獣狩り×闇に埋もれし者×命の価値……5
グラウド=アバリシアを討ち取ると夜の闇が支配していた空にうっすらと朝が訪れる。
第五の関所は酷く損傷し、後方の守護を目的とした門は扉その物が吹き飛ばされ、修繕を余儀なくされる。
霧払いと酸に汚染された空気を浄化する役目を担当していた役人達は死に絶え、既にシスイは街としても、関所としても機能しない状態になっていたのだ。
そして、この事実は後にリアナ王国だけでなく、逃げた囚人や避難した住民により、バルメルム大陸全土が知る事になる。
【シスイ】を陥落させたキャトルフ達は、シスイに残る囚人の討伐と捕縛を開始する。
逆らえば、敵として葬り、従えば、捕まえるかわりに命を助ける。簡単な事だが、人間は時として、命よりも自由を求める生き物だ。
黒猫の団が戦う姿を間近で見てしまった囚人達は、キャトルフ達が接近すると攻撃を仕掛け走り出す。
囚人からすれば、一瞬の隙があれば逃げられる……そんな甘い考えが頭の何処かにあったのだろう……
しかし、現実は残酷であった。単なる盗人や奴隷商人といった囚人の放つ攻撃など傭兵である黒猫の団からすれば、子供が火遊びをしているのとそう変わらない。
攻撃を仕掛ければ、即ち死を意味する事実を囚人達は身をもって知ることになるのだ。
そんな中、素直に従う囚人も存在した。
「オレたちは、投降する。攻撃しないでくれ! 魔石は地面に投げる! 戦闘の意思はない!」
囚人は言葉通りに魔石を地面に投げ捨てる。
シシリアが確りと確認し、魔石が爆発物等でないとわかると、キャトルフは囚人の申し入れを受け入れた。
投降する事を決めた囚人のリーダーは、キャトルフと一対一の会話を行う。
「よく投降する気になったな?」
「まあ、オレたちに戦闘の意思はない。グラウドの奴に操られたり、口車に乗った連中は可哀想だと思うが、自業自得だ……ただ、最後のよぅ、食われて死ぬなんてのは正直ごめんだ……」
囚人のリーダーは元盗賊団の頭であり、グラウドの暴走で一緒に逃亡しようとしていた部下達が無惨に噛み千切られた事実を語った。
「オレは助けられなかったんだ……いや、助けなかったんだ……初めて心から恐ろしいと感じ、恐怖したんだ。部下が食われながら、叫ぶ声を無視して、今いる連中をつれて逃げたんだ……頭失格だ……」
元盗賊団の頭が苦悩する。
「だからなんだ、仲間を見殺しにした事実は変わらない。そんなお前が、生き残る為に投降した……しかし、自由など、存在しない……わかってるだろ?」
投降……一時的な、死の先延ばしであり、やがて、シスイには夜中の騒動に対する調査隊がやってくる事実をキャトルフは口にする。
最初に兄妹を襲った奴隷商人の存在、その商人が手にしていた兄妹の親権、囚人の解放と領民の虐殺、全てが明らかになれば、脱獄と領民殺しの責任は捕らえた囚人達に被せられるだろう。
リアナ王国からすれば、傭兵団が関所を一晩の間に壊滅させた事実を知ったとしても、公にする事はない。
逃げた者達の証言など、結果から見れば、小さな支障に過ぎないのだ。
キャトルフは元盗賊の頭に対して冷たく言い放つ。
「二つに一つで既に運命の歯車は止まらない。助かる道を探るだけ無駄だ、諦めろ」
無情な現実を前に元盗賊の頭は起死回生の助言をキャトルフに向けて口にする。
「オレは知ってるんだ、グラウドの奴が奴隷にした囚人達は一定時間が過ぎると死に至る! アンタの仲間なんだろ……あのカルナ=カルミナって女」
頭の首に凄まじい握力でキャトルフの手が襲い掛かる。
「何を知っている……今すぐに言え!」
「……わ、わかった……離してくれ……」
グラウドは魔石を使い、囚人達に暗示を掛けていた。
一定の時間、命令がなければ、囚人自らが死を受け入れると言う、恐ろしい暗示は既に呪いと言えるだろう。
「グラウドの奴は、ズル賢いが、調子にのって、口にしたんだ……魔石が壊されたら、暗示は消滅するって、本当か嘘かはわからないが……確かにそう聞いたんだ……」
「間違いないな!」
「ああ、間違いない! 毎朝のように、グラウドは身の周りを警護させる囚人に暗示を掛けるような素振りをしてた! 嘘じゃねぇ!」
頭の首を乱暴に離すとキャトルフは囚人達の見張りを団員に任せ、グラウドの死骸の周辺に散らばる無数の魔石を調べだす。
朝日が完全に顔をだし、時間が経過したなら、カルナ=カルミナの命が危うくなる事実にキャトルフの表情が険しくなっていく。




