敗北者と狂者×思考×辿り着いた先に……3
腹拵えが終わり、肌寒い夜風と夜の闇を照す大きめの焚き火を黒猫と特務隊が囲む。
不思議な光景であった。つい数刻前まで、刃を向けた者同士が同じ鍋を口にして、暖を取っているのだ。
そんな二つの集団の長が向き合い腹を割って話す。
「一つ、聞かせてくれ。何故、生かすんだ? 黒猫の団からすれば、我々は厄介な存在だろうに?」
その質問に黒猫の団と特務隊の隊員である騎士達が視線を向ける。
「簡単さ、お前達を殺しても、得しないし、何より、お前はあの子供も村人も手に掛けてないからな、ただ、後であの子をコルト村に送って謝罪はして貰う……いいな?」
そう言うとカルミナと共に寝息を立てている村娘を指差すキャトルフ。
アルトゥトは、驚いた表情を浮かべながらも、確りとうなずき返答した。
「得かないか……嗚呼、約束しよう。確りと謝罪をさせて貰う。そう言えば、本来の目的を聞いていなかったな、何故、【シスイ】を襲撃したかだけ、教えてくれ」
アルトゥトが質問を口にすると、キャトルフは頭を軽く掻きながら、口を開く。
「質問は一つじゃなかったのか? まあ、いいが、【シスイ】を陥落させたのは、成り行きだ、本来は通過できれば良かったんだ」
キャトルフは【シスイ】での出来事を分かりやすく説明していく。
最初は、門番と揉めた話から始まり、【シスイ】の現状と絶望を強いられた住民と、人買いによって、奴隷として買われる幼い命の実情を語り、最後にはアルトゥトの祖父である【シスイ】の最高裁判官であり、領主でもあったグラウド=アバリシアの暴走について語った。
その際、キャトルフは自身の魔石については、触れなかった。
それは、アルトゥトからすれば、祖父である立場のグラウド=アバリシアを最後まで、盗人と思わせたくないと言う優しさであった。
「あの人格者であった祖父が……人買いと繋がっていたなんて……」
アルトゥトは、心の何処かで信じていたのだ、優しく微笑み、法を語る偉大なる祖父、グラウド=アバリシアの姿を……
「繋がってたのか、わからない……少なくとも……【シスイ】の指導者であり、法を重んじた遠い日のグラウド=アバリシアの名誉は揺るがない筈だ」
キャトルフはそう語るとアルトゥトは、静かに空を見上げた。
夜空に輝く星の中を静かに流れる流れ星が一つ、まるで別れを告げるように暗闇の彼方に流れて消えていく。
「なあ、お前ら特務隊は、【シスイ】を目指すのか?」
「いや、既にシスイを目指す意味がなくなった。我々の目的はシスイの内情の調査と、最近、頭上に輝いた閃光の調査にあったんだが、もう……目的は果たされた」
アルトゥトは、閃光の正体が黒猫の仕業であると確信した。
そうでなければ、黒猫の団と閃光の主が正面からぶつかった事になるからだ。
「どちらにしても、我々に調査すら程の力がなかったんだよ……黒猫。我々が、お前達を第三の関がある軍事要塞【ラタナ】まで、同行しよう。そうすれば楽に関所を通過する事が出来るだろうからな」
アルトゥトは特務隊に新たな指示を伝える。
黒猫の団を第三の関所──軍事要塞【ラタナ】までの護衛と第三の関所の通過を見送ると言う前代未聞の命令であった。
だが、特務隊は寸なりとその命令を受け入れたのだ。
キャトルフは笑みを浮かべながら、アルトゥトに語りかける。
「お前は信頼されてるんだな」
「当たり前だ。私はグラウド=アルトゥト中佐だぞ? 信頼なくして生き残れる程、今の軍部は甘くないんだよ」
そうして、アルトゥトは特務隊と共にコルト村に謝罪を済ませると、黒猫の団と共にコルト村を後にする。
目的地である第四の関所【ウォルべア】を目指して、進んで行くのだった。




