水路の悪夢×屍の宴×新たなる者達……2
グリムの言葉に教皇ダルムンドは自身の命が危うい事実を再確認した。
しかし、逃げ場の無い状況に加えて、同行させた信徒達では太刀打ちして、どうにかなる等と希望的な考えが現実に起こらない事は明白であったからだ。
信徒達が逃げようとした瞬間、グリムの巨大アンデッドが容赦なく潰しに掛かる。
逃げ場もなく、ただ蹂躙されるだけの空間、しかし、教皇ダルムンドはそんな最中、膝を地に着け、中心に真っ赤な石の装飾が施されたロザリオを手に祈りを始めたのである。
死を前に命の重さを自身で感じているような降るまいにグリムは苛立ちを露にする。
「神に祈って助かる命なら……助けて貰えばいいっす……でも、現実はそんなに優しく無い事実を知って欲しいんすよ」
巨大アンデッドがその拳を教皇ダルムンドに突きだす。
壁に拳ごと叩きつけられると、グリムは詰まらなそうに背を向ける。
「グリム隊長! あ、あれを!」
団員の一人が慌てて声をあげ、グリムの背後を指差した。
慌てて皆の視線が向けられた先には、巨大な拳に潰された筈のダルムンドが拳と壁の間から抜け出し、平然と笑みを浮かべる姿であった。
「なんすか、まだ、アンデッド化の魔石を発動させて無いんっすけど」
グリムがそう呟いた瞬間だった。地上から突如として、複数の叫び声がこだまする。
「グリムさん、じゅ、住民達が!」
「此方からも! 気をつけろ! コイツら武器を持ってるぞ」
先程まで隠れていた住民達が突然、武器を手に黒猫の特殊部隊に対して攻撃を強行して来たのだ。
一般の住民が突如として襲い掛かると一瞬の動揺と決断の遅れが起こる。数名の団員に対して数十人の住民がナイフや護身刀等を手に襲い掛かり、団員達に被害が及ぶ。
反撃を覚悟した団員達であったが、武器を手に団員を襲う住民達は涙を流し、恐怖を口にする。
「た、助けてくれ、手が! 体が言うことを聞かないんだ!」
「イヤーー、お願い、イヤよ、助けて、殺したくないの……」
グリムは地上で叫ばれる両者の声に驚く最中、ダルムンドの周りにも住民達が地上から次々に降りていく。
「何が起きているんっすか? 何で住民が……?」
次第に人の波が出来上がるとダルムンドは両手を大きく伸ばし、声を張り上げる。
「見よ! これぞ、神の力だ! 我が力は全住民の力と繋がり、それは全住民を屍とせねば、私には辿り着けぬら。我こそが命を司る神の存在である!」
住民の命を自身の死と連動させている事実を語るダルムンド。
戦争において、住民の大虐殺は戦犯となる。それは大義名分を有する四勢力連合にとって、隣国に攻めいる隙を与える形となり、望ましい状況ではなくなる。
ダルムンドは心臓部にロザリオの力を使い癒着させ、心臓部には真っ赤な魔石のみが輝いている。
その後、何度倒そうが、住民が命を落とす現状が続く。
グリムと特殊部隊は決断を迫られていた。
団員を襲う住民に対しては、情報収集部隊が手足を拘束し、舌を噛み切らぬように布で口が縛られる。
しかし、装備品と住民の数が合わず、次第に押され始めていた。それは敵として、住民を殲滅せねばならない事実を意味していた。
グリムが決断を口にしようとした時、その声は特殊部隊、全員の耳に響き渡る。
「ロザリオをッ! すべてはロザリオが操っているんですッ!」
特殊部隊に向かい声を張り上げる聖職者と獣帝軍がグリム達の元に向けて駆けてくる。
姿が確認できない地下水路で即座にグリムの口元が笑い、指示を口にする。
「聞いたっすね、最悪の決断をする前に、捕らえた住民のロザリオを破壊して欲しいっす!」
即座にロザリオが外されると次々に正常に戻る住民達、それを確認した特殊部隊員はグリムに声を上げて報告する。
「隊長ッ! 成功です! 此方はロザリオの破壊を最優先に動きます!」
確認が済むとグリムは自身の足元から大量のアンデッドを召喚する。
「終わりにするっす……」
アンデッド達が次々に地下水路に降りた住民達を複数で押さえつけるとロザリオを次々に引きちぎる。
住民の波が左右に別れるようにアンデッドにより、押さえ込まれるとグリムは更に大量のアンデッドを教皇ダルムンドに向ける。
手足が押さえつけ、身動きを完全に封じるとグリムはシャナに影の壁を地下水路から解除させ、ウォルベア全体に影の兵士を向かわせるように指示を出す。
「シャナ副隊長、命令っす……すべてのウォルベアのロザリオを信徒から外すように影に指示を頼むっす」
「初めてだな? 私に命令なんて、似合わないけど、任してよ……確りやらせてもらうからさ」
シャナが行動を開始すると次々にウォルベアからロザリオが力を失っていく。
それと同時に教皇ダルムンドの胸に輝く魔石が次第に輝きを失っていく。
そして、完全に輝きが消えた瞬間、グリムが不敵な笑みを浮かべた。
「終わり……先ずは手、その後は足……腹部……痛みは受けないようにしてあげるっす……自分が千切られていく感覚を死ぬまで味わって欲しいっす……」
「や、やめてくれ、頼む、頼む! 殺してくれェェェッ!」
地下水路に響く悲痛な叫び、しかし、その願いは命が燃え尽きるまで、叶う事はなかった。




