過去の悪夢×リアナ王国×囚われし者……5
「なぁ、団長? 言葉が足りないんだよ……たく、相手はガキな、わかる?」
その言葉にキャトルフを見つめ、団員全員が首を縦に振る。
「団員の言いたいことは、オレ達(アルガノ以外)は理解できるが、子供相手にゃ難しいっしょ?」
風薙は、キャトルフに代わり、少年に対して声を掛ける。
「悪いな少年、うちの団長ってば、言葉足らずでさ、でな、お前も飯を食べるなら食料を渡すって言いたいんだよね」
少年は驚いた表情を浮かべる。予想していなかった言葉だったからだ。
「本当に……分けてくれるの」
顔を真っ赤にし、涙すら浮かべる少年の表情はキャトルフに凛々しく食い下がらずにいた、それとは違い、幼い少年の自然な表情に変わっていた。
「あはは、団長を前に、あんなに頑張ってたのに泣くなよ、名前は何て言うんだ?」
少年に優しく微笑み掛ける風薙。
「オレ、僕は……ナザナ=セルム」
「そうか、オレは風薙=颯彌だ。で、団長のアルベルム=キャトルフ、ナザナに斧を向けたのが、アルガノ=カヤンな、他の連中も紹介したいが、挨拶は後にしよう」
会話を切り上げるとキャトルフ達は少年と妹が暮らす小さな家に向かう。
着いた先には、家と言うには余りに小さな小屋があり、壁と屋根は酸の湖からの風により、既に腐りかけていた。
殺風景な室内には四つのベッドが並び、その一つに、少年の妹であろう、少女が横になっている。
「ただいま、アイリ、聞いて。この人達が、食料を分けてくれるって」
少女に駆け寄り、明るく笑みを浮かべる少年。
少女の名はナザナ=アイリ。
酸性の空気により、幼くして肺を損傷し、寝たきりを余儀無くされている。
軽い運動すら、生命の危機に繋がる少女は、悲しげな表情でキャトルフ達を見つめた。
顔色は悪く血の気はない、既に食事すら摂取出きるか危ぶまれる程に衰弱している事をキャトルフ達は理解した。
「……ゲルダ、少し容態を見てやってくれ、あのままだと、飯は食べれないだろう」
キャトルフの言葉に、後ろで待機していた団員の一人が前にでる。
傭兵……と言うには年老いた小柄な老婆であった。
老婆の名は、スラド=ゲルダ。
黒猫の団の回復師である。世界でも稀な魔石無しで回復魔法を使える存在であり、本来は薬師である。
戦場の回復と壊滅を左右する存在として、恐れられている。
キャトルフの第二の人生の師であり、命の恩人でもあった。
「はいはい、そう言うと思ってたよ、さて、男ども、外にでてな!」
ゲルダの言葉に慌ただしく、団員の面々が外に出る。そんな中、キャトルフはゲルダに小さく問い掛ける。
「見込みは?」
「見てみなきゃ、わからんさ……ただ、此のままだと七日はもたないね……良くて三日かね……」
「……そうか、頼む」
キャトルフはゲルダとの会話を終えると室外に移動する。
外は汚染された空気に支配された悪害の世界が広がっている。
嬉しそうに笑みを浮かべる少年を前に、真実を伝えられぬ遣る瀬なさ、キャトルフは拳を人知れず握る。
二時間程たった後、ゲルダが扉を開き、顔を出す。
「キャトルフ、あと、ガキんちょ、二人だけ入ってきな!」
呼ばれるままに、室内に向かう二人、ベッドに起き上がっている少女の姿にセルムは涙を流した。
「ああ、アイリ……起きれるの……」
ゆっくりと近付く兄の姿に、妹が手を伸ばす。
そんな姿を見つめる団長と老婆は、兄妹に聞こえないような、小さな声で会話をする。
「あの兄妹じゃが、このまま、この地にいれば死ぬぞ?」
「……だろうな、だが、あの少女に他の地まで移動できる体力があるようには見えない……それに……知らない土地で生きるのは兄も困難だろうな」
そして、老婆は、ある考えを口にする。
「なあ、キャトルフ。私が残り、二人の面倒をみるか、二人を連れて行くか、どちらか選べ。話を聞けば、二人の両親は既に居ないとの事だ……まあ、選択の余地はないだろうがな」
悪戯に笑う老婆の表情は否定など有りはしないと言う確信に満ちた物であった。
「わかった。彼等の意見を尊重する」
キャトルフの言葉に老婆は笑った。
「思い出すねぇ、キャトルフ……アンタが私の家に転がり込んで来た時は本当に驚いたもんさ」
過去を懐かしむようにそう語る老婆に顔を背けるキャトルフ。
「その話は後だ……それに……そうなれば、先ずは【シスイ】から一緒に連れ出す為に用意をしないとな」
何もなかった兄妹の家に笑顔が生まれ、流れていた重たい空気は消え去っていた。
その間、別行動をしていた二人の団員が戻ってくる。
「キャトルフ団長、お話が……」
「わかった、直ぐにいく」




