後方部隊×第四の関所×暗闇の部屋……6
リリアノアが売られた先は、傭兵団であった。
傭兵団の名は──鬼面童子
異世界から漂流者である鬼島 大地が作り出した荒くれ集団であった。
鬼島は暴力と恐怖を使い、奴隷を支配し、見せしめと言う方法を使い逆らう者には、死なないように処置を施しながら手足を引き裂くような残忍な命令を笑って行う男であった。
逃げれば死、従えば屈辱、どちらにしても奴隷となった者達からすれば、地獄のような日々が続いていた。
唯一の救いは、奴隷が鬼島本人の所有物と傭兵団用で別れていた事である。
リリアノアは鬼島の個人的な奴隷とされ、子を孕むまでの間、性的暴力に涙を浮かべる日々が続いた。
しかし、子供がリリアノアの体内にいるとわかると、それは無くなり。奴隷としての役割が終わる。他の孕まされた女性達と同じ部屋に移され、幼子達の面倒を女性達で見る事になる。
リリアノアは安堵した、しかし、新たな事実が浮上する。
一人の女性がリリアノアに語り掛けて来たのだ。
「貴女は初めて見るわね……可哀想に」
そして、何故、リリアノアが今いる部屋に送られたのかを聞かされる。
鬼島は自身の子孫を大量に残したいと考えていた。自身の所有物として、これ程価値のある商品は無いからだ。
孕んだ女性が無事に出産するまでは手を出さなくなる。
だが、産後はすぐに元の奴隷としての生活が開始される。その間、生まれた子供達を他の女性に面倒を見させ、孕んだらまた部屋に移すと言う性のサイクルを作り上げていたのだ。
一日、また一日と次第に大きくなる自身の腹部を見つめながら、子供が産まれれば、また地獄のような日々が始まるとリリアノアは恐怖した。
そして、リリアノアは、第一子となる男の子を出産する。
鬼島は自身の名をつけず、女達の名を産まれた子供に着けさせる。目的は生まれてきた意味を刻む為である。
奴隷として産まれた存在であると分からせる為の非道な考えにリリアノアは恐怖と絶望で精神を次第に病んでいった。
キャトルフが六歳になる頃、ストレスから度重なる死産を繰り返すリリアノアが、傭兵用の奴隷として鬼島のコレクションから解放される事となり、それから一年もしない間にリリアノアは病により、その生涯を終えた。
その間、キャトルフの面倒を見る者は減り、次第に一人でいる事が当たり前になっていく。
そんなキャトルフに話し掛ける少女がいた。
少女は一人、壁際でうつ向くキャトルフに微笑み掛けると真横に腰掛けた。
「アンタ名前は? 私はカルミナ、カルナ=カルミナだよ」
「……俺はキャトルフ……」
「何歳? 私は八歳だよ」
「たぶん、六歳……母さんと離れてから、年齢なんてわからないから……」
寂しそうに呟くキャトルフに対して、カルミナは数回頷く。
「そっか、なら私と一緒だね。私のママも、帰って来ないの、多分死んでる」
「一緒じゃない! 母さんは生きてる……絶対に生きてるんだ……」
最初こそ強い口調で声をあげたキャトルフであったが、真実に気づいていたのであろう、拳を握りしめるも静かに手を開く。
カルミナはキャトルフの頭を優しく撫でると静かに抱きしめた。
「頑張ったね。偉いよキャトルフ」
そこから、キャトルフは泣いた。静かに声を必死に殺しながら泣いたのだ。
それから二人は親無しの子達のリーダーとなる。親が居ないことは他の奴隷女性からすれば、厄介ごとでしかなかった為、誰もそれに反対する者はいなかった。
しかし、鬼島はその話を、奴隷から聞くと激しく激怒し、キャトルフとカルミナを自室に呼びつけたのだ。
キャトルフとカルミナが鬼島の呼び出しに従い、鬼島の部屋へと入る。
「よく来たな……糞ガキども? 今日はゲームをしたくて、お前らを呼び出したんだ」
鬼島の部屋に取り付けられた巨大な窓、そこからは、闘技場が一望できる。
「今から、お前らには、選択をしてもらう……お前らが可愛がってる糞ガキどもが今から、あの闘技場に全員集まる……当然、戦って貰うが、それじゃ、芸がないだろ?」
子供達より先に闘技場に姿を現したのは複数の武装した大男達であった。
鬼島は不敵に笑みを浮かべ窓際から闘技場を指差す。
「わかるか? 今からガキどもには、不幸な最後を迎えて貰う……だが、お前らが奴らを助ける方法もあるんだよなぁ」
鬼島はそう言うと、カルミナに自分の方に来るように口にしたのだ。
「女を残して、奴等を一人で相手して勝ったなら、ガキどもは助けてやるよ。だが、その時は、この女がどうなるかわからんがな?」
カルミナを犠牲に仲間を助けるチャンスを手にするか、カルミナを助ける為に、仲間を犠牲にするかを幼いキャトルフに選択させたのだ。
キャトルフは怒りを露にするも、選択出来ずにいた。そんな時、カルミナが声を出した。
「行きなさい。キャトルフ、アンタの本気を見せてよ。こんな奴に自由にされるような私じゃないわ」
強気な発言に鬼島は楽しそうに笑みを浮かべた。
「だとさ、どうする?」
キャトルフは、カルミナを確りと見つめると室内のテーブルに置かれた置物を咄嗟に掴み、窓に力一杯投げつける。
激しく割れた窓と予想外の行動に驚き、鬼島に一瞬の隙が生まれるとキャトルフは鬼島の懐に飛び込み脇腹に肘を勢いよく突き上げる。
「ガハッ……テメェ、って、おい! うわぁぁぁ!」
キャトルフは鬼島が脇腹を抱えた瞬間、割れた窓に押し当てるとそのまま、窓から闘技場に落下したのだ。
二階程の高さから落下したキャトルフと鬼島。
そんな様子に驚き、鬼島とキャトルフを見つめる闘技場の男達。
鬼島は落下する直前に割れた窓で脇腹を負傷し、大量の血が流れ出していた。
「掛かってこいよ! 俺はお前なんかに屈しない! 俺はアルベルム=キャトルフ! 絶対に仲間もカルミナも俺が護ってみせる!」
その言葉に背後から男達を掻き分け、一人の大男が姿を現す。
「アルベルム……だと、間違いないんだろうな? ガキ!」
姿を現したのはアルベルム=ステルビオであり、その表情は苛立ちに満ちていた。




