聖職者協会×信徒の祈り×再生の光……5
風薙とアルガノが姿を消した聖職者協会本部では、キャトルフと向き合うミリアの姿があった。
キャトルフの後ろで、額を撃ち抜かれたスエルの姿を光り無き瞳で見つめるミリア。
「……ア、アア……ウワァーーーッ!」
突如、大声で泣き出すミリア。冷静になった瞬間に全てを理解し崩れるように膝を地面につく。
掛ける言葉が見つからないキャトルフはそんなミリアを静かに見つめていた。
そんな、悲しみと絶望が入り雑じる空間に響く“カツッ”、“カツッ”、という階段を降りてくる足音。
「実に残念な結果です……無能な駄犬から生まれた金の卵が砕けてしまうなんて……実に嘆かわしいですねぇ……はぁ」
身形の整った白髪の老人がそう呟く。服の胸元には聖職者協会内で権力者の証を意味する金のバッジを輝かせ、白長の帽子には金の十字架が刺繍されている。
身長は低く、シワの多いよれよれの顔、細い目、すべての印象を繋げば、優しそうな老人という印象を与える。
キャトルフは即座に理解しながらも、確かめるように質問を口にする。
「お前は誰だ?」
キャトルフの質問に驚いた表情を浮かべる白髪の老人。
「いやぁ、久々に言われました。私は既に顔が知られ過ぎていましてねぇ、本当に新鮮な気分ですよ」
「誤魔化すなッ! 質問に答える気がないなら、話す必要もないな」
苛立ちから荒い口調でそう語るキャトルフ。
しかし、白髪の老人は嘲笑うように口を開く。
「私はダルムンド=ステア……ウォルベアの管理者であり、この聖職者協会の代表……つまりは教皇と呼ばれる存在です」
キャトルフは教皇を名乗るダルムンドの発言が終わると同時に刃を抜く。
目の前にいたミリアの横を駆け抜け、そのまま、刃をダルムンドの心臓に突き立て抉るようにして刃を回す。
狂気に満ち溢れた表情を浮かべるキャトルフ、その表情は次の瞬間、冷静さを取り戻す。
心臓を貫かれた筈の教皇ダルムンドが平然と笑い出したのである。
「あはは……実に迷いのない恐ろしい一撃でした……ですが、私には意味が無いんですよ」
驚きながら、刀を抜くと距離を取るキャトルフ。
刀が抜かれた教皇ダルムンドの心臓部分からは出血はなく、服には貫かれた痕跡があれど、まるで刀その物が初めから刺さっていなかったようにすら感じさせる。
キャトルフは確かめるように、二度目の斬撃を構える。一歩踏み出した瞬間、凄まじい殺気が背中に向けられる。
慌てて、背後に刀を向けた瞬間、其処には全身が水に包まれたミリアの姿があり、感情が失われた淀んだ瞳がキャトルフを直視する。
「おやおや、どうやら……私を殺す前に偉大なる水の巫女であるミリアを倒さねばならないようですね?」
白々しい口調にキャトルフが一瞬、気を取られる。それを合図として水の散弾が撃ち出される。
散弾はキャトルフの肩、腕、腹部を掠めると壁には無数の穴が出来上がる。
威力を肌身に感じたキャトルフは、魔石に痛みを“否定”させる。
この行動はハイリスクである事をキャトルフ自身が一番理解していた。
痛みが一定的に無くなる事で攻撃、回避に集中できる、しかし、出血や打撲、骨折等があっても自身では気づけなくなる。
時間が過ぎれば、不利になる背水の陣という他ない苦肉の策である。
そんな状況でキャトルフはミリアに刃を向ける。
「ミリア……済まないが今のお前を救ってやれる自信がない。だが、全力でお前を止めてやるつもりだ」
会話すら受け付けないミリアは、再度、キャトルフに水の散弾を撃ち放つ。
それと同時にキャトルフは足に散弾が当たらぬように回避しつつ、水を弾きながら刃をミリアの水の膜に切りつける。
互いが消耗戦を覚悟する最中、教皇ダルムンドは笑みを浮かべていた。




