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蜘蛛の生涯×絶望の笑み×雲なき大地……3

 敵の姿すら確認出来ぬまま、散り散りに隠れた傭兵団の面々は本隊が奇襲に気づき、救援に来る可能性に危機感を感じていた。


 見えない攻撃に対して、本隊が正面からぶつかれば、その被害は計り知れなかったからだ。


 そんな時、シャノワと共に隠れた傭兵団の服を引っ張る存在がいた。

 それはシャノワと会話をした少年であった。


 傭兵は小さな声で少年に話しかける。


「何をしてる、早く逃げろ。せっかく助かった命なんだ……」


 傭兵の言葉に少年は首を左右に振る。


「さっきのあれは、間違いなく聖職者協会の服を着てた」


「それがなんだ。いいから逃げろ。本当に死んじまうぞ」


 少年は傭兵達にわかるように震えた指を建物へと向ける。


 其処には無惨に破壊された建物と崩壊した瓦礫から真っ赤な血が流れ出していた。


 少年が言わんとする事を理解した傭兵達は困惑と現実を直視する。


 最初の攻撃は傭兵団だけを狙ったモノではなく、無差別にその範囲にいる生命体を狙ったモノであると。


「なんて奴等なんだ。守る筈の住民に対して、なんて事を……」


 敵の残虐せいを理解した傭兵達は互いの位置を確かめる。


 左右に別れて身を潜めたエレドリオ=ホーンとリア=バレルも同様に機会を窺っていく。


 そんな最中、若い信徒が四人、恐怖から建物の扉を開き、外に駆け出していく。


 まるで、標的にされたかのように一人の信徒が無数の風に切り刻まれる。

 それでも逃亡しようとする信徒達、その内の一人が足を(もつ)れさせた。


 転んだ拍子に鞄に入っていた荷物が勢いよく地面に散乱する。


 それと同様に、先程まで攻撃を仕掛けなかった風の塊が音をあげる。


 その瞬間、信徒達が慌てて走り出す。


 次の瞬間、転んだ信徒の心臓部分に吹き飛び、風が突き抜けていく。


「なんて惨い死に方だ……」


 傭兵達が目の当たりにした光景を子供達に見せぬように傭兵達が目を塞ぎ、シャノワもまた、千切れそうな腕で少年の目を塞いだ。


「はぁ、はあ……」


 シャノワは必死に空気を肺に吸い込むと、持ち歩いていた薬草を自身の口に張り付ける。


 凄まじい痛みがシャノワの全身を駆け巡る。

 歪んだ表情を必死に堪えた(のち)、眼孔を確りと見開く。


「さっき……風の先に敵の姿がハッキリと見えた……姿を上手く隠してるが……一人じゃない……」


 シャノワはそう語ると、地面に文字を書いていく。


 既に声を出すことすら限界だったのだ。


 地面に書かれた文字は──


『奴らは複数だ、仮面をつけた連中が地上に複数、空に女が一人』


 その場に隠れた傭兵団の面々は無言で頷く。


 シャノワは“ニヤリ”と笑って見せると、ゆっくりと動けない体を立たせる。


 止めようとする傭兵達を止めるシャノワ。


「……いく」


 その瞬間、シャノワが建物の影から通りに移動する。


「くたばれ……!」


 力なく握られた魔石(アーティファクト)が輝き、凄まじい風がシャノワの全身から放たれる。


〈オレはシャノワ=グランドール、死して生ける屍となろう!〉


 シャノワの手足がボロボロに刻まれる。魔石(アーティファクト)が手から地面に落下する。


 “ガシャンッ!”と、鈍い落下音と同時に魔石(アーティファクト)に亀裂が入る。


 まるで蒸気が大地から噴き出すように凄まじい風が地上から空中に向けて吹き抜けていく。


 凄まじい突風がシャノワの体を切り刻み、倒れ込む。


 シャノワは命を落とす事になる、しかし、その顔は笑っていた。

 突風はすべてを吹き飛ばし、地上で身を潜めていた者達が姿を晒し、更に空中に止まっていた女も地上に身をおろす。


 地上戦であれば、巨岩(きょがん)傭兵団のエレドリオ=ホーンに敵う戦士は聖騎士団には存在しない。

 更に言うば、大空に対しても、先手を取られなければ、“空雷(くうらい)傭兵団”のリア=バレルは獣帝国ガルシャナで右に出る者はいない。


 シャノワが命を賭けて作り出した戦況は傭兵団の勝利の道しるべを作り出したのである。


 それと同時に、シャノワの行動は獣帝国ガルシャナの本隊に戦況を伝える結果となった。警戒を強めながら、増援に向かうペリグロッソの本隊が移動を開始したのである。

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