新たな風×三勢力×二国の意思……2
兵舎での夕食を済ませ、眠りにつく黒猫の団。
朝方の冷たくも清々しい空気の中、兵舎の訓練場で誰よりも早く武器を振るうアルガノの姿があった。
アルガノは一晩中、悩んでいた。
──何と無力なんだ……マスターの為に何も出来ないなんて……
「ハアァァァッ!」
訓練場の地面が踏み込みで窪む。
凄まじい気迫に訓練場に来た戦士達すら圧倒される。
「ボクは……マスターの為になにも、ウワリャァァッ!」
“ドッゴンッ!”
まるで竜が暴れているような凄まじい地鳴りが起こる。
戦士達は、アルガノの気迫に引っ張られるように、血を滾らせる。
訓練場が一瞬で気迫と迫力に包まれる。
そんな様子を部屋から見つめるキャトルフの元にペリグロッソがやってくる。
「キャトルフ、入るぞ」
ペリグロッソは外の様子を知り、ニヤつきながら、キャトルフの方を見つめる。
「本当にカヤンは、お前が好きなんだなぁ……大切にしてやれよ?」
「ふん、わかってるっての……たが、俺なんかが、本当にカヤンの側に居ていいのか悩ましいんだよ……アイツは……」
二人の会話が途切れそうになった瞬間、ペリグロッソが葉巻に火をつける。
葉巻の煙が室内に漂い、キャトルフが呆れたように口を開く。
「大分前に辞めたんじゃなかったか?」
「あれから、既に十二年だぞ? 況してや、カヤンが居ないのだから、禁煙する必要がなくなった」
再度、煙を吐き出すと、キャトルフとペリグロッソは窓からアルガノを見つめる。
「カヤンを泣かすなよ。キャトルフ」
「泣かすかよ……それよりも、扱いに困らされる事が多いんだ……本当に俺なんかでいいのかってな」
キャトルフの言葉にペリグロッソが葉巻を灰皿に押しあて、火を消す。
「訓練場にいくぞ……キャトルフ」
「はあ? ゲルダとの約束はどうすんだ?」
「すぐだ……いいから、行くぞ!」
二人が訓練場に移動すると周囲の視線が一瞬で集まる。
そんな中でペリグロッソはキャトルフに向かって喋りかける。
「相手をしろ! 軽く稽古をつけてやる。根性なしがッ!」
「あ? いきなり、何をいってんだ?」
会話は無用と言わんばかりに、得物に手を伸ばすペリグロッソ。
キャトルフは即座に判断し、距離を取る。
「マジか……いきなり過ぎるだろ?」
既に返答すらない状況にキャトルフも剣に手を掛ける。
両者の鋭い視線が重なりあった瞬間、冷たい風が吹き抜ける。
最初に動いたのはペリグロッソ。
豪快な踏み出しと長さを生かした大剣の刃先が地面を滑るように下から上に向けられる。
地面からの土煙がペリグロッソの実力と本気である事を物語るとキャトルフの目つきが変わる。
土煙を切り裂くようにキャトルフの剣が抜き放たれる。
両者の剣は次第に加速し、ぶつかり合う。
舞い散る火花と剣と剣がぶつかり合う斬撃音が空気を振動させ、周囲の者達はその凄まじさを耳から全身に刻まれていく。
「キャトルフッ! 貴様にカヤンは任せられん! カヤンはオレの下で立派に育てさせてもらうッ!」
「はぁ! 勝手な事を、ふざけんなよ! ペリグロッソ!」
会話が混じりながらの斬撃、次第に剣速が上がる最中、互いに剣ではなく顔を見合い、感覚だけで打ち合う姿に周りの者達は更なる恐怖を感じていた。
「何が、扱いに困るだ! 貴様が、受け入れる覚悟がないからであろうッ! 腑抜けのアルベルム=キャトルフがッ!」
「言いたい放題……言ってんじゃねぇぞ! 娘離れも出来ねぇで、喧嘩かよ、恥をしれ! カヤンはオレの妻だ! 幾らアンタが名付け親だろうが、関係ねぇ!」
「そうさ、義理とはいえ、カヤンは我が娘よ! 心配して何が悪いッ! 名付け親として、娘を大切に思うことに恥などないわ!」
互いが互いの思いを語り尽くす最中、アルガノが二人の間合いに入っていく。
「お義父さん、マスター……いい加減にしてッ!」
その瞬間、全てを吹き飛ばすようにアルガノの得物が巨大な扇子に姿を変える。
突然の突風が起きると両者が吹き飛ばされる。
「頭を冷やして、ボクは……二人に喧嘩して欲しくないから……」
賑やかな朝が終わった。




