廃墟×影の主×水神の巫女……5
カルミナが落ち着くまで、その場で休憩する事になると、少女の姉がキャトルフに小さな声で語り掛ける。
「私は、エリスト=スエル。助けて頂き、ありがとう御座います……でも……何故、こんな危険な場所に“ミリア”を連れて来てしまったのですか……」
感謝の言葉と聞き慣れぬ名にキャトルフが首を傾げる。
「俺はアルベルム=キャトルフだ。ミリアって、コイツの事か?」
少女の頭に“ポンッ”と軽く手を置くとスエルが慌てて動揺する。
「すまないな。えっと、スエルだったな? 成り行きで、お前達の救出を頼まれたんだ。まあ、こんな事になってるとは思わなかったがな」
事情を話すと、スエルは理解できないと言う様子でキャトルフと少女に交互に視線を向ける。
少女の名も聞かぬまま、依頼を受け、依頼の報酬を出世払いにした契約、通常なら有り得ない程、リスクの高い仕事をそんな簡単に受け入れた事実に驚いたのだ。
ミリアに関しても、知らぬ異性に対して、仕事を依頼した事実と、食事を盗もうとした事実にスエルは頭を悩ませていた。
「取り敢えず、色々と御迷惑をお掛けしました。先ずは【ウォルベア】に戻り、聖職者協会に報告をしなくては、それと神殿にも、早急に訳を話さねばなりません」
キャトルフは、スエルに質問をする。
「すまない、話が分からないんだが、早い話が、ミリアは何者なんだ?」
スエルは悩むもミリアの正体をキャトルフ達に語った。
エリスト=ミリア──生まれつき、強大な魔力を持って生まれた少女、その事実が明らかになり、水神の巫女として、最年少で選ばれた存在である。
普段は両手足に魔力を押さえる為の封印の術式が描かれたバンドを着けている。
「つまり、凄い奴なんだな、ミリアって、まあ、そんな事はどうでもいいが」
キャトルフの反応にスエルは、呆然としていた。
そんな時、廃墟の入り口の方から、大勢の足音が近づいて来る事にアルガノが気づく。
「マスター、沢山の足音がする。此方にくるよ」
「敵だと、厄介だな……怪我人がいるのに、たく……カヤン、二人で一気に片付けるぞ」
頷くアルガノ、二人は足音が向かって来る方向に立ち上がると、武器を構える。
一直線に伸びた通路の先、無数の影が人の形を真似て、武器を握り近づいて来る。
「おいおい、影が武器を持ってやがる。普通、影が武器を持てるのか?」
「ボクに聞かれても、ただ、影にボクの武器は通じるのかな?」
影はキャトルフとアルガノに気づくと、奇声をあげて襲い掛る。
「「「ヌエェェ──ッ!」」」
無数の刃が撓る枝のように不規則に繰り出される。軌道と言える物は存在せず、我武者羅な攻撃はキャトルフとカルミナの行く手を阻む。
通路と言う、広くも狭くもない空間に無数に繰り出される斬撃、次第に通路に新たな影が現れ、振り子のように刃を動かし出す、通路は刃に覆われていく。
「マスター、 マズイよ。奴等の動き」
「嗚呼、足止めが目的のようだな……」
大量の影を前に、刃を突き立てる二人。しかし、斬れども、斬れども、その刃が影を全て消し去る事は無く、消えた影は補充されるように次から次に集まっていく。
「チッ……埒があかないぜ」
キャトルフは苛立ちを露にしながらも、刃を止めること無く振るい続けていく。
「ハアァァ──ァァァッ!」
刃を輝かせ、影が補充される前に即座に切り刻んでいく。全てを闇に葬るよう、我武者羅に剣を振るっていく。
しかし、一瞬の刃と刃の振るう隙に影達の奥から長槍がキャトルフに向けて襲い掛かる。
無数の槍が突き出され、その一本がキャトルフの肩を掠めた。
肩を押さえるキャトルフ。
その時、キャトルフとアルガノの後方から凄まじい閃光が影に向けて撃ち放たれる。
「な、これって……」
後ろを振り向くアルガノ。
「ああ、間違いなく、カルミナだ」
キャトルフも同様に後ろを振り向くと、鬼の面を装備したカルミナの姿があり、その手は輝き、第二射の用意がされている。
「無事かしら、キャトルフ……アルガノ……」
無事を確認するとカルミナの手からは更に激しく閃光が撃ち放たれる。
「早く此方にきて! 手加減してたら、突破出来ないから!」
指示に従うようにカルミナの背後に移動する。
「私が本気で突破口を作る……キャトルフは私の援護、アルガノは怪我人達を運んで!」
キャトルフとアルガノは頷く。
カルミナは無数の閃光が影に撃ち放つ。
影が遠距離から次々に消し飛ばされていくと、次第に距離を縮めていく。
一瞬通路の出口が見えた瞬間、キャトルフが一気に距離を詰める。
影が次第に勢いが弱まると更にキャトルフ達は荒々しく反撃を開始する。
「術者の魔力が少なくなってるらしい、逃げられる前にソイツも捕らえる! いくぞ!」
「「了解!」」




