」


「とうとう言論の自由すら封じられたぞ」


「そんでお前はアリスだったな。 見ての通り俺らはこんな悍ましい連中を取り押さえる仕事してるわけだ、怖ぇだろ?」


「…………?」


 悪花は陀断丸の鞘を抜き、爪楊枝じみた剣先をブラつかせてアリスを脅して見せるが、当の本人はただ首をかしげる。

 悪花は大真面目だが、そのシュールな光景におかきたちは笑いをこらえるのに必死だった。

 とくに山田は笑えば本気で殺されかねないので必死にクナイを自分の腿に刺してこらえている。


「悪花、あんた全然怖くないのよ。 幼稚園の先生が無理してお化けの話してるみたいだわ」


「うるっせえぞ赤室学園ホラー苦手選手権ブッチギリ1位!」


「何その不名誉でセンスないあだ名、二度と言うな!」


「まあまあ2人とも落ち着いて……アリスさんは陀断丸さんにシール貼らないで、クタにょんですかそれ?」


「ぐだぐだクタにょんシリーズ……シーズン21……」


「21も続いてるんかいそれ」


「いいから帰れお前ら、俺は忙しいんだよ!! アリスも明日から授業始まるんだぞ、早く寝ろ!」


真面目な(そういう)ところよあんた、子どもに全然怖がられないの」


「うるっせぇぞガハラァ!!」


「大変だねーみんな。 あっ、悪花様冷蔵庫のジュース貰っていい?」


「テメェは今すぐ失せろ」


 夜は更けども姦しきかな、珍しく何もなく平和な宴が解散したのは深夜を超えたころだった。

 なお、アリスはまだおかきが高等部だと知らないため、翌朝引きはがすのにまた一波乱起きるがそれは別の話である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 山田の面の皮厚すぎ問題。 少しヤスリで削っても問題はないな……
[良い点] か わ い い か☆わ☆い☆す☆ぎ☆る 天国でしょうか
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