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否定する者×鬼の心×生命の息吹……2

 異常と言える状況に慌てて足元で気絶する鬼島を掴み起こすステルビオ。


「起きやがれ、今すぐにわかることを教えろ! 鬼島!」


 鬼島は無理矢理、戻された意識と微かにうつる視界に状況がわからず、困惑した。


 自身を突き落とした少年が只ならぬ雰囲気を全身から漂わせており、襲わせた筈のステルビオは片腕を庇う姿があり、部下の男達が無惨に倒れているのが窺えた。


「なんだ……何があったんだ……」


 脇腹を押さえながら、そう語ると立ち上がる。既に立つのが精一杯であろう鬼島はキャトルフを確りと見つめると静かに笑みを浮かべた。


「あはは、まさかの……本当にやりあってやがったのか……流石は俺の遺伝子だ……最高に強いじゃねぇか……」


 そう語ると脇腹を押さえる事をやめた鬼島が全力でキャトルフに向かって走り出す。


「嗚呼、マジに強いんだろうな……俺すら受け入れられなかった魔石(アーティファクト)が発動するくらいなんだからよ!」


 重傷者とは思えぬ、猛攻がキャトルフを襲う。


 スピードが早くなる度に、激しく出血する鬼島の姿にキャトルフは反撃をせずに回避に専念した。


 鬼島とキャトルフの姿に呆れた表情を浮かべたステルビオが動こうとする。しかし、その進行を鬼島が止めたのだ。


「気が変わったんだよ……俺の()()に手を出すんじゃねぇ、ステルビオ!」


 死にかけの人間が放つには禍々しく鋭すぎる眼光がステルビオに向けられる。


「ハァ、ハァ……俺は、このワケわからない世界に流されて、本当にムカついてたんだ……全てをぶち壊したくて仕方なかったんだ……初めて人を殺した瞬間気づいたんだ、俺はもう……元の世界には戻れないんだってな……」


 鬼島は孤独だったのだ。現実世界では、少しヤンチャな大学生であり、多少の無茶も簡単にやってのける後輩から信用される存在であった。

 突然、全てが奪われたように、異世界に放り出され、言葉が通じるからこその他人の冷たさを知り、常識が違うからこそ、騙す者が現れる。


 理不尽に殴られ、自身の価値すら他人に決められる世界に憎しみが溢れ出すと鬼島の中で歯車がズレ始めたのだ……


 鬼島は奴隷として捕まり、馬車に揺られていた。

 凸凹(でこぼこ)の砂利道に体が酷く打ち付けられる最中、気づいたのだ。


 “俺の価値を他人に決めさせて言い訳がない……”


 使い込まれた馬車の荷台で鬼島は必死に縛られた手足を自由にする方法を探す。そんな時、運命は鬼島に微笑んだ。


 馬車の一部に使われていた板が微かにひび割れていたのだ。


 バレぬように、揺れる馬車の振動にあわせて、目的の板へと近づく鬼島。


 後ろ手に結ばれた縄を切る為、ゆっくりと確実に自身の手に巻かれた縄をあてがっていく。

 そして、手首に痛みが走る事すら気にせず、縄を切断したのだ。


 そして、手足の縄を切ると、鬼島は覚悟を決める。


 日が傾き、奴隷商人の一団が馬車を停止させる。

森で夜一夜を明かす為に巨大なテントを部下達に用意させ、馬車に見張りを数名置かれる。

最初こそ真面目に見張りを行っていた男達も時間が過ぎるにつれて、抵抗される事はないだろうと言う気の緩みが生まれる。

見張りであるにもかかわらず、1人の男が酒瓶を懐から取り出し、それを合図に男達は更に酒を持ってくると焚き火で暖を取りながら飲み出したのだ。


その事実に気づいた鬼島は、このチャンスを逃して溜まるかと自身が生き残る事だけを未だ悩んでいた自身に言い聞かせるように頭の中で「やるんだ、殺るんだ、殺るんだ」と繰り返し言い聞かせる。


数人の男達が酒に酔い、見張りも手薄になったのを見計らい、人生初となる殺人を行う覚悟を鬼島は決める。


 見張りが一人になった所で馬車の中から物音を()てる。

 一人で来たなら、奇襲、複数なら動かずと、最初に決め様子を窺う。


 その時だった。凄まじい突風が吹き荒れ焚き火の炎が森の茂みへと燃え広がっていく。


 最大の好機が訪れると、馬車の中から男の首を確りとロックして、馬車に引きずり込み、見張りの腰に着いていた小刀(ナイフ)を即座に抜き取ると、心臓へと押し当てる全身の力を両手に集中させると考える事をやめ、()の部分を力一杯に回す。


 そこからは、全て偶然であった。鬼島の乗っていた馬車に繋がれていた馬が炎に怯え突如駆け出し、鬼島は奴隷商人達の元から逃げる事が出来たのだ。


 鬼島の手に残る、真っ赤な血液は皮肉にも生暖かく、人の温もりを感じさせていた。


「あはは、こんな、最低な気持ちなのに……生きてて嬉しいなんて……クソォォ……」


 それから鬼島は、殺した見張りから奪った武器を手に取ると、弱い者、見た目が他者と違う者、身分の低い者を次々に助けては「仲間にならないか」と声を掛け、力をつけていく。


 それこそ、鬼島の傭兵団である【鬼面童子】の始まりであった。


 傭兵団が大きくなれば、考え方もやり方も変わっていく。

 鬼島は既に自身の精神が異常なのだと気づいていた。


 命のやり取りが激しく行われる戦場を経験した際に鬼島は“他者に殺されたくない”と強く心に決めた。


 そして、ある結論に辿り着く。


 鬼島は、女の奴隷を買うことに決めたのだ。自身の血を分けた存在になら、殺されても構わない……そう考えたのだ。


 ある程度の年齢になるまで、奴隷に産ませた子供を育て、自身と戦わせる事で他者に命を奪われる事を防ごうとしたのである。


 そんな事を十数年、繰り返したある日、予想だにしない出来事が鬼島の耳に入って来たのだ。


 育成室の中で、母が死んだ者達が一つの集団を組始めたと言う内容であった。


 鬼島は歓喜に包まれた。自身と同じように、絶望から立ち上がり、力をつけようとする存在が生まれた事実に全身を震わせたのだ。


 そして、目の前に対峙するキャトルフを見て、微かに微笑みすら浮かべる鬼島。


「お前は、俺の血が濃いようだな……俺を否定する者が生まれた事実に感謝する、済まなかった……ありがと……う」


 キャトルフの目の前で謝罪と感謝を口にすると鬼島はその場に倒れた込んだのだ。


 ステルビオは、一部始終を見終わると、退屈そうに溜め息を吐き、キャトルフの元へと向かい歩き出す。


「けっ! 口だけの役立たずが、無駄に家族ごっこがしたかっただけかよ……くだらねぇ」


 虫の息の鬼島へ向けられた言葉にキャトルフは怒りを感じたのだ。


「やめろ! そいつに手を出すな!」


 キャトルフの言葉にニヤリと不敵な笑みを浮かべるとステルビオは鬼島の傷口目掛けて足を振り下ろしたのだ。


「やめろっ!」


「お前が手を出すなって言ったんだろ? あはは、さて……くだらねぇ時間は終わりだ!」

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