戦場の街×聖職者協会×優しい闇……6
最前線が再度動き出そうとする。
この時点で【ウォルベア】は総戦力の半数を失っていた。
更に右翼と左翼からも攻められ【ウォルベア】には、四勢力連合軍が既に内部まで攻めいっている現状があった。
ケルジ=ハンゼは、静かに剣を握ると鞘を信徒の一人に預け、最前線へと移動する。
【ウォルベア】の聖騎士は既に三分の二がその命を落とし、グレストロ軍の撤退と言う形での裏切り行為、既に勝敗の明らかな負け戦であった。
多くの信徒達がハンゼ司教を止めようと道を塞ぐも、その歩みを止める事は出来なかった。
そんなハンゼは自身を止めようとする信徒や子供達に微笑みを浮かべたまま歩いていく。
その表情には不安や恐怖は一切なく、信徒達はハンゼの無事を祈るのみであった。
聖職者として、生きる道を選んだハンゼからすれば、苦渋の決断であっただろう。
ハンゼは【ウォルベア】内部に残りの兵力を戻す。
聖騎士達の撤退を確認し、好機と判断した黒猫の団員達が先行して市街へと近づいていく。
そんな最中、獣戦士達の足が突如動けなくなる。痛みなどは無く、純粋に地面から足が上がらなくなったのだ。
獣戦士の一人が履き物を脱ごうとした瞬間、忠告するように声が掛けられる。
「やめとけ、素足で動けば、足の皮が持ってかれるぞ」
軽く語り掛けるような口調に対して放たれる凄まじい殺気。
獣人だからこそ、即座に理解できる程の自然なまでの殺気に獣戦士達が身構える。
狩る者と狩られる者の境界線が薄くなる最中、凄まじい一撃が獣戦士達を襲い、一人が倒れ込む間に次の獣戦士が襲われていく。
獣戦士達は致命傷こそないが、皆が確実に一撃を食らわされており、足の自由が奪われたまま、背中から地面に倒されていた。
獣戦士達が僅かに理解できたのは、傷口から全身に痺れが襲い、力が入らぬ状況であり、僅かな傷口からは、有り得ない程の出血が起きていた事実であった。
「な、何をしやがった!」
「只の毒じゃねぇな……力が入らねぇ」
獣人達の問いに対して、ケルジはあっさりと返答を返した。
「単純に毒だ……無理矢理に動けぬよう、特別な毒を使わせてもらった。出血が酷いのも、そのせいだ……下手に動くな」
動こうにも動けない現実に獣戦士達は死を覚悟する。
しかし、ケルジは獣戦士達を殺そうとはしなかった。寧ろ、動けぬ獣戦士達に更なる軽い一撃を加えると力なく呟いた。
「一時間足らずで、動けるようになるだろう……動けば出血が激しくなる。死にたくなければ動くな……生きることに罪はない……」
そう語るケルジは前方から近づくに凄まじい殺気に視線を向ける。
其処には、真っ赤に全身を染めたアルガノと静かに後ろに続くカルミナの姿があり、その背後には大勢の獣戦士特攻隊の姿があった。
「きましたか……実に残念な光景です」
荒々しく激しい戦いが続く戦場の中で、静まり返ったように流れる空間が其処には存在していた。
「ボクは獣戦士特攻隊隊長、アルガノ=カヤン。一人? 大将……なら、その首を貰いたいんだけど」
無表情でそう尋ねられると、ケルジ=ハンゼは不思議と笑みを浮かべていた。
「自己紹介か……名乗りは大切だが、隊長を名乗るには幼いんじゃないか?」
見た目から、そう語るケルジに対してアルガノは無表情からニッコリと笑って見せると凄まじい速度でナイフを放つ。
ナイフがケルジの頬を掠めると其れを合図に互いが動き出す。
アルガノの大振りなバトルアックスが地面に突き刺さり、粉塵が舞う。
ケルジが多少の驚きを見せるも斧を振り下ろした瞬間の隙を狙い剣を突き出す。
バトルアックスの刃が縦に広がり、即座に盾のように変化する。
刃を弾かれたケルジが距離を取ろうとした瞬間、盾の中心がランスのように一直線にケルジを襲う。
「ハアァーーーッ!」
「ヌッ!」
ギギッ!
剣でランスを受け流す。互いに武器を重ねるとアルガノの力押しの一撃に対して、技で受け流すケルジ。
ケルジが一歩後退するように後退りをするとアルガノは力強く足を踏みしめてバトルアックスを振り払う。
次の瞬間、アルガノの足がピタリと止まる。
「なぁ!」
アルガノがバトルアックスの勢いに煽られるように体勢を崩し、片腕が地面につくと、アルガノの表情が一瞬で変わる。
「動かないだろ? 片手と両足に膝までついたんだ。もう、身動きは取れまい……終わりだ」
軽い斬撃がアルガノの手足に切りつけられるとアルガノの体から力が抜けていく。
「くっ……」
「悔しいだろう、だが……お前は私よりも強い。相手が私でなければ、敵は、いなかっただろう。だからこそ、お前だけは確実に仕留めさせて貰う」
優しく語り、微笑むケルジの剣先が黒く染まる。
「痛みはない……心臓その物を一瞬で止める。安心して眠るがいい……」
ケルジの刃がゆっくりとアルガノの心臓目掛けて、突き出されていく。




