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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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雉も鳴かずば撃たれまい ③

「おう、おかえり。 首尾はどうや?」


「まあ、収穫が0というわけではないですが……色々と色々な色々が色々で」


 しわくちゃ電気ネズミじみた顔で寮へ戻ってきたおかきを出迎えたのは、赤いちゃんちゃんこを着込んだウカが出迎える。

 現在冬休み中で監視が緩いとはいえ、本来なら深夜の外出はご法度だ。 

 そのためおかきは人目を誤魔化すのに適した技術を持つウカに協力を仰ぎ、こうして出迎えを頼んでいた。


「すみません、こんな夜遅くに……へくちっ」


「気にせんでええからはよ中入り、外冷えるで。 なんやまた面倒な話なんやろ、うちでよければ聞くで」


 季節はすでに冬、吐き出した息が白く照らされる夜の空気は氷点下を下回っている。

 そろそろ雪も降りそうな空模様の下、制服にカーディガンしか羽織っていないおかいの鼻先は赤くなっていた。


「ココア用意しといたから寝る前に飲んで温まっとき、また風邪引いたらおもろないやろ」


「うぅ、ありがとごじゃます……」


――――――――…………

――――……

――…


「――――なるほどなぁ。 うちの意見としてはクサいなんてもんやないで」


「そうですよねぇ、ココア美味しい」


 寮のキッチンには2つ分の甘い湯気が立ち上り、おかきはその甘い温もりに舌鼓を打っている。

 カフカとなってから味の好みがかなり変わり、大の甘党と化したおかきの舌に深夜の罪悪感がトッピングされたココアは格別の味わいだった。


「ふぅ、昔は辛いのも嫌いじゃなかったんですけどね……」


「わかるわぁ、身体変わって好きだったもん食えなくなるの割とショックやねん。 それはそれとして、どないするんや」


「どうする、とは?」


「決まっとるやろ、おかきの先輩たちについてや。 SICKに報告するなら何かしら動いてくれるとは思うけど」


「…………なんとかなります、かね……あの人たちが……」


 おかきは正直迷っていた、今の状況はおかきの証言以外に大した証拠もない。

 そのうえ「かつての部活仲間が結託して何かを企んでいる」というのも勝手な憶測だ、画竜点睛事件でも命杖は証拠不十分で解放されている。 SICKに過度な期待はできない。

 なによりおかきには、記憶の中によみがえるクセの強い部員たちがおとなしくSICKに掴まるとは到底思えなかった。


「……今でも夢か何かだったらいいなと考えてしまいますね、部長たちがSICKに関わるような世界に踏み込んでいるなんて」


「あらゆる不可能を排除して最後に残ったものこそ、いかに奇妙であっても真実である……やったかな?」


「たしかホームズの言葉ですね、耳が痛いです」


「おかきにとって大事な思い出なんやろ、なら迷うより真相をはっきりしといた方がええんとちゃうか? 何もなければそれでよし、危険なこと考えてるならその時シメたらええねん」


「ウカさん……ありがとうございます、握りしめたその拳はちょっと物騒ですが」


「覚えとき、この業界は最後に暴力これがモノ言うねん」


 これまで何度も忍愛を黙らせてきたウカのセリフには説得力が込められていた。

 忍愛の陰に隠れてはいるが、彼女もまた人知を超えた身体能力の持ち主であることを忘れてはならない。


「それで、おかきはこれからどうしたい?」


「……とりあえず、他の部員にコンタクトを取ってみます。 命杖先輩の口ぶりからして、全員何かしらの情報は持っているはずです」


「ならうちもSICKには現状黙っておくわ、おかきもその方が動きやすいやろ」


「……いいんですか?」


「本当は怒られるけど現場判断ってやつや。 ただし何か進展があったらうちに報告するように、ええな?」


「はい、ありがとうございます。 それでは明日から行動を……」


「話は聞かせてもらったわよ!!」


「聞かせてもらったぞご主人(ごすずん)!」


「うわでた」


 ウカとおかきが話を締めくくろうとした矢先、勢いよく扉を開いて乱入してきたのは寝間着姿の甘音とナイトキャップを被ったタメィゴゥだ。

 深夜なのでお互いに声のボリュームは控えめだが、偶然目を覚まして話を聞いていたようなテンションではない。


「甘音さん、もしかしてずっと起きていたんですか?」


「なんかおかきの様子がおかしかったからね、またハブにされたと思ってタメィゴゥと目を光らせていたのよ。 こちら私特製の眠らなくても疲れない薬(税別¥2480)」


「お嬢、あれだけおかきにこってり絞られて懲りてないんかい……」


「懲りないわよ、それにまた一人で勝手な行動しようとしてるじゃない。 ウカも止めなさいよ!」


「うちがガミガミ言わなくてもおかきはちゃんとしとるで、一応中身も外身も成人しとるし」


「一応って何ですか一応って」


「だとしてもこんな可愛い子に一人旅をさせるわけにはいかないじゃない、こんな可愛いのようちの子!?」


「二度も言うたな」


「そしてべつに甘音さん家の子じゃないですよ」


「ご主人、我を置いて行くなど水臭いぞ」


「しかしタメィゴゥ、あなたはこの学園の外では目立ちすぎます……」


「とーもーかーく! その部活の先輩?たちに会うってなら私も同行するわ、おかきだけだとまた変なの呼び寄せた時に心配だし」


「変なのってそんな……そんな……まあ、その通りなんですが……」


 アクタ、ネコカフェ、タメィゴゥ、変態シスター、これまでの例を考えると完全に否定もできないおかきだった。

 なによりカフカの中で言えば悪花と並ぶかそれ以下の戦闘力しか持ち合わせていない、SICKに内密の単独行動は危険というのも一理ある。


「それに一人でぶらぶら出歩くとSICKにも怪しまれちゃうでしょ、私と一緒に出掛けてましたーって言えばいい誤魔化しになるんじゃない?」


「それは……そうですけども……」


「あとおかきの先輩たちって言うのも個人的に気になるわ、会いたい」


「それが主目的じゃないですか」


 しかし甘音の提案に対し、否定できるカードをおかきは持ち合わせていなかった。

 交渉の結果、結局おかきは護衛としてタメィゴゥ、甘音の2人の同行を認めるしかなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アクタがおかきスキーなら、何かしらのご褒美があれば、護衛とかしてくれるかなぁ……。 なお、周りへの被害は考慮しないものとする。
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