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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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風邪っぴきとタマゴ ②

「おお、親愛なる藍上おかき君! 病床に伏す姿もまたオフィーリアのように美しいじゃないか!」


「ロスコさん、今は授業中では……?」


「運命的なことに1時限目は自習さ、それで花束はどこに飾ればいいかな?」


――――――――…………

――――……

――…


「あのっ、藍上さん……! あの、その、お見舞いに来ました……!」


「ああ、卜垣さん。 ただの風邪ですから別にお気になさら……ゲホッ」


「あわわわ寝てて! 寝ててください! あの、お見舞いここにおいて……すっごいでっかい花束!?」


「ロスコさんが置いて行ってくれました……」


「うちの部長が申し訳ございませーん!!」


――――――――…………

――――……

――…


「うぃ~……藍上さぁーん、お見舞いに来ましたぁ」


「うわぁ酔っ払いが来た、授業中では?」


「失礼なぁ酔っぱらってないですよぉ、この時間帯は私の受け持ちがないので様子見に来ました~」


「教師よ、アルコール臭いぞ。 風邪で弱っているご主人に近づくな」


「あぁい、すみません……あの、お見舞い品のハ〇チュウ……チュ〇ハイだっけ? まあどっちでもいいからどっちも置いて行くので好きな時に食べたり飲んだりしてくださいねぇ」


「待ってください先生、事件になるのでその(チュー)ハイは持ち帰ってください」


――――――――…………

――――……

――…


「おうおかき、生きとるかー? ……て、だいぶグロッキーやな」


「ウカさん……風邪って疲れるんですね……」


 ウカが昼休みの時間を使って見舞いに来たころには、おかきの部屋には個性豊かなお見舞い品で混沌としたことになっていた。

 新装開店を祝う時に送られるような花スタンド、雑多なお菓子類、カゴに詰められた果物、手製の身代わり人形やお守りなど、埋もれたタメィゴゥの存在が薄れてしまうほど名状しがたい惨状だ。


「いろんな方がお見舞いに……ゲホッ……」


「ああもうええから寝とき! ったく、こんなん散らかってたら余計疲れるわ!」


 体を起こそうとするおかきを寝かし、ウカは慣れた手際で散らかった室内の掃除を始める。

 風邪で感覚が鈍いおかきに代わり、盗聴器やあまりよろしくないものが仕込まれたものを的確に処分する様はさながらプロのボディーガードだ。


「なんやこの〇イチュウ、こんなん誰が持ってきたん?」


「それは……飯酒盃先生ですね、あやうく酎ハイも添えられるところでした」


「何考えてんねんあの酔っ払い! ……まあ、治ったらおやつにでも食べとき。 昼飯は食べられそうか?」


「薬のおかげで今なら何とか食べられそうです」


「よっし、ほなちょっとお粥作って来るわ。 たしか寮の台所に米もあったはずや」


「今からですか? 大丈夫ですよそんな、後で何か自分で作りますから」


「ご主人は放っておくとカップ麺で済ませる気だぞ」


「ほな滋養にええもの作って来るわ、監視は頼むでタメィゴゥ」


「うむ、任されよ」


 固い決意を胸にエプロンを締め直すウカの背中で、おかきは膝に抱いた裏切り者(タメィゴゥ)の殻をぺしぺし叩く。

 おかきの腕力でいくら叩こうとビクともしない強度だが、ひんやりとした殻は火照る身体には心地よく、叩き疲れたおかきはいつの間にかタメィゴゥを抱きかかえていた。


「ご主人、他人の好意には素直に甘えるべきだぞ。 弱っているときはなおさらだ」


「しかし貴重な休み時間を割かせていると考えてしまって、なんだか申し訳ないです……」


「人間生きている限り誰かに迷惑をかけるのだ。 大事なのは互いに相手の負担を許し、支え合う事ではないか?」


「タメィゴゥ、あなた本当に赤子ですか?」


「うむ」


 タメィゴゥの含蓄ある言葉に、おかきは何も返す言葉がない。

 熱に浮かされているなど言い訳にならないほど人間性で負けたおかきは、与えられる親切を受け取ることしかできなかった。


「……はぁ、胃が痛い。 せめて皆さんに何かお返しを考えないといけませんね」

 

「あまり気に病むと風邪に響くぞご主人、ありがとうと伝えればよいのだ」


「慣れてないんですよ、こういうの。 見た目が変わるだけでこうも接し方が変わるのかと疑心暗鬼になりそうです」


「むぅ、闇が深いな」


 早乙女 雄太には誰かからの愛を受け取った経験がさほどない。

 母からは居ないものとして扱われ、父は失踪。 学校を中退してからは姉からも逃げるようにバイトへ明け暮れていた。

 そんな過去に比べれば、ただそこにいるだけでちやほやされる藍上 おかきとしての生き方は劇物に近い。 何か裏があるのではないかと汚い感情が沸き上がってきてしまう。


「……ごめんなさい、醜いことを言ってしまいました。 忘れてほしいです」


「努力する、しかしご主人の悩みを聞けて我は嬉しいぞ」


「はは、悩みならたくさんありますよ。 ただ話したくないだけなんです」


「だからこそ今1つ聞けて嬉しい、ご主人は人に頼るのが下手なのだからな。 ご主人の友はそれほど頼りないのか?」


「いえ、決してそんなことはないです。 皆さんいい人ばかりで……」


「ご主人も善い人だ、だから我もご主人を好いている。 自信を持ってほしい」


「むぅ……難しいことを言いますね、タメィゴゥは」


「うむ、我実はスパルタのタマゴなのかもしれぬ」


「おーい、お粥できたで。 タメィゴゥも一緒でええか?」


「うむ、我はうめぼしも添えてほしいぞ」


――――――――…………

――――……

――…


「ごめーん、帰るの遅くなっちゃった! おかき、無事!?」


「お帰りなさい、甘音さん。 ええ、皆さんのおかげでだいぶ良くなりました」


 夕方、息を切らした甘音が寮へ帰ったころにはおかきの体調もすっかり回復していた。

 喉の腫れは引き、体温も平熱。 このままなら明日には授業にも出られるだろう。


「ふむ、ちょっとおでこ出して。 口開けて、目の下も失礼……うん、大丈夫そうね。 念のため明日も休んでおく?」


「いえ、授業に追いつけなくなっても困ります。 それに一日でこれだと明日も休むのはちょっと怖いですし……」


「それもそうね、廊下に立ってた花スタンドで何が起きたのかは察したもの。 本人には明日クレームつけておくわ」


「悪気があってやったわけではないのでお手柔らかにお願いします。 皆さんにはご迷惑をおかけしました」


「気にしなくていいわよ、好きでやっていることだもの。 私含めてね」


「……ではあらためてお礼を言いますね。 ありがとうございます、甘音さん」


 負担を掛けたことへの謝罪ではなく、純粋な感謝の言葉に甘音の口角が緩む。

 熱にうなされながら申し訳なさそうに謝罪されるよりも、回復した姿を見せて感謝される方がずっと嬉しい。

 そんな簡単なことをおかきへ教えてくれた功労者タマゴは、見舞い品に囲まれながらベッドの片隅で寝息を立てていた。


「ふふ、どういたしまして。 その代わり私が風邪引いた時は頼むわよ?」


「はい、お任せください。 看護に自信はないですけどタメィゴゥと一緒ならたぶん何とかなります」


「OK、予習としてあとであんたの腕前見せてもらうわ。 結果次第では花嫁修業よ」


「……花嫁に行く予定はありませんけど?」


 なお後日談として、この後おかきはきっちり不合格の烙印を押されて甘音からスパルタ教育を受けることになるが、それは別の話。

 なんてことはない、ただ珍しく平和で当たり障りのない日の幕間なのだから。

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[気になる点] 「だからこそ今1つ聞けて嬉しい、ご主人は人に頼るのが下手なのだからな。 ご主人おtもはそれほど頼りないのか?」
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