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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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神芝居 ②

「私がいない間にそんな事件あったの!?」


「そうですよ」


「せやで」


「で、あるニャ」


「なんか知らないネコもいるし!!」


 子子子子を退けたおかきたちは、カフェスペースの片づけを進めながらことの経緯を甘音へ説明していた。

 その中にはちゃっかり猫缶を舐めるマーキスもまざっている、功労者としておかきが提供したものだ。


「はぁー、しかしネコのカフカもいるなんて。 改めて思うけど何でもありね」


「その代わり戦闘力を持たぬ、しかしそれも有り余る可愛さでフォローも効くというもの」


「おまけにずいぶん自由ね」


「ネコの性格が混ざり合っているせいでたまに理性が家出するらしいです」


「ニャんとも不便、しかして爽快な気分である」


「まあいいわ、あとで体毛ちょうだい(ブラッシングさせて)ね。 しっかしその子子子子ってやつまた戻ってきたりしないの?」


「学園祭中は局長たちも泊まり込みで警備に当たるそうです、今でも外に……ほら」


 おかきが指を刺した窓の外には、木陰に隠れた人影がちらほらと見えた。

 そのほとんどが学園外の客に扮したSICKのエージェントたちだ、定期的に交代しながらおかきたちのことを見守っている。


「……言われても全然わからないわ、あんた目がいいわね」


「まあ相手もプロやからな、一目で気づく方がおかしいねん」


「ニャんとも不甲斐ない同士たちだ、エージェント講習のやり直しが必要かもしれニャい」


「いや、局長から護衛を付けると言われなければ私も気づけませんでしたよ。 皆さんとても優秀です」


「それにうちや山田も警戒しとる、下手な監獄より厳しいセキュリティや」


「なるほど、信頼するわ。 ただ一回顔合わせて修理費は請求しておきたいわね……」


 チリトリを握る甘音の手に力がこもる。

 カフェの扉を破壊した犯人は麻里元なのだが、また話がこじれそうなのでおかきたちは皆沈黙していた。


「そうだ、明日の経営はどうします? さすがに段ボールを張りっぱなしは問題ですよね」


『あー、それなら適当な部屋から剥がして持ってくればいいっすよ。 たぶんサイズが合う扉ぐらいあるはずっす』


「ウギャー!!? 急に出てくるんじゃないわよユー子!!」


『もーお嬢もそろそろ慣れてほしいっすよ、それより災難だったすねおかきの姐御』


「姐御……こちらも大変でしたけどユーコさんたちは大丈夫でしたか?」


『いやー正直ビビったっすね、ちょっと目離したら自分たちの縄張りにとんでもない神様オーラが現れたんすから』


「あんなのでもしっかり聖気まとってるんやな」


「性気の間違いじゃないの?」


「甘音さん」


 おかきはご令嬢とは思えない発言をかます甘音を窘める。

 まるでSICKに関わって悪いことを覚えているようで、甘音の今後が心配になるおかきだった。


「ただ扉取り付けるにしても重労働や、今日はもう帰って明日にしたろ。 山田引っ張ってくれば秒で終わるで」


「素直に手伝ってくれますかね」


「大丈夫よ、山田にはいくつか貸しがあるから返してもらうだけよ」


――――――――…………

――――……

――…


「おお、これぞトラゴイディア! 我々はディオニュソスへ何を捧げればよいのか!?」


「うわあなんか面倒なのがおるで」


「あっ、ウカっちたちおかえりー」


「ロスコ劇場は初めてか? まあ力抜いていきなよ」


 一仕事終えたおかきたちが寮へと戻ると、ロビーには学生たちによる人だかりができていた。

 その中央には学祭初日にも顔を合わせた宝華ロスコが大立ち回りを演じながら、よく通る声でよくわからない悲観を叫んでいる。


「おかき、ロス子のやつが何喋ってるのかわかる?」


「トラゴエディア、ディオニュソス、どちらも悲劇に関わる言葉ですね。 察するところ出し物中に何らかのトラブルがあったのではないかと」


「おっ、鋭い。 正解だよ藍上さん、なんか演劇部の舞台で事故があったんだって」


「事故?」


「うん、それでヒロイン役の子がケガしちゃって人足りなくなったみたい」


 おかきが推論を述べると、近くにいた同級生が補足してくれた。

 

「ロスちゃんも足に包帯まいとるっしょ? 公演中に舞台の床が抜けちゃったんだってさ」


「事故か、そりゃ運がないわな」


「妙ね、ロス子はあんなでも演劇には真摯よ。 舞台の整備不良なんて見過ごすかしら?」


「ふむ、おそらく子子子の影響であろうニャ」


「えっ、黒猫。 今喋っ……」


「気のせいです、気のせい」


 ちゃっかり会話に参加するマーキスの口を押え、おかきたちはロビーの端へ移動する。

 おかきは口元に指を立てて「静かに」とジェスチャーを送るが、マーキスはまだ何か喋りたそうだ。


「フガフガ……子子子は自分に都合よく運命を捻じ曲げる。 そのしわ寄せは周りに降りかかるのだ、蝶の羽ばたきが竜巻になるように」


「つまり彼女が私に会いに来たから、ロスコさんたちの演劇は台無しになってしまったと?」


「もちろんただの不運という可能性もあるかもしれニャい、しかし吾輩はそうは思わぬ」


「でもおかきが気にする必要はないでしょ、たしかに気の毒だけど……」


「しかし……」


 いうなればロスコもまた異常存在の被害者だ。

 子子子が訪れなければ、カフカが存在しなければ、今日という日を平和に終えることができたはずだ。


「……あの、皆さん」


「ええでおかき、それが本当にやりたいことなら我慢する必要ないやろ」


「ウカさん……ありがとうございます、では相談なのですが――――」

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