生きる者達×戦う者×ガドロヌの夜明け……3
雨に揺らめく巨大な炎が舞い上がりセラを一瞬で包み込むように飲み込んでいく。
「お前らッ! とっとと左右に飛べッ!」
風薙の声に慌てて反応したセラ隊の団員達は火傷を負いながらも坂の左右に移動し難を逃れる。
戦況が変わったと喜ぶグレストロ軍の下卑た笑い声が響いていく。
後退したグレストロ軍の弓矢隊が前に戻る。弓矢を構え坂の下に目掛けて、射ち放とうとした瞬間、弓矢隊の矢は天を駆ける事は無く、地上に赤く染まり落下する。
肉の焦げる臭いと同時に炎を纏った剣を操る獣人の姿にグレストロ軍の誰もが目を疑った。
恐怖だっただろう、弓矢すら効かず、更には炎までも意味をなさぬ存在が目の前に現れたのだから。
「は、早くコイツを殺せッ! 敵は一人だ!」
仲間がその場にいる事実を忘れたように向けられる弓矢、放たれた無数の矢が弓矢隊と同時にセラの体を貫いていく。
全身が矢で覆われたセラであったが、それでも、笑みを浮かべている。
更に言うならば、弓矢を容易く抜いていく。肉を切り裂くようにして抜かれる光景にグレストロ軍からは嘔吐する者すら存在する。
そんな状況に苛立ち、グレストロ軍から巨大な鉈と盾を装備した大男が前に出る。
「ダハハッ! 実に面白い! 此度は役目がないと退屈していたが、実によいぞ、さあ、お互いに雌雄を決しようぞ! 一騎討を所望する。我名はチャルカド=レムン……ッ!」
紅の一閃が空気を切り裂くように大男の首から上を吹き飛ばす。
無惨に転がる人に付いていた其れに対して、呆れたようにセラは呟いた。
「アンタ、五月蝿い……戦場なんだ……一騎討とか、綺麗事は死んでから言え、バカが……」
それはグレストロ軍の怒りを集める事に繋がり、弓矢と槍が次々にセラを襲い始める。
数十秒の攻防が繰り返される最中、セラは笑いながら口を開く。
「私の体には、何も効かない……毒も意味ない……そんな私をどうやって殺すかよく考えろよッ! 屑塵ども!」
敵の注意が集められるとキャトルフは、炎に包まれた坂道に対して駆け出していく。
「キャトルフ団長、飛んでください!」
背後からの声に力一杯に飛び上がるキャトルフ。
シシリアが即座にサポートに動き、新たな土を坂の下から操り、炎を飲み込んでいく、キャトルフは着地すると熱しられた坂道を更に加速させ上を目指し突き進む。
坂の上に向かう黒猫の団に気づいたグレストロ軍の弓矢部隊が慌てて矢を放つ。
しかし、既に坂の半分を登りきっていた黒猫の団とキャトルフに慌てて放った狙いが定まらない矢は意味をなさない。
キャトルフと黒猫の団が弓矢部隊を蹴散らし坂の上に到達する。
既にセラが剣士と戦士からの攻撃を全身に受けながら、無数の敵兵を切り裂く姿が皆の目に入る。
「セラッ! 今いく!」
キャトルフの声はグレストロ軍の視線を集め、敵兵は標的が複数になった事実に動揺する。
その一瞬で黒猫達は戦闘本能のままに攻撃を開始する。
黒き衣を纏った数多の種族が残虐な剣を槍を敵兵に対して刻んでいく。
セラの特攻から始まった獣道での戦闘は少数の被害を出しながらも、四勢力連合の勝利に終わる。
グレストロ軍の後方部隊は慌てて本陣に逃げ帰る事になり、追撃部隊と情報収集部隊が送られる。
逃げるグレストロ軍の先に構える本陣を確認した情報収集部隊が散開し、敵全体の数を確認すると、追撃部隊も深追いを諦め、四勢力連合の元に帰還する。
セラの傷は追撃部隊と情報収集部隊が帰還した際には完全に傷が消えており、キャトルフはセラに対して感情を露にしていた。
「セラッ! なんであんな無茶をした! お前に何かあれば、皆が悲しむんだぞ……お前だけじゃない……誰が死んでも皆は悲しむんだ」
「団長、でも、魔石の力で私の傷は全て復活します!」
「復活する代わりに、セラからは痛みが無くなり、味覚が無くなり、嗅覚を失っているんだ……無理をするな……頼むセラ」
「……私は」
拳を握り、涙すら浮かべるセラ。
「わかってる……凄く、頑張ってるのは理解してるんだ。だからこそ、生きてくれ、お前の為に皆が本気で怒り戦ったんだからな」
セラとキャトルフの会話を聞きながら、黒猫の団、全員がセラの無事を喜んだのである。
そんな中、情報収集部隊がグレストロ軍の全容を報告したのである。




