水路の悪夢×屍の宴×新たなる者達……1
逃亡の用意をしながら、予想外の事態に教皇ダルムンドは困惑した。
一つ目は、黒猫の団長(アルベルム=キャトルフ)をミリアが始末出来なかった事実。
二つ目は、聖職者協会本部を守っていた対魔石用の防壁、魔石制限の空間を造り出していた合計四つの塔が制圧され破壊された事実。
すべてがダルムンドの予想を大きく越えており、更に言うならば、ウォルベア側の敗北は決定的であった。
聖職者協会本部を完全に掌握せんと次々に四勢力連合の戦士達が足を踏み入れる。
次第に上へ上へと兵士達の足音が響き渡る。
「探せ、探せッ! 敵を見つけ次第、声をあげよ! 一人で戦おうとするな。いいな!」
各部隊長達が声を上げ合い、しらみ潰しに部屋を調べながら上を目指していく。
そんな最中、教皇ダルムンドは室内にある本棚の後ろに隠された螺旋階段から地下へと降りていく。
しらみ潰しに本部を探す四勢力連合の行動を逆手に取り、数名の信徒を連れて逃亡しようとしていたのだ。
教皇ダルムンドと信徒達が向かった先は地下水路であった。
地下水路は巨大な迷路になっており、地上とは異なる形で複雑に入り組んだ水路の各所に独自のマークが印され、解読書と照らし合わせ、更に本来のマークの意味を理解していなければ外には出られないように作られていた。
教皇と信徒達が聖職者協会本部から地下に移動して三十分程が過ぎた頃、地上では、キャトルフの本体と別行動をしていた黒猫の部隊が待ちくたびれたように街の一角で待機していた。
「シシリアさん、そろそろっすか? 凄く退屈っす」
「はぁ、何度言えば、いいんですか……此処以外は駄目なんです。確実に相手が通過するポイントなんですから、待っててください」
「わかってるっす……ただ、我慢の限界がとっくに過ぎてるっす……」
そう語るのは黒猫の別動隊であった。
デルモ=グリムが指揮を任された部隊である。
情報収集部隊、副隊長──ヤハナ=シャナ。
索敵部隊、隊長──シシリア=リース。
獣戦士特攻隊、副隊長──セラ=シェルム。
本来の情報収集部隊に加え、他の隊から隊長と副隊長を合わせた特殊部隊であった。
そんな特殊部隊が偶然にも見つけた者達こそ、聖職者協会本部から地下に移動した教皇ダルムンドと信徒達であった。
街全体が水に飲まれながらも、凄まじい速度で一定の地域から水が無くなる事実がシシリアにより、確認される。
その調査の為、地下水路を魔石で照らし合わせる事となり、ダルムンド達を発見する事に繋がったのである。
相手の詳細までは掴めない状況でありながらも、移動する人員の配置と人数からウォルベアの重要人物であると判断したのだ。
人数事態が少数であれば、敵は手練れであると可能性があるとして、特殊部隊の全員が捕縛、または殲滅を目的として網を張っていたのである。
そして、その時がやって来る。
「相手がポイントに入りました。作戦通りにお願いします、シャナ副隊長」
「わかってる。確りと出入口を塞がせてもらう」
シャナは影の壁を通路に作り、地下水路の逃げ道を塞ぐ。
事態に気づいた教皇ダルムンド達は慌てて、次の通路に向けて駆け出していく。
その瞬間、地上から巨大な拳が地下に向けて振り下ろされる。
地上から大きく開けられた穴から次々に地下に向かって黒猫の特殊部隊が駆け出していく。
逃げ場のない地下水路に広がる空間、次々に姿を現す団員達に印された黒猫のマーク、それは教皇ダルムンドと信徒達の逃亡への希望が断ち切られた状態となる。
地下水路に姿を現したグリムは、目の前に恐れ震える信徒達の姿に幻滅したように溜め息を吐いた。
「ハァ……本当にハズレっす……強者には見えないっすねぇ、本当にイライラっす……いい加減にしろって感じっす」




