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蜘蛛の生涯×絶望の笑み×雲なき大地……2

 【聖職者協会・教皇室】


 慌てて教皇室の扉を叩き、室内に入る信徒の姿があった。


「教皇様ッ! 大変です、正面の本隊を指揮を任されていたケルジ=ハンゼ司教が敗れました! 敵は正面と左右の扉を破壊し、この中心である聖職者協会を目指しているものと!」


 教皇は軽く天井を見つめると信徒に対して、ゆっくりと声を返す。


「ならば、ウォルベアの住民にロザリオを身につけるように伝えなさい。いざとなれば、ロザリオを身につけている者はウォルベアの戦いを望まなかった者達であったと命をかけて懇願しよう、よいな?」


「は、はい……すぐに」


 信徒はその場を後にすると他の信徒達に教皇の意思を伝え、街中を走り、ロザリオを身につけるように伝えていく。


 そんな最中、四勢力連合は正面、右翼、左翼と中心地に向けて、進んでいく。


 正面のキャトルフ率いる黒猫の団は、抵抗が収まりつつあるにも関わらず、危機感を強めていた。


 聖職者協会の総大将であるケルジ=ハンゼを討ち取ったが、未だに身を潜めている【自然五精神】の存在を忘れてはいなかったからだ。


 そんな黒猫の団とは違い、いち早く中心地を目指す者達の姿があった。


 獣帝軍の一つとなった三つの傭兵団である。


 傭兵団はその全権を【浪牙】の団長である狼の獣人、シャノワ=グランドールに一任されていた。


 【巨岩(きょがん)傭兵団】バイソンの獣人である団長──エレドリオ=ホーン。

 【空雷(くうらい)傭兵団】(タカ)の女獣人である団長──リア=バレル。


 二つの傭兵団、団長を副官とした獣帝軍の部隊となっていた。


 そんな傭兵団は獣帝軍は網の目状になっている【ウォルベア】の市街地を本隊とは別ルートで進んでいく。


 市街地の建物や民家からは閉めきられた窓とカーテンから無数の視線が向けられる。


 視線のほとんどが恐怖に支配されたものであり、シャノワと傭兵団の獣人達は不快感を感じ苛立ちを露にしていた。


「チッ、嫌な視線だぜ」


 そうシャノワが口にした瞬間、数人の子供達が姿を現すし、腕を振りかぶる。


 子供達が握っていたのは、石や砂であり、それを力いっぱい、シャノワ達に向けて投げ放った。


「帰れ!」

「お前達が来なければ!」

「父ちゃん達が守ろうと頑張ってるんだ! 帰れ!」


 子供の力では大したダメージは与えられない。しかし、その行動に獣人達は怒りを露にする。


「ガキどもッ!」


 一人の獣人が前に出て怒鳴り声をあげる。


 しかし、そんな獣人を制止するシャノワ。


「やめろ! 相手は子供だ」


 シャノワの言葉に従うと獣人は踏み出した足を後ろに戻す。


 そんな最中、シャノワは子供達に向けて質問を口にする。


「おい、俺達が憎いか? ガキども?」


 正面から向けられる鋭いシャノワの眼光に畏縮する子供達、そんな中、一人の少年が一歩前に踏み出す。


「当たり前だ! この街は平和だったんだ! お前達が来なければ!」


 『平和』と言う言葉にシャノワは溜め息を吐いた。


「お前達が言う平和ってのに、犠牲はなかったのか?」


 『犠牲』その言葉に少年が視線を逸らす。


 そのまま、シャノワは、少年に対して喋り続ける。


「ウォルベアはリアナ王国を裏切ったんだ。グレストロと手を組んだ時点で、リアナ王国と戦う意思ありと判断された」


「た、だからって! いきなり戦争していい理由になんてならないじゃないか!」


「わかってねぇな、戦争を仕掛けた側にウォルベアはいるんだよ。それを赦せなかった連中がいる。黒猫は直ぐに動き出した、獣帝国ガルシャナと同盟を結び、リアナ王国と戦う意思を示した」


 下を向く少年。


「それにな、ウォルベアはエルイの郷に対して、前ぶれもなく攻撃を仕掛けたんだ。報復される覚悟がないなんて、言わせないし、通らない話なんだよ」


「……そんな、なんで……」


 少年と子供達の横を無言で通り抜ける傭兵団。


 そんな中、シャノワは大きな声を発した。


「しっかり生きろ! 俺達は皆殺しを目的とした異常者じゃないんだ。だから、生き残れ、ガキども! それと石をぶつけられて、許すのは俺達ぐらいだ。他の連中にはやるなよ。見逃してくれないからなぁ」


 シャノワの言葉に傭兵団の面々も軽く笑みを浮かべた。


「見逃すのは、浪牙のシャノワだけだぜ。優しいからな」

「だな、まあ……今回は隊長らしいから従うがな」


 そんな優しい会話を一瞬で掻き消すような凄まじい殺気がシャノワに向けられる。


 方向は通り過ぎてきた後ろ側であり、咄嗟に子供達にシャノワが視線を向ける。


 “シュンッ!”


 空気を切り裂くような音速の風がシャノワの腹部を貫く。


「な……! みんな、逃げ──」


 シャノワが指示を口にしたと同時に風の塊がシャノワの頬を削り、手足を削るように貫いていく。


 傭兵団はボロボロのシャノワを抱えると、建物の影に避難し、周囲を警戒する。

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