傭兵の維持×大地と大樹×神の器……6
シュゲンはグヤルに勝利したが、エルイ・リアナ王国、双方に大きな損害が出たことは言うまでもなかった。
死したエルイの戦士達は種に戻り、シュゲンと生き残った者達が種を回収する。
「被害は予想より少ない……じゃが、すまぬなぁ……皆よ」
種を袋に入れ、優しく抱きしめるとシュゲンは祈りを捧げた。
多くの犠牲が出る結果となったが、右翼、左翼、ともに四勢力連合が勝利を手にしたのである。
正面から怒濤の勢いで突き進む黒猫も同様に足止めを受けていた。しかし、其処に自然五精神の巫女の姿はなく。
聖騎士達も状況が理解できぬという表情を露にする。
黒猫の団長、キャトルフは聖騎士の動きを即座に理解すると一斉に攻撃を開始する。
自然五精神の巫女がいない聖騎士達に正面から迫り来る黒猫の団を止める事は出来なかった。
どれ程の力自慢の兵を束ねようが、統率された獣人には敵う筈がなく、魔石保有者の数もまた黒猫に敵う筈もなかった。
しかし、聖騎士側は、人造魔石を大量に戦場に持ち込む。
激しい炎を放つ人造魔石を有した大部隊が戦場を焼き払わんと前に出る。
不安定でありながらも、数で限界に達した前者と後者が入れ替わり終わり無き炎が黒猫を押そう。
黒猫の団──商人部隊隊長であり、物資調達商人のメル=カートルは商人の知恵を使う。
「キャトルフ団長、【フォルセの粉】を使うっすよ! 一旦、皆を後退させて欲しいっすが、出来るっすかねぇ?」
「嗚呼、わかった。聞いたかッ! 全員に後退を伝えてくれ、シシリア!」
「わかりました。団長」
シシリアは魔石を使い、即座に黒猫に対して後退のメッセージを各隊の隊長と分隊長に知らせていく。
各隊が後退を開始すると聖騎士達が勢いを取り戻したように前進する。
商人の知恵とは、交渉や取引の際に偽りを防ぐ為に用いられる手段の一つである。
世界には、闇市や極稀に表に出回る魔石が存在する。
そんな魔石の中には、上手く加工された偽物、人造魔石が故意に混じる事がある。その際に用いられる物質が存在する、それこそが【フォルセの粉】である。
【フォルセの粉】は、一摘みの量で人造魔石を誘爆させる危険物であり、更に純度の高い人造魔石を砕き粉末にした物であり、かなり値が張る品物だ。
そんな、【フォルセの粉】が入った袋を大空に勢いよく放り投げると、メルは風の魔石を使い、聖騎士側に吹き付けたのである。
「なんだ? 粉塵か? こんな物で!」
「う、隊長、人造魔石が急に! 駄目だ! 暴走する!」
「此方も、う、うわぁーーーッ!」
“ズッダンッ!”と次々に誘爆する聖騎士達、数秒の間に爆竹のように破裂すると、それを合図に、黒猫が再度、突撃を開始する。
「ふっふっふん、本当に殆んどが偽物なんて、貴方達の神様は無慈悲っすねぇ? 寧ろ、神の器にヒビでも入ってるんじゃないっすか? まあ、黒猫の死神は刈り取る気満々みたいっすけどねぇ……」
黒猫の強襲は勢いと武力は聖騎士達を蹂躙する事となる。
本来ならば、【ウォルベア】に存在する全ての人造魔石を用いて、黒猫を焼き払わんとしていたが、計画は虚しくも粉塵と共に灰になり消え去ったのであった。
一般の聖騎士達は絶望する。そんな最中、一人の聖騎士は目の前にボサボサの黒髪の小柄な男の姿に気づく。
「よう、聖騎士……今からが本番だ……だが、お前は此処までみたいだな、次は真面目に農夫にでも成るんだな!」
「ぎゃあーーーッ!」
聖騎士は薄れる意識の中で、黒髪の男に駆け寄る獣人の少女を目にする。
「マスター、一人は危ない。まだまだ、敵がいる」
「わかってるよ、カヤンは心配し過ぎだぞ? それよりも全員に正面に向けて突撃すると伝えてくれ」
「うん、マスター」
死に逝く聖騎士は、自分を斬った男が黒猫の団長である事実に気づくと、苦笑いを浮かべた。
〈本当についてない……死にたくねぇなぁ……〉
戦場では多くの魂が散っていく。キャトルフは、こと切れた聖騎士の眼を静かに閉じると再度、戦場を駆け抜けていく。




