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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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トラウマ ①

「ふぃー……今回も何とか世界の平和は守られた、いやあ結構結構」


 誰もいない部屋で一人凝り固まった肩をバキボキ鳴らし、宮古野 究はエナジードリンクの蓋を開ける。

 机の上にはおかきたちが関わった雪山事件の調査報告書……およびまだ未解決の事件に関わる資料が山のように積まれている。

 一難去ってまた一難、たとえ世界滅亡の危機を1つ退けようともこの世界には危険な摩訶不思議がいくらでも転がっているのだ。


「はぁ~本当に綱渡りの平和だよ。 さて次は宇宙を駆けるラーメン屋の隠蔽工作について……っと」


 比較的着手しやすい案件に伸ばそうとした宮古野の手が止まる。

 最近流行りのアニソンを流しながら資料の上で震える携帯には、今ごろ学園に戻って残り少ない冬休みを謳歌しているはずのおかきの名が画面に表示されていた。


 ――――新たな事件か? 山積みのタスクを遮る嫌な予感が脳裏をよぎるが、宮古野は迷わずその着信を取った。

 もしも本当に新たな危険が迫っているなら1分1秒の躊躇が致命傷となる、その上自らの怠惰が原因となれば死んでも後悔しきれない。

 だからこそ宮古野 究という人物はSICKの副局長となり、殺人的な仕事量を一人で抱えているわけなのだが。


「もしもーし、あけおめメッセージにはまだ早いぜぃ。 どうしたのかなおかきちゃん?」


『キューさん大変です!! 姉貴が大変で大変なんです!!』


「んー……OKOK、とりあえず話は聞くから一回落ち着こうか?」


――――――――…………

――――……

――…


「……なるほど、ほんで仕事の愚痴聞いたおかきがパニクって緊急事態と勘違いしたわけやな?」


「まことにお騒がせしました……」


『ドンマイドンマイ、おかきちゃんの狼狽っぷりが面白かったからおいらとしては気にしないよ』


『いやー本当うちの弟がご迷惑おかけしましたわ……』


 悪花の安置を終えたウカたちに囲まれながら、おかきは床に額をこすりつけて画面越しの宮古野に陳謝する。 その隣に立てかけられたもう一つの携帯から聞こえる陽菜々の声も申し訳なさそうだ。

 しかし消え入りそうな姉のSOSで冷静さを失った弟の失態を責める者は誰もいなく、おかきの傍らに寄り添う甘音は優しく彼女の肩を叩いた。


「この件はしばらく弄らせてもらうわ」


「うわああああ……」


「お嬢お嬢、追撃やめえや。 おかきかて人の子なんやで」


「でも気持ちは分かる、新人ちゃんって普段しっかりしてるから弄れるときに弄っておきたいよね」


『雄太、原因のあたしが言うのもなんだけど友達は選びな?』


「大丈夫だよ姉貴、軽いジャブみたいなものだから……」


『で、ずいぶん切羽詰まってたようだけど悩みの種について詳しく聞いていいかな? おいらもこのままおさらばじゃ消化不良だぜ』


『あー……』


 当然と言えば当然と言える宮古野の疑問に対する回答は気まずい沈黙だった。

 しかしその沈黙も長くは続かず、おかきから向けられる無言の圧力もあり、やがて電話の向こうにいる陽菜々は諦めて話し始めた


『なんといいますか……あたし普段はアパレルで働いているんですけどもぉ』


『知ってるとも、エージェントの家族に関する情報は事細かく調査済みさ。 その仕事で何か大きな失敗をしたのかい?』


「いえ、特にそういうわけではないのですが……姉貴」


『はい、実は今度開かれる大手ファッションショーにうちの会社が参加しまして……光栄なことにあたしがファッションデザインから作成まで一任されました』


「大抜擢やん。 せやけど肝心のデザインが全然できてへんってことか?」


『はい』


 簡潔な返事だが、そのたった二文字に押し込まれた絶望と焦燥の念は計り知れない。

 突然任せられた大役と重責に押しつぶされかけ、早乙女 陽菜々は一種のスランプに陥った。 そして藁にもすがるような思いで弟に助けを求めた……というのが()()()()事の真相だ。


「…………」


「おかき、怖い顔してどうしたの?」


「いえ、姉の不手際に対しどう責任を取らせようかと考えてまして」


『ぴえん』


「まあまあ、ファッションショーとかすごいことじゃん。 モデルに困ってるならボクが出てもいいよ!」


『うーん、その件は社に持ち帰って前向きに検討させていただきます』


「だってさパイセン、大人気モデル兼アイドルマスター忍愛ちゃんになっちゃったらごめんね?」


「おうそのポジティブ精神だけは認めたるわ」


『わはは、まあ個人的な相談なら片手間で良ければいつでも聞くよ。 SICKにも服飾に明るい人材は揃ってるし』


「キューさん、そういうのは職権乱用に当たるのでは……」


『おかきちゃん、服1つとっても色彩の組み合わせや装飾の配置で核融合起きるって知ってた? 流行の監視もおいらたちの仕事なんだよ』


「本当なんでもアリね、SICK」


『まあそういうわけで身内の家族が売り出す製品ぐらいはチェックするよ、危険性は低いと思うけど一応ね。 あとウカっちたちにも危険なファッション共有するから、ちょっと部屋に隅っこに集まって』


「知りたないなぁファッション業界の裏側……」


 宮古野と通話がつながった携帯を持ち、ウカと忍愛は部屋の隅でこそこそと話を続ける。

 その隙におかきは姉と繋がっている方の携帯を手に取り、ウカたちとはまた違う密談を始めた。


「――――で、本当の理由は?」


『……あはは、やっぱりバレた? さすがあたしの弟』


「姉貴がこの程度のスランプで縋りつくはずないでしょ、俺じゃろくに力にもなれないし。 だから緊急事態と思ったのに……」


『それについてはマジごめん。 けど緊急事態ってのは間違ってないかも』


「えっ……?」


『――――早乙女 四葩。 もしかしたらあの女があたしの前にまた現れるかもしれないの』

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