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蜘蛛の生涯×絶望の笑み×雲なき大地……4

 シャノワの行動は傭兵達の気持ちを結果として完全に1つにした。


 誰もが武器を握る。エレドリオ=ホーンが雄叫びをあげて走り出す。


「ヌオォォーーーッ!」


 それを皮切りに、数百人の傭兵達が一斉に姿を現す。


 地上に落下した女を連れて逃げようとする複数の聖騎士達が慌てて移動を開始する。


 獣人からなる傭兵団から人間の足で逃げられる訳もなく。聖騎士達は次第に細い道へと移動していく。


「此のままでは、追い付かれる!」

「我々が時間を稼ぐ、風の聖女様を必ずや、教皇様の元へ!」


 後方を走っていた数名の聖騎士達が足止めに動き出す。


 しかし、足止めを決めた聖騎士達は即座に命の尊さを知る事となる。


 通路の曲がり角を曲がった瞬間、巨大なシールドが壁に聖騎士達を叩きつける。


「ぐあはっ!」

「げぁッ!」


 鈍い“ブジュッ!”という、肉と肉が押し潰される生々しい音が街中に響く。


「邪魔だッ! 潰れろ!」


 エレドリオ=ホーンはシールドに付着した血を軽く払う。


 予想よりも早い追跡に聖騎士達は振り向く事をやめて、肺が潰れる程に息を切らせて走り出す。


「ギャアーー!」

「げばっ!」


 後方から次々に叫び声が響く。そんな最中、聖騎士達に抱えられていた風の聖女が目を覚ます。


「なにが、あったの?」


 何が起きているかを理解していない風の聖女に聖騎士は走りながら説明をする。


 風の聖女の名はソル=シシル。

 普通の十代の女性であり、のんびりとした性格、腰まで伸びた金色の髪に青い瞳を有した美女だ。


「どういうです、何故、戦いなんて!」


「いいから、いまは黙っていてください!」


 そんな最中、背後からエレドリオ=ホーンと怒り狂った傭兵達が凄まじい勢いで迫ってくる。


「は、早く逃げてください! 後ろから怖い人達が来てます!」


「わかっています! だから暴れないでください!」


 恐怖が最高に達した途端、ソルの意識が一度途切れる。その瞬間、顔つきが変化し、口調が変わる。


「とまれ……敵が其処にいるんだろ? 今すぐに、と・ま・れ……」


 その言葉に聖騎士は足を止める。


 口を確りと閉じた状態でソルを下ろす聖騎士の姿に、逃げていた聖騎士達もその場で停止する。


 地に足をつけたソルが腕を真っ直ぐに伸ばす。

 後方から走り来るエレドリオ=ホーンと傭兵達は、急な行動の変化に対して警戒しながらも、止められない思いを胸にシールドを構えると速度をあげた。


「ソル様、来ますが!」


 聖騎士の一人が慌てて声をあげる。


「うるさい、だ・ま・れ! 近づいてくれるなら、好都合じゃない?」


 エレドリオ=ホーンの足が一定のラインに踏み込んだ瞬間、ソルの口が“ニンマリ”と角度を変える。


「バイバイ……怪物さん!」


 その瞬間、空中から小刀(ナイフ)がソルの腕を掠める。


「くっ! たぃ……誰よ!」


 空中からソルに攻撃を仕掛けたのはリア=バレルである。


 更に屋根づたいに傭兵達が弓を構え矢を放つ。


「ソル様! 前からも!」


「わかってる! ハアッ!」


 ソルの放った凄まじい突風が射ち放たれた矢を吹き飛ばし、更に正面から迫り来るエレドリオ=ホーンに襲い掛かる。


 その瞬間、エレドリオ=ホーンはシールドを片手に握り、確りと構える。

 その反対側の手に装備されたナックル、そのナックルに付いた刃が輝き出すと前に勢いよく突き出す。


 突風が左右に分断され、両側に別れた風が建物を切り刻んでいく。


 ソルは何が起きたか理解できず、苛立ちを露にすると連続で突風を放つ。


 エレドリオ=ホーンは二つの魔石(アーティファクト)を所持している。


 一つは、シールドである。壊れない効果を有している。


 二つは、ナックルである。魔力を切り裂く事が可能であり、攻防に優れた物である。


 二つの魔石(アーティファクト)が戦場に出た際には真の意味で最強の盾となる存在であった。


 そんな最強の盾であるエレドリオ=ホーンと空中を支配するリア=バレルを相手にする事となったソル指揮の聖騎士団は絶句する。


 ソル側の勝利が揺らいだ瞬間であった。


「ソル様、一旦、後退を!」


「黙れ! 怪物どもに見せる背中など、持ち合わせていない! ハアーーーァァッ!」


 ソルは左右の腕を上と下に伸ばし、上空と地中に激しい突風を巻き起こす。


「空雷は回避! 急げ!」


 リア=バレルの声に即座に動き出す空雷の団員達。


 エレドリオ=ホーン側も地中が大きく揺らぐと同時に針状になった刃がレイピアのように襲い掛かる。


 ソルはエレドリオ=ホーンの魔石(アーティファクト)を見て、即座に判断したのだ。

 エレドリオの魔石(アーティファクト)は正面からのみ最強であると……


 二つの傭兵団を相手に堂々たる姿を露にする。


 ソルが利用していたのは、ウォルベアの地下に造られた水路であった。


 風で地面を掘ることは敵わない、水路に風を流し込み、排水用の小さな穴から地上に噴き出させていたのだ。


 単純な方法でありながら、短い範囲で造られており、エレドリオの足元にもそれは存在していた。


 傭兵団からすれば、地中からの凄まじい攻撃に回避する事に精一杯になっており、攻撃の仕組みを理解できずにいた。


 そんな最中、ソルは不敵に笑う。


 更に勢いを強めるとレイピア状の風の刃が剣程のサイズに変化する。


「グオ!」

「クソ! がは!」


 傭兵団から声が上がる。エレドリオは、悩むことをやめた。

 睨みつけるようにソルに視線を向ける。


「シャノワの気持ちが少し理解できる……生きる意味か……!」


 覚悟を改めた瞬間、巨大なシールドを前に向ける。


「お前達、済まないが……突っ込ませてもらう!」


 ソルはその瞬間、エレドリオに向けて手を前に伸ばす。

 地中に向けられていた腕が正面に向けられると其れを合図に傭兵達が左右に駆け出していく。

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