疑心暗鬼×信じる心×奪われた信頼……6
新王帝連合は最後の戦へと進んでいく。
命と血が流れ過ぎた大地を大軍勢が重たい表情を浮かべながら新国家グレストロへと進軍していく。
第一の関所【ストレア】が陥落した事により、新国家グレストロに力を貸していた隣国、諸外国は静かにその力を撤退させていた。
新国家グレストロは完全に陸の孤島となり、前にも後ろにも身動きが取れなくなっていたのだ。
前からは新王帝連合が迫り、後方には手を引いた隣国と金と力で屈服させた数多の国が怒りを露にしながら睨みつける状況に追いやられていたのだ。
最後の戦闘を覚悟する新王帝連合の軍勢が気持ちを改める最中、リアナ王国軍が突如として動き出す。
四十一代国王。ダンベルム=リアナ=ライムは新国家グレストロを前に有り得ない行動に出た。
「門を開きなさい! そうでなければ、新国家グレストロ側についた全ての兵、その家族、友人に至るすべての者を処刑対象とします! 今すぐに決断しなさい!」
圧倒的な戦力差を前に語られる僅かな希望、それは新国家グレストロに従った多くの兵が困惑し、小さな声が、大きな声へと変わっていく。
そして、造られた巨大な堀に橋が降ろされ、堀に巨大な通路が出来上がり、強固に閉ざされていた正門が開き始める。
それを皮切りに、リアナ王国軍が一気に門を押し開ける。
「いきなさいっ! 開かれた扉を完全に開き、内部に進軍せよ!」
ライム女王の声に感化されたリアナ王国軍が前に出ると、新王帝連合が次々に新国家グレストロの内部に進軍を開始する。
リアナ王国軍が内部に入り込むとそれに続いて新王帝連合がそれに続く。
次々に新王帝連合が新国家グレストロに進行し、内部で激しい戦闘が開始される。
誰もが攻城戦を覚悟していた事もあり、内部に容易く入り込めた事実に不信感を感じる者も少なくなかった。
「チッ! 黒猫の団、いくぞ!」
“オオオォォォ──ォォウウっ!”
「グレイヴ、ゲルダ婆を頼む。何かあれば、直ぐに知らせる」
「わかりました、団長」
キャトルフを筆頭にアルガノ、カルミナと各黒猫の団が進軍していく。
黒猫の団からも進軍部隊と別に待機部隊が用意されていた。
待機部隊には回復師であるゲルダとその護衛部隊、更に後方支援大隊総大将モルガ=グレイヴといった万が一に備えた部隊と人材が待機する事となっていた。
「嫌な予感がするよ……あの子達、大丈夫かね……」
ゲルダは静かにそう呟く。
「大丈夫さ……すべて、上手くいっているんだ。ゲルダ、安心して見ていろ。すべては此れで終わる」
グレイヴはそう言うと、心配を口にするゲルダに水を手渡す。
「他の連中にも水分を取るように伝えてあるんだ、ゲルダも此れを飲んで落ち着け、なんなら、酒でも開けるか?」
「冗談を言ってるんじゃないよ……はぁ」
水を口元に運ぶゲルダの表情が変わる。
「ぐあぁぁ! 喉が!」
「ガバ、ガバッ! アァ……ガハッ」
その瞬間、待機部隊の至る所から叫び声が上がる。
「グレイヴっ! アンタ、この水に何を入れたんだいっ!」
“はぁ”
グレイヴは残念そうに溜め息を吐く。
「相変わらず、鼻が利くなぁ? コイツには幾つかの薬品を加えてあるんだよ。無臭ながらに喉の乾きを誘発する」
「それだけじゃないだろう!」
「嗚呼、更にそれ事態は無害だが、組み合わせて、胃液に触れると有毒ガスが発生するように薬品を特別なブレンドで作り出した毒水だ」
グレイヴは真実を告げると、ゲルダに剣を抜く。
「永い付き合いだったなぁ、ゲルダ。アンタは本当にリアナ王国から居なくなるべきではなかった……実に残念だ」
「まさか、いまだに……」
〈キャトルフ……カルミナ……アンタ達とまた笑って話せそうにないよ……すまないね〉
「ハアァっ!」
“ザシュ”
無惨に地面に倒れ込むゲルダ。
微かに薄れる意識で、ゲルダは目の前に広がる幻覚に対して天に向けて手を伸ばす。
「キャト……ルフ……、カルミナ……ダメなお婆ちゃんで御免よ……」
「綺麗なまま、終わらせたいが胴と頭を切らねば、貴女は復活する恐れがある。すまない」
ザン……ゴキ……
無慈悲な肉を切断し、骨が断ち切られる音が静かに終わりを告げる。
「すべてが終われば、私も直ぐにそちらにいく……すまない」
キャトルフの知らない闇が動き出していく。




