戦場の街×聖職者協会×優しい闇……5
「なんてなぁ……そのくらいの加速を魔石無しに手に入れられない者が、勝てる程、死地は優しくない……死んで出直すがよい」
シュゲンが聖騎士団の隊長各を容易く屠ると、聖騎士団から一人、また一人と、逃げ出す者が出始める。
追い討ちを掛けるようにリアナ王国軍とエルイの戦士達が勢いを増して追撃を必要に迫ると瞬く間に聖騎士団が散り散りになる。
四勢力連合軍は右翼と左翼、両方の扉を制圧し開放する。
そんな敗北を目前とした聖騎士団の総大将であるケルジ=ハンゼ司教は正面から迫り来る黒猫の団に対して少数精鋭ながらに奮闘を見せる。
最初こそ、勢いで推し進めていた黒猫の団であったが【ウォルベア】に近づくにつれて、聖騎士団の動きに変化が現れだした事実に気づかされる。
鋭いキャトルフの眼光が最前線に向けられる。
「なんか居やがるな……前線が停滞してやがる」
即座に馬を走らせようと手綱を引く。
そんなキャトルフの馬を制止する手が前に出される。
「頭を冷やせ、キャトルフ。大将と団長では根本的に立ち位置が違うのだから」
そう口にしたのは、情報収集部隊副隊長、ヤハナ=シャナのサポート役を任されていたカルナ=カルミナであった。
「なんで、カルミナが此処にいるんだよ。シャナのサポートはどうしたんだ?」
「当然、サポートしてる。今も頭上で皆の援護をしてくれてるからな、それに副隊長の命令だ。“下を頼む”とな、私が先にいく。大将なら我慢と忍耐を覚えろ、いいなキャトルフ」
優しい微笑みと共に最前線へと進むカルミナ。
前線では、獣戦士特攻部隊、隊長アルガノと獣戦士特攻隊が数百の聖騎士団とぶつかり合っていた。
獣戦士一人を相手に三人一組の交戦をする聖騎士団に黒猫からも少なからず、犠牲者が出ていた。
隊長アルガノに対しても、五人一組の形を取り、更に周囲から増援が向かわぬように渦を作り出すように聖騎士達が周囲を包囲する。
「ボクだけを確実に潰しにきてる……こう言う戦い方は本当にウザい……」
魔石を輝かせたアルガノは静かに得物の形状を変化させる。
先端は鋭く禍々しいギザついた巨大な刃がギラつき、長く伸びた持ち手、下側には円上の刃が付いたバトルアックスへと姿を変えた。
力強く握られた特殊バトルアックスが無情な刃を聖騎士に食らわせ、円を描くように振るわれた一撃は大地を真っ赤に染める。
渦を作るように陣形を取った結果、一瞬で多くの聖騎士がその命を摘み取られたのであった。
そんな最中、聖騎士団の中に魔石を装備した装甲兵が巨大な槍を手にアルガノに向かって駆け出していく。
装甲兵の槍が真っ赤に輝き煙をあげる。
「死ねッ! 獣人がぁーーーッ!」
「やらせるかーーーッ!」
獣戦士達が防衛に回り、装甲兵とぶつかり合う。
「ぐはぁ……クソ、あ、あちい……ギャアァーーーッ!」
装甲兵の槍が更に熱を上げ、煙が激しく上がり出すと貫かれた獣戦士と共に激しい爆発が起こる。
獣戦士と装甲兵が爆発した瞬間、アルガノの脳裏にある言葉が浮かぶ。
「気をつけろ! コイツらが使ってるの魔石じゃない、人造魔石……不安定な紛い品だ」
獣戦士達が即座に距離を取る最中、爆発した筈の装甲兵が動き出す。
獣戦士達はその光景に苛立ちを露にする。
「コイツら、爆発するのを前提に防御を高めて来てやがる」
「まずいな、触れた瞬間に爆発されたんじゃ、近づけねぇぞ!」
同様を露にする獣戦士達に対して、アルガノが冷静に指示を出す。
その瞬間、獣戦士達が一定の距離を保ちながら、ナイフなどを力いっぱいに放ち反撃をする。
そんな最中、アルガノが一人の装甲兵に一心不乱に駆け出していく。
その瞬間、慌てて装甲兵達がアルガノの前方に移動する。
装甲兵の行動を目の当たりにするとアルガノが液体の入った小瓶を腰の袋から取り出し、攻撃目標とした装甲兵に投げつける。
小瓶が割れるが変化は起きず、同一の装甲を装備していた兵士達が代わりがわりに入れ替わり、標的を特定できぬように動き出す。
しかし、アルガノは何一つ悩まず、一直線にナイフを全力で放つ。
アルガノの手から放たれたナイフが一人の装甲兵の額を装甲ごと貫くと装甲兵が力なく倒れ込む。
その瞬間、獣戦士達が装甲兵の人造魔石である槍に向けてナイフを放っていく。
次々に真っ赤になり、煙をあげる槍が装甲兵の手の中で破裂していく。
「ギャアァーーー!」
「腕が、腕がァーー!」
一つ違っていたのは、装甲兵達の腕が綺麗に吹き飛び、絶命できなかった者達が痛みに苦しみ地べたをのたうち回っていた事であった。
「防御の魔石を一人が使って、爆破から免れていたなんて、本当にくだらない」
アルガノが仕留めた装甲兵こそ、防御の魔石を使っていた術者であった。
アルガノは部下達にナイフ等で槍に攻撃をさせ、触れた瞬間の色を窺っていた。
そんな最中、槍の色が変わらなかった装甲兵がおり、更に積極的に前に出ていなかった事実から攻撃を仕掛けたのだ。
結果として、獲物を逃がさぬように、狩りで使う液体の入った小瓶を用いる事となったのである。
人間の嗅覚ではわからない程の微かな香りを放つ液体が付着した装甲兵はアルガノの的となったのであった。




