新たな風×三勢力×二国の意思……6
黒猫の行動は獣帝国ガルシャナの全ての勢力を驚かせる形となった。
ガドラ大臣は黒猫の悩む事なく刃を滑らせる光景を前にリアナ王国での呼び名を思い出す。
黒猫とは……“戦場の死神”であると。
「か、構わぬ! 早く奴等を捕らえよ! 数は此方が勝っている。城内の黒猫一人に対して、金貨百枚を約束する! 行けい!」
大臣の命令に対して、兵士達が動き出す。
最初に狙われたのはシシリアであった。見た目からすれば、非戦闘員に見えたからであろう。
「あの“弱そうな女”から、捕まえろ!」
しかし、その決断は竜の逆鱗に触れるような物であった。
シシリアは魔石を起動させると天井に使われていた石の煉瓦が剥がれ落ち、次第に巨大な人形が形成されていく。
壁からも石の煉瓦が集まりだし、あっという間にガーレン派とドレイク派を分断する巨大な人形の集団が出来上がっていく。
「“弱そう”……またですか……いつも、いつも……見かけで判断されて、ウンザリです!」
シシリアは口にすると、即座に巨大な人形達を展開させる。
力に物を言わせた獣人達の攻撃、しかし、その攻撃が巨大な人形達に触れた瞬間、攻撃を受ける部分が泥のように変化させる。
攻撃の際は巨大な石の拳が強化された状態で襲い掛かり、相手からの攻撃は体の素材を変化させ耐用する。
シシリアのゴーレムは石、砂、泥、土など、多くの素材から作り出される。
地上というフィールドでシシリア程、厄介な相手は存在しない。
そんなゴーレム達が攻撃に転じる。兵士達を掴みあげ、投げつけるその姿は帝国を揺るがす悪夢と言えた。
その凄まじい戦闘スタイルにペリグロッソは唖然とする。その姿にキャトルフは普通に喋りかける。
「何を驚いているんですか? シシリアは黒猫の団、獣戦士特攻隊、索敵部隊を任される存在です。実力は隊長レベルより、少し劣るが、副隊長レベルでは、ずば抜けているんですよ」
戦いを好まぬからこその団員と言う位置であり、団員を束ねられるからこそ索敵部隊を任される存在なのであると説明する。
「さて、そろそろ、獣帝陛下に登場願いたいんだが……ゲルダ婆! どうだ!」
キャトルフの声にガドラ大臣達の視線が獣帝の寝室に向けられる。
「たく、いちいち、声がデカイんだよ! それよりも、争いを中止しな! 獣帝陛下が言いたい事があるそうだよ」
その瞬間、キャトルフが片手をあげる。即座にシシリア、アルガノ、風薙が相手から距離を取り、キャトルフの元に移動する。
キャトルフの背後に移動した三名とシシリアのゴーレム達が整列する。
それを好機と判断したガドラ派が攻撃を開始しようとした瞬間、キャトルフの凄まじい殺気と威圧感が周囲を包み込む。
巨岩、空雷の二つの傭兵団のみが颯爽と駆け出していく。
「「俺(私)達を嘗めるなッ!」」
それは一瞬であり、刹那だった。
キャトルフが動く前に風薙がリア=バレルを、アルガノがエレドリオ=ホーンを捩じ伏せる。
「悪いんだけどさぁ……空気読めよなぁ?」
「今回は同意……マスターと獣帝陛下の前で見苦しいよ……」
埋められぬ格差、その瞬間、姿を露にする獣帝──ジャルバノ=サラバン。
「アア、久しく声を出せなんだ……リアナの英雄、スラド=ゲルダよ。友として感謝する……さて、全員、静まれい!」
獣帝の言葉に息を飲むガドラ大臣。
他の兵士達も同様に慌ただしく動揺する最中、ゲルダが声を張り上げる。
「聞こえないのかいッ! すぐに整列しな! 獣帝陛下の御前だよ!」
凛とした態度と発言に兵士達が整列すると獣帝が喋り始める。
「今回の一件……責任は分かっておるな、ガドラ=ラッセ……これ以上、足掻くなよ……よいな?」
ガドラ大臣へ、そう告げると獣帝はそのまま、話を続けた。
「リアナ王国の件はゲルダから聞いた。現状、我が帝国より酷い参上であると理解した。【獣帝国ガルシャナ】は現リアナ王国と同盟を結び、現状を打破する。此は勅命であるッ!」
この瞬間、【獣帝国ガルシャナ】は【新リアナ王国】への同盟をはっきりと口にしたのである。
ガーレンとドレイクは話を聞きながら、獣帝であるシャルバノ=サラバンに取り入る隙を狙っていたが、そんな二人に対して獣帝が向けた言葉に愕然とした。
「ガーレン、ドレイク……お前達には、失望した……此度の帝国を巻き込んだ騒動の責任は確りと取って貰う。沙汰を待て……良いな……」
二国の関係への考えと帝国内の諍いを即座に終結させた。
ガーレン、ドレイク、ガドラの三名が拘束され、ガドラ側に寝返った巨岩と空雷、両傭兵団の処遇はペリグロッソに一任される事となり、その日【獣帝国ガルシャナ】は、獣帝の復活を帝国民に伝えたのであった。




