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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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リンネちゃんの本音 ③

「あ゛ー! 駄目だぁ、鎮火できない! さすがにあーしの手に余るわこんなの!」


「まあ完璧で究極のバーチャルアイドルが番組一つ乗っ取るって結構な不祥事よね」


 おかきが宮古野とともに動画を視聴する一方、別室では十文字が複数のモニターを展開したパソコンを前に天を仰いでいた。

 画面に映っているのはリンネちゃんに関するワードをつぶやくSNSのタイムライン。

 さきほどリンネちゃん(偽)が落とした爆弾を煽るかのように、ここぞとばかりに罵倒をぶつけるアンチ、陰謀を語るアカウント、またはリンネちゃんの暴挙を擁護するファンなどが思い思いの呟きを振りまき、もはやネット上に焚かれた炎はとどまるところを知らない。


《すでに動画サイトにはユーザーの家族を名乗る者たちの謝罪動画が673件、"私なりに調べてみました"系の動画が219件、その他視聴者数を稼ぐ目的で過激なタイトルを綴った炎上動画が3112件アップロードされております》


「うがー! オルクス上に上げてくれたら対処できるけどほかのサイトじゃ手回らーん!」


「こう言うのって反応したら負けみたいなものじゃない?」


「全員が無反応貫けるならそれがいいんだけどね、いくらあーしだけが無視しても煽り耐性は人それぞれだしぃー……」


《対立を自演してコメントを稼いでいるアカウントも多数見受けられます、リミットの3日後までに鎮静できる可能性は限りなく0%です》


「ノイがそう言うなら無理ぽ。 あーしも赤以外の色見えねーし」


「色?」


《ユーザーは感情や場の空気を直感的に色として表すことが多いのです。 私には理解できない感覚でした》


「共感覚ってやつかしら? ともかく量子AIの予測ならSICKでも誤魔化すのは難しそうね」


「んー……でもタイムリミットにこだわらなければ手はあるかな」


 椅子にもたれかかりながらエナドリを飲み干した十文字は、空き缶をゴミ箱に投げ捨てた手で指を2本立てる。

 

「1つはあーしがアカウント動かしてあのリンネちゃんを偽物だって告発する。 公式アカウント握ってるのはこっちだし、こっちにつくファンが増えれば打てる手も増える」


「そういえばその手があったわね、なんでやらないの?」


「肝心のリンネちゃんアバターが使えないんじゃ確たる証拠が作れないからさ、結局半信半疑になっちゃうじゃん。 活動休止の理由も説明できないし」


「そっか、結局アバターかえしてもらえないと解決しないものね……もう一つの方法は?」


「活動を終わらせる。 もうリンネちゃん(偽)の好きにさせちゃってあーしは隠居、あとは偽物ちゃんがなにしたってあーしには関係ねえし」


「……それでいいの?」


「いい訳ねーし! なんでどこの馬の骨ともわからん奴にあーしのリンネちゃん譲らなきゃいけねえんだし、それにリンネちゃんはタローが描いてくれて……」


「タロー……?」


「――――中世古なかせこ 剣太郎けんたろう、ボドゲ部の先輩ですよ。 私たちの中で一番絵が上手い人でした」


「あら、おかき。 ずいぶん早いわね」


 2人の会話に釣り出されたかのように、奥の部屋からおかきが姿を現した。

 動画視聴を始めてからまだ1時間も過ぎていない、100時間を超える動画に目を通すにはまだまだ時間が必要だ。


「ちょっと休憩です、小腹も空いたので何かご飯でも買ってこようかと」


「そういえば私たちコンビニで食料買い逃してるのよね……思い出したら私もお腹減ってきたわ」


「ん、じゃあ出前取っとくか。 ノイ」


《かしこまりました、皆さまお好きなメニューをご注文下さい》


「すみません、お金は後で支払いますので……」


「いいっていいって、後輩が余計なこと気にするなし。 ってかあーしめっちゃ稼いでること忘れんな?」


「それはそれ、これはこれですよ。 イヤと言っても受け取ってもらいますからね」


「私たちおかきもお金なら余ってるわけだし、お金の貸し借りはきっちりしておくべきね。 それより剣太郎先輩ってのが気になるわ」


「んー、まあ聞きたいってなら話せるけどさ……とりまご飯食べね?」


――――――――…………

――――……

――…


「……へー、ってことはおかきの作画もその先輩が描いたってこと?」


「ええ、私だけでなくメンバーのキャラクター画像はほとんど中世古先輩が描きました」


「めちゃくちゃ筆速いんだよねタロー、調子いい時は30分で色塗りまで済ませてたし」


《現在はMaceという名前を使い、フリーのイラストレーターとして活動しております。 その筆の速さからソーシャルゲーム、コミカライズ、カードデザインなど様々な分野で活躍している方です》


 全員でテーブルを囲ったおかきたちは、デリバリーされたピザやジャンクフードに舌鼓を打ちながら歓談に耽る。

 かたわらに例のリンネちゃん100時間動画を流しながら、姦しい話題の対象は甘音がまだ見ぬおかきの先輩についてだった。


『おいらもよく知ってるぜ。 尊敬する人物は岸〇露伴、画集を出せばちょっとした辞書並みの厚み、絵を描く合間に絵を描くお絵描き星人! 作業配信では1時間に3枚ペースでお金取れるイラストを描く怪物さ!』


「さてはファンね」


『もちろん画集は毎年買ってるとも。 しかしおかきちゃんってとんでもない環境で卓囲んでない?』


「今となっては皆出世しましたね、昔は檻に詰め込まれた獣たちという感じだったのに」


「言うようになったじゃん早乙女ちん、こっちからしたら一番変わったのはあんただからね?」


「……それは重々承知してますが」


「うーん、たしかに言われてみればおかきとリンネちゃんってどこか似てるかもしれないわね。 その中世古さんってどんな人なの?」


「ん、あーしの初恋相手」


「「『えっ?』」」


「つーか今恋相手。 まあ片思いみたいなもんだけどさぁー……振り切れないっていうかさー……ねえ?」


「「『………………えええぇーー!!!?』」」

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